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クロウという男2

「ネクロマンサーの捕縛、ですか?つまり、その者が何か犯罪行為をしたということですか?」

「いえ、特に何もありません。しかし、死霊術師という存在そのものが許されないのです」


 グレイは首を傾げる。


「この国では死霊術は褒められた行為ではありませんが、国が認めた職業の1つのはずですが?」


 グレイの質問にクロウは笑みを浮かべながら頷く。


「そのとおりです。しかし、我々聖務院にとっては人々の信仰を揺るがしかねない者として排除する必要があるのですよ」


 イザベラの目がグレイに向く。


「だからこそクロウの出番ですの。そして、その手伝いを貴方の分隊に任せたいのです」

「どうでしょう?多少汚い裏仕事ですが、これも信仰を守るためです、引き受けてくれませんか?」


 クロウの問いにグレイは背筋を伸ばす。


「命令が下されれば否やはありません」


 グレイの返答にクロウは初めて表情を変え、笑みが消えた。

 意外そうな表情だ。


「真面目なタイプですから拒否すると思いましたが、意外ですね」


 グレイは肩を竦める。


「ご存知のことと思いますが、私は信仰を持っていません。よって、信仰を守るとか何とかには興味はありませんが、任務としての命令ならば受命します。そのネクロマンサーを捕らえて貴方に引き渡せばいいのですね?」


 淡々と、それでいて真っ直ぐに答えるグレイを見てクロウは諦めたように首を振った。


「・・・止めました。貴方に頼んでも面白いことにはならなそうです。他の分隊に頼むことにしましょう」


 急に話しを覆したクロウはグレイに興味を失ったかのように退室を促した。 

 グレイにしてもこのような任務は全く乗り気ではなかったので、これ幸いとクロウとイザベラに敬礼してさっさと退室していく。


 部屋に残ったのはクロウとイザベラ。

 

「お気に召しませんでしたの?」


 呆れたようにクロウに声を掛けるイザベラ。

 クロウは肩を竦める。


「気に入ったかどうかと問われれば、とても気に入りました。面白いのを引っ張ってきましたね。でも、今回の任務に限ってみれば駄目ですね」

「どういうことですの?」

「彼は軍人として優秀過ぎます。今回の任務を任せれば淡々と任務を遂行してくれるでしょう。でも、それだけで、それ以上の面白いことは望めないでしょう。今回の任務に必要なのは信仰厚く、背信行為を許せず、蛇蝎のように憎んでいるような者で、彼とは別のタイプの真面目な人間なんですよ」

「そうでしたの。期待に沿えなくて残念ですわ」


 面白くなさそうなイザベラだが、クロウは何かを企んでいるかのような笑みを浮かべる。


「そんなことはありません。彼は彼で任せたい仕事は幾らでもあります」

「なら良かったですの。でも彼に先に目を付けたのは私ですのよ。私もグレイに任せたい仕事がありますの。邪魔だけはしないでくださいまし」

「それはもう。貴女の仕事の合間に貸していただければ十分ですよ」


 クロウの返答を聞いたイザベラは満足げに部屋から出て行った。

 1人残されたクロウ。


「神を信じない神官戦士ですか・・・。長い付き合いになりそうですね」


 誰もいない室内で不敵に笑っていた。

 

 詰所に戻ったグレイだが、直ぐにイザベラが後を追ってきた。


「貴方、せっかちですのね。クロウの話しが終わったらさっさと帰ってしまうなんて。私、まだ貴方に用件がありましたのよ!」


 ふくれっ面でグレイを非難するイザベラ、周りでは分隊員や他の部隊の隊員達が驚きの表情で遠巻きに見ている。

 聖騎士イザベラがたかだか聖監察兵団の分隊長に向かって拗ねたような様子で詰め寄っている。

 周りで見ている隊員にしてみれば信じられない光景なのだろう。

 

「失礼しました。てっきり用件が終了したと思いました」

「そんなことはありませんのよ。クロウの仕事を受けないのならば、私の仕事をお願いしますの」


 グレイはイザベラに責め立てられながら

(なんでこの人はこんな変な言葉使いなんだ?)

等と余計なことを考えていた。


「また何か考えまして?」

「いえ・・」


 言葉使いはともかくイザベラは鋭い感性の持ち主だ。

 もっともそうでなければ聖騎士など務まらないのであろう。


 その後、イザベラはグレイを詰所の会議室に連れてきた。

 与えられる任務が秘匿性の高いものなのだろう。

 会議室に入ったイザベラは真剣な表情を見せた。


「貴方の分隊には邪教団の隠れ家の強制立ち入りをお願いします」

「邪教団ですか?」

「そう、悪魔信仰の邪教団です。悪魔信仰自体は唾棄すべき背信行為ですが、先のネクロマンサー同様に別に違法ではありませんの。ただ、ご多分に漏れずその教団は若い娘を生け贄に捧げる儀式を行おうとしていますの。これはれっきとした犯罪行為、宗教犯罪ですの。」


 グレイは黙って頷く。


「場所は森の都市の貧民街の奥、教団の規模は数十人程度、当然に武装してますの。奴等は既に生け贄となる若い娘を誘拐して監禁してます。生け贄の儀式は次の新月ですから10日後です。一網打尽にして捕らわれの娘を救出したいのですけど、何か妙案はあります?」


 イザベラからの情報を受けて少し思案したグレイは口を開いた。


「生け贄の儀式の最中に急襲するのが効果的です。儀式とあれば構成員が集結しているでしょう。上手くやれば被害者を救出して教団を一網打尽にできます」

「なるほど。でも、それまで生け贄の娘を放置するんですの?」

「それについては問題ないと思います。神だか悪魔だか知りませんが、それに捧げる生け贄ですから健康な処女が相場です。訳の分からんものに命を捧げる巫女なのですから、儀式の日までは丁重に扱われるでしょう」


 グレイの言葉を聞いたイザベラは笑いながら満足げに頷いた。


「さすがは私が見込んだ男ですのね。よろしい、この件は貴方の分隊にお任せしますの。といっても、隊員の入れ替えがあったばかりで心許ないでしょう。森の都市の冒険者ギルドと衛士隊に話しをつけておきますので共同で当たってください」

「受命します!」


 イザベラの命を受けたグレイは敬礼して会議室を出ていった。

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