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クロウという男1

 グレイ達の分隊はゴブリンの群れを殲滅して村に戻ってきた。

 これで今回の任務は完了である。

 ライラとシルビアはここで別れて水の都市に戻るそうだ。

 聞けばこれからも冒険者を続けていくらしく、実力は半人前だが、気持ちは折れていないらしい。

 グレイ達やエミリアに何度も礼を言い残して水の都市に帰っていった。

 

 任務完了といってもそのことを報告するまでは終わりではない。

 直ぐにグレイ達も王都に帰還することにする。

 今回はエミリアが聖務院に支援要請をし、対応可能だったグレイの分隊が対処したため、冒険者に依頼をするような費用は発生しない。

 これは非常に稀なケースであり、様々な任務に当たる軍や衛士隊はもちろん聖監察兵団もそうだが、全ての問題に対処することができない。

 そこで人々は費用を捻出して冒険者に依頼を出すのである。

 因みに、グレイ達も軍務に就いている立場のため、今回のような任務を遂行しても毎週支給される一定額の給金にちょっとした手当てが付く程度である。

 村の出口でグレイ達を見送るエミリア。

 

「この度は支援に来ていただいて本当にありがとうございました。思いがけず大掛かりなことになってしまいましたが、皆さんが来てくださらなかったら取り返しのつかない被害を被るところでした」

 

 丁寧に礼を述べていたエミリアだが、何か迷いを感じているようで、その様子はどこかぎこちなかった。 


 王都に帰還したグレイ達は聖監察兵団の詰所での報告を終え、3日間の休暇を与えられたが、その間にフリッツ以外の3人の隊員が転属となり、新しく新兵3人が配属されてきた。

 隊員が突然転属すること自体はいつものことだが、3人の隊員が一度に転属し、新兵ばかりが配属されてきたのは初めてのことである。

 休暇が明けて新兵の訓練を行っていたグレイは聖務院に出頭命令を受けた。

 通常の任務下命ならば聖監察兵団の詰所で受けるのだが、今回は聖務院に出頭である。


(ろくな命令ではないだろうな)


 待たされた一室で口に出すことなく考えていると、室内にイサベラが入ってきた。

 聖騎士の装束でなく優雅なドレスにサーベルを帯びている。


「貴方の活躍は聞いておりますのよ。流石に私が見込んだ方ですのね」

「恐縮です」

 

 笑顔で話すイサベラに対してグレイは直立、敬礼で返した。

 軍の位でいえば一介の下士官と上級士官程の開きがある。

 そもそも、聖監察兵団の分隊長風情が聖騎士団の騎士と直接会話をする機会などほとんど無い。

 しかし、イサベラはそんなことは気にしていない様子だ。


「貴方が優秀な兵を育てて送り出してくれまして、その兵達の力を各部隊で還元してくれているので監察兵団の能力向上も順調ですの」

「そうですか」


 イサベラはグレイを評価してくれているようだが、グレイは警戒を解かない。

 イサベラが話していることについては、そもそもグレイはそれが目的で転属してきたので、与えられた任務を遂行しているだけだ。 

 その評価のためにわざわざ聖務院に呼び出すなんて考えられない。

 直立のままで表情の硬いグレイの様子にイザベラは肩を竦めて笑う。


「レディに向かってそんな恐い表情を向けないでください」

(レディ・・・ね。そちらの方がよほど恐ろしいけどな)

「今、何か失礼なことを考えまして?」

「いえ」

「まあいいですわ。今日貴方を呼んだのは私ではありませんの。ある人からある任務に適任な人材がいないかと聞かれて貴方を推薦しただけですのよ」

(それは貴女が呼んだようなものだろうに)

「何か?」

「いえ・・・」


 グレイは全く表情に出していない筈なのに、イザベラはグレイの心境を読み取ってくる。

 グレイは余計なことを考えるのを止めた。


「ごまかしが下手ですわね。結構です。今からある男に会ってもらいます。ついて来てください」

 

 イザベラはグレイを伴って聖務院本庁舎内を移動するが、向かったのは様々な部所の事務室や役人達の執務室ではない。 

 食堂を通過して調理室を抜けた先にある小部屋。

 まるで倉庫のような扉の先にその男はいた。

 そんな所にあるとは余程特殊な部所なのだろう、室内には執務机が置かれているだけで資料の類も置かれていない。

 その執務机にいた男はにこやかにグレイに声を掛けてきた。


「すみませんね、こんなところにお呼び立てしまして。私はクロウと申します」


 聖務院の制服でもなければ神官服でもない、平服姿のその男はクロウと名乗った。

 穏やかな笑顔に優しそうな視線、どこの組織にもいる裏仕事を担う立場の者が纏う雰囲気、一平民そのもので、町中にいればその存在すら気づかれない特殊な存在感。 

 ただ、ここは町中ではなく聖務院の隠し部屋。

 このような場にいれば逆に違和感の塊である。


「そんなに警戒しなくても結構ですよ。お察しのとおり私はある特殊な仕事を担っています。私の名も偽名ですし、私の仕事も・・」

「結構です。任務に必要な情報以外は聞きたくもありません」


 グレイがクロウの言葉を遮るとクロウは満足そうに頷いた。


「素晴らしい。根っからの軍人ですね。私情を捨てて任務を遂行できるタイプです」


 勝手に評価する言葉をグレイは直立のまま聞いていたが、横で聞いていたイザベラが痺れを切らした。


「クロウ!グレイに早く用件を伝えてあげてくださいません?」


 それを聞いたクロウは苦笑した。


「ああ、すみません。つい面白くてね。それでは本題です。グレイ分隊長にはある背徳者の捕縛を手伝ってもらいたいのです」


 グレイは黙ってクロウの説明を聞く。


「風の都市の冒険者。死霊術師、ネクロマンサーの捕縛です」

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