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国境警備隊のグレイ

 職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~の外伝です。

 直ぐに完結するか、長くなるかは全く未定ですが、覗いていただけると嬉しく思います。

 グレイはアイラス王国の水の都市の孤児院で育った若者である。

 赤ん坊のころに孤児院の前に置き去りにされていた彼は本名はおろか、果たして名付けをされていたのかも分からない。

 彼を育てた孤児院を運営する老夫婦がつけたグレイが彼の名である。

 当然ながら正確な年齢は分からないが、孤児院に引き取られて15年が経ち、自らの意思で孤児院を出て自立することを決めた。

 幼きころから都市の鍛冶屋や都市のはずれにある牧場での手伝いなどで孤児院の運営を手助けしてきたが、孤児院で共に生活する幼い子供達のためのことを考えて口減らしのために自立することを決めた。

 

 自らの力で生きていくため、そして、育ててもらった孤児院に恩を返すためには職を得なければならないが、あてもなければ伝手もないグレイに選択肢は無いに等しかった。

 

 そこでグレイが選んだのは常に人手不足で新兵を募集している王国軍だった。

 新兵として王国軍に入隊し、新兵訓練を経て配属されたのは国境警備隊。

 国境警備隊員として辺境警備に当たり、国境や周辺の街や村を守るために魔物や盗賊との戦いに明け暮れる日々を生き延びたグレイは戦いの経験を積み重ね、更には元来の真面目な性格を評価され、軍隊に入って数年後には分隊長に昇格していた。


 分隊長として4人の隊員を率いていたグレイだが、とある任務において人生の転機が訪れた。

 その任務とは、辺境に出没した悪魔に攫われたシーグル教のシスターを救出するため、聖務院の部隊との共同作戦だった。

 国境警備隊1個中隊と聖騎士2名、聖務院監察兵団1個小隊が共同で当たった救出作戦だったが、討伐対象の悪魔が予想以上に強力であり、悪魔を討伐し、シスターの救出に成功した時には国境警備隊はグレイの分隊を除いて全滅、聖務院監察兵団の小隊も全滅し、生き残ったのは聖騎士2名とグレイの分隊5人だけであった。


 生き残ったといっても、グレイを含めた4人の隊員は大なり小なりの傷を負っており、実質的にはグレイの分隊も壊滅したといっても過言ではなかった。

 所属する部隊が壊滅し、任地には別の中隊が配置された。

 そんな中で上司である小隊長や中隊長を失った今、グレイは新たな任務が与えられることになり、王都の軍務省への出頭を命じられた。

 本来であれば一介の下士官でしかないグレイに対する命令を下すために軍務省に出頭を求められるなんてことはあり得ない。

 余程の事情があると覚悟を決めて軍務省に出頭したグレイはそこで思わぬ再会をすることになった。

 

 軍務省の一室に呼び出されたグレイの前には3人の人物。

 正面の執務机に座っているのは初対面の中年男性だが、軍務省の役人であろう。

 その役人の横に立つ2人にグレイは見覚えがあった。

 1人は司祭服を身に纏った巨漢の男。

 もう1人は女性であるが、優雅なドレスを着込んでいるが、その腰にはサーベルを帯びている。

 この2人は先の共同作戦で共に戦った聖騎士だった。

 本能的に嫌な予感に苛まれるもそれを押し殺して敬礼をしたグレイ。

 しかし、軍務省役人から彼に向けて発せられた命令はグレイを愕然とさせるに十分だった。


「国境警備隊所属、第8中隊第3小隊第2分隊長グレイ。国境警備隊所属の任を解き、聖務院聖監察兵団への転属を命じる」


 突然の転属命令。

 しかも聖務院聖監察兵団は聖務院隷下の軍組織ではあるが、正規軍ではなく、その任務は宗教犯罪の取締りが主であり、国からの特別な命令がない限りは基本的に軍事行動は行わない部隊であり、所属する隊員は例外なく神官戦士である。

 

 アイラス王国においては信仰の自由は保証されており、生贄等の犯罪行為を是とする邪教や他の宗教を弾圧や攻撃しない限りは何を信仰しようと個人の自由とされている。

 ただ、国民の大半が3神と呼ばれる慈愛神シーグル、知識神イフエール、武神トルシアの何れかを信仰しており、国の信仰を取りまとめる機関である聖務院もそれら3神教の信徒により運営されているのだ。

 当然ながら聖務院隷下の聖騎士団や聖監察兵団も何れかの神を信仰している信徒で編成されている。


 突然の命令に直立したまま返答出来ずにいるグレイにドレスを着た聖騎士が説明する。


「先の悪魔との戦いで貴方の戦いを見せてもらいましたの。あれだけ激しい戦いの矢面に立ちながら分隊員を生還させた貴方の分隊指揮能力には目を見張るものがありました。そこで、貴方の力を聖監察兵団で発揮してもらいたくて、無理を通して転属してもらおうと軍務省にお願いしましたの」


 変な口調の聖騎士に続き、巨漢の聖騎士が口を開く。


「聖監察兵団も聖務院の精鋭と自負しておるが、その任務の性質から実戦経験の不足が問題視されておる。そこで貴殿に白羽の矢が立ったのだ」


 2人の聖騎士の説明を無言で頷きながら聞いている目の前の役人の様子からも今回の辞令が既に決定事項であることを物語っている。

 そもそも、地方部隊の一介の下士官に過ぎないグレイに命令を拒否するという選択肢はない。


 しかし、グレイは下された命令に即答することが出来なかった。

 その理由は入隊時に提出した自分の身分表にも記載してあるはずだ。


 聖務院聖監察兵団への転属命令を受けたグレイは信仰を持っていない、そもそも神を信じていないのである。

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