イライ
1人の男が壁に寄り掛かっている。
下を向く姿はどこか落ち着いていた。
焦りも見せない彼の後ろを1台の車が通る。
感じるのは冷たい風だろうか。
交差する足と腕はびくともしない。
季節外れだ。
きっと心配になる人はそう思うのだろう。
そろそろだろうか。
スマホのライトが遠くの方で光っている。
駆け足でこちらに近付いてくる。
暖かく冷たい。
やるか。
「あ、あの……」
引っ込むような声で話し掛ける。
分からない。
けど、言われた通り。
「えっと……、あなた……ですか?」
不安で一杯だった。
分からないの。
男は体を起こし、どこか下を見ながら
「そうだ」
そう答えた。
良かった。
「あの……友人に、い……言われて……来たんですが」
おどおどしながらも必死に声を掛ける。
少しして、ようやく反応したかのようにこちらに向き直る。
「えっと……い、一体どうしたら……」
いつも通り声に出す。
彼は彼女に向かって2回人差し指を揺らした。
彼女はゆっくりと近付き、彼は勢いよく彼女の傍に近付き手を握る。
反射する光の中、1つの電灯の光を浴びて2人は静かに止まる画像となった。
ひぇっ。
突然の出来事だった。
一瞬頭の中が真っ白になる。
「と、突然どうしたんですか!?」
口から漏れ流れる驚きだった。
「それやるよ」
男が離れ際に言う。
いつの間にか手の上には小さな箱があった。
「これは一体何ですか?」
疑問に思い、問いかける。
「ケーキだよ」
男は少しにこやかに言った。
「あ……」
「ありがとうございます!」
お礼を言うと、男は去っていった。
「じゃあ、さよなら」
男は最後にそう言い放った。
何故だかスッキリした。
でも、一体何だったんだろう。
この地を去り後始末を終えたら帰るか。
下を向きながらぞろぞろと歩いていく。
そしてまた1つ、良い記録が増えたなぁ。
知らない内に今日も世界のどこかで蠢いている。