第95話決戦6
「ホープどういうこと?」
美月ちゃんの声はやけに静かだった。
既にほとんど戦争になっているし、仮に声を荒げても私の考えが変わらないことをわかってのことだろう。
「時間があんまりないから早くしてほしいな?敵のスピードとこちらの部隊の位置関係の結果、ここでやりあうしかなくなったからさ?この街はじきに火の海になる。だからその前に早く避難…」
私の言葉は最後まで続かなかった。
「私はいいけどお母さん華音たちはっ!?」
先に声を荒げた美月ちゃんにそう叫ばれたからだ。
美月ちゃんは優しいから、自分よりも他人の心配をする…
私はそんな美月ちゃんが好きだけれど今は言う通りにしてほしい…
私は思った。
「…とりあえずそっちはこれから一番優先度が低い策にあたらせてるガスポートに向かわせるから…攻撃開始にはちょっと間に合わないけど…」
その時美月の中で何かがキレた。
「いるでしょーがっ!!ここで指示してるだけでまだ全く動いていないホープがっ!!ホープならこの街を丸ごと守るのも簡単でしょっ!?」
私は美月の金切り声に一瞬たじろぐが、すぐに冷静になる。
ここで引いてはダメだ。
「…悪いけどそれはできないよ…そりゃ私自身が動けばこの状況からでもこの街を死守した上で、戦況をひっくり返すのは、造作もないことだよ。たぶん、一時間もすればマリアは磁場にやられてお陀仏だ。でも私はここを動くわけにはいかない…いわば私は最後の切り札だ。ガスポート…アルファ…ベータ…全員の作戦が失敗したとしても、私1人いればどんな状況でも跳ね返せる…だから…」
「そんなの関係ないっ!!私のことはいいからみんなを助けてっ!!お願いっ!!」
「悪いけど無理だよ」
私はきっぱりとそう断った。
ついに美月ちゃんは泣き出してしまった。
かなり良心が痛いが、そんなことで目的を見失っては本末転倒だ。
〜
僅かな時間泣いていた美月ちゃんだが、すぐに私をキッと睨みつける…
それを見て私は確信した。
美月ちゃんは一番してほしくない方向に覚悟を決めたのだ。
「…自殺?悪いけど全力で止めるよ?」
「それでもいいよ…何度でもやってやる…」
うん…本当に最悪だ。
ここで私がもう一度拒否すれば、言葉通り美月ちゃんは何度だって自殺を試みるだろう…
仮に100回止めたとしても、美月ちゃんは101回目の自殺を試みるだけだ。
そして、その時に華音や美月ちゃんの家族が死んでいたら私は物理的な方法以外で美月ちゃんを止める手立てはない。
そんなのは美月ちゃんを救ったとは言えない…
「…この家にいる美月ちゃんのお母さんぐらいなら助けるのは可能だよ…それで手を…」
「…無理。みんな助けて。ホープならできるでしょ」
美月ちゃんの意思は堅い…
そして…
ついに私は折れた…
「…わかった…そのかわり絶対にシェルターには入るんだよ!!どんなことがあっても絶対に出ちゃダメだよ!!それが華音達を…この街を守るにあたっての私の最低条件だよっ!!いいねっ!?」
「ありがとうっ!!」
強い口調で言った私に対して美月ちゃんは泣きながら抱きついた。
この時…この瞬間の選択を私は後にどれほど後悔したことだろう…
ついに運命の歯車は取り返しのつかないところにまできてしまっていた…