第78話BBQ
微睡む私の鼻腔に肉の焼ける美味しそうな香りが入ってくる…
まだ若干痛む頭を気にしながら私は覚醒する。
「おう。美月?起きたか?そろそろ肉焼けるぞ?」
トングを持ちながら私が起きたことに気づいた華音がそんなことを言う。
空は既に真っ暗だ。
屋上の下の階から伸びた電工ドラム二つが、野外ライトに繋がっていて、灯を確保している。
「…BBQ?」
寝ぼけた頭で私はそう聞いた。
「はい。美月先輩が夕方になってもまだ寝ていたので、みんなで話し合った結果、ここでBBQにしないかって華音さんが…」
昼間とは違ってハキハキと話す莉奈がそう言った。
昨日のことがあって華音にもだいぶ気を使わせてしまった。
よし。
切り替えよう。
ヤクザの最高幹部になっちゃったのはもう仕方がない。
そしてマリアは殺す。
でも今はみんなといるこの時間を大切にしたい。
「華音ありがと…」
「ありがとうじゃねーよっ!!さっさと来いよっ!!肉が焦げちまうだろーがっ!!」
「!?っごめんっ!?」
お礼を言おうとした私に華音の怒鳴り声が飛んできて、私は慌てて駆け出す。
「じゃ〜未亜もいただきます〜」
「おいっ!!それじゃねー!!それはまだ半生だろ?腹壊すぞ?」
未亜が取ろうとした肉をすっかり焼肉奉行と化している華音が奪い返してBBQコンロに戻す。
私は華音が焼いてくれた肉を口に放り込む。
「あ、言い忘れてたわ。すまん、美月、ごちそうさま」
「「ごちそうさまです!!」」
一年、二年の声が揃う。
たぶんこの声は三年まで混じっている。
「えっ!?」
まさかとは思うが…私は慌てて財布を確認する。
うん…全部ある。
さすがに寝ている私からお金をとるなんてそんな酷いことをする人達じゃないのは知っているけど、ごちそうさまの言葉に焦ってしまった。
「あ、美月これはお釣りな?」
「はっ!?」
華音が無造作に渡してきたそれは札束だ。
それも一つではない。
銀行の帯封がついたものが4つ…
そして帯封がバラになってはいるが、それでもかなり分厚い一万円札の束が一つ…
「私は何もしてないよ?」
私の問いを予め予測していた九官鳥ホープがそんなことを言う。
「あ、お前寝てたもんな?西田が置いていったんだよ。今月の八代目北川組の今月の上納金の美月の分だってよ?最初だから調整で少ないのはすいませんって謝ってたぞ?」
華音は言った。
少ない?これが?
あ…そういえば私ヤクザだったわ…
この瞬間、私は本当の意味でヤクザになってしまったことを実感した。