第76話特別相談役2
華音がフリーズした。
だが、それはほんの一瞬で華音はすぐに口を開く。
「…くくっ、ちっとはお前の気持ちもわかったかも知れねーわ」
「でしょ?」
私は華音にそう相槌を打つ。
「だが、ウチはまあ、元々の性格かも知れねーが、そこまで嫌じゃねーぞ?」
言いながら華音は西田さんの車…いや、なんか西田さんが言うにはもはやこれは私の車みたいだけど…
に乗り込む。
「そりゃ、華音はそうかも知れないけどさ…」
私達の会話を他所に車は走り出す…
「まあ、美月はどう思うかわからねーが、ウチ個人としては、ヤクザとはいえ、卒業してもお前と同じ就職先って部分だけは、気に入ってるんだぜ?」
言いながら華音は悪戯っ気に笑う。
そっか…ヤクザって深く考えるから変な感じになるのであって、華音と同じ職場に高待遇で就職したと思えば…
って騙されないよっ!!
「…私も華音といっしょに就職は嬉しいよ?………ヤクザじゃなければね?」
「くははははっ!!」
そんな私の答えに華音は腹を抱えて笑う。
笑い事ではない。
「まあ、なっちまったもんは仕方ねーよ。卒業しても仲良くやろーぜ?親友?」
「…こちらこそこれからもよろしく。私の親友の華音」
私と華音は目を合わせると笑みを浮かべる。
ヤクザの最高幹部になってしまったのは、正直最悪と言ってもいいかも知れないが、この唯一無二の親友と中学を卒業してからもいっしょになれたことだけは、よかったことと言えるだろう。
私と華音がそんな会話をしていた時だ。
「大姉御、姉御、着きました。少々お待ちください」
西田さんは車から降りて後部座席の扉を開ける…
校門どころか学校の玄関に横付けされた真っ白なベンツ…
先生も生徒も皆、何事かとこちらを見ている。
「…西田さん…ありがとうございます…」
さっさとこの羞恥プレイから脱出したかった私は特に西田さんの行動には何も言わずにお礼だけを言った。
今考えると寝不足で頭がボケていたとはいえ、それは失敗だった。
「いえ、大姉御が自分に敬称をつけるなど恐れ多いので、どうかおやめください。それから敬語も必要ありません。どうか、西田と…そうお呼び下さい」
「でも…」
「おい、美月。それ以上は…」
私と違って寝不足ではない華音は、この話の流れが私にとって最悪の方向に転がることが予想できたのだろう…
残念ながら間に合わなかったが…
「申し訳ございません!!自分でも八代目北川組、総本部特別相談役の谷村美月の大姉御に大変失礼なことを申し上げてのは百も承知ですが、自分もこのまま大姉御に気を使わせるような態度のままでは、ヤクザとして失格です!!どうか何卒お考え直しのほど、よろしくお願いします!!」
中学校の玄関の前で大声でそんなことを言いながら腰を90度に折り曲げるヤクザ…
はい…終わった…
私は思った。