第70話限界
部屋には現在、私と華音…そして自我を未だホープに預けている転校生の女の子が残されている。
「おい?美月?大丈夫か?」
華音は私を心配してか私にそう聞いた。
「…大丈夫じゃないよ…」
あの悪魔達がいない安心感からか、私の口からはつい本音が出た。
華音には悪いが大丈夫ではない。
私はほんの一年ぐらい前までは、いじめられてはいたが、普通の中学生女子だった。
それが、今はどうだ?
「なんでヤクザにさせられてんのっ!?華音代わってよっ!!」
私は叫んだ。
「…まあ、美月はそーいうの嫌いそうだしな?…姉御って呼んでもいいか?」
「…本当に怒るよ?」
「わりー、わりー、冗談だよ。んな睨むなって?」
華音は私を和ませようとこんな冗談を言ったんだろうが、今の私はそれを笑って許せるほど寛容ではない。
その時だ。
部屋にノックの音がする。
「あ?」
華音はドアの方に視線を送る…
ドアが開く。
「ご苦労様です。お話し中失礼します。大叔父貴から伺いました。美月の大姉御、この度は本部の特別相談役のご就任おめでとうございますっ!!この度は華音の父親としてではなく、三代目八神一家の組長としてご挨拶にと伺ったしだいでございます。我が娘ともども今後ともお引き立ての程…」
「うっ…うっ……うっ…」
私はついに泣き出した。
「空気読めやっ!!このクソ親父っ!!出てけっ!!」
華音の父親は最初華音に何か言おうとしたが、私の状況をみて顔を引き攣らせる。
「お取り込み中失礼しましたっ!!」
華音の父親は腰を90度に折り曲げて退室する…
この一年はめちゃくちゃだったが、ここ最近はさらにめちゃくちゃだった。
あんなのは喧嘩ではない。
殺し合いだ。
そんなことが続いて精神的にきてる私にトドメを刺したのは今回のヤクザ事件だ。
もういろいろといっぱいいっぱいだった私の涙腺は崩壊した。
「なんで…なんでこうなるの?…華音…」
私は華音の腕に抱かれながら泣いた。
「それは……すまん、ウチあんまりこういうの得意じゃねーぞ?」
わかってるよ…男勝りだけど友達には優しい私の親友はこういうのは不得意なことぐらい…
「…何も言わなくていいからそのままにして…」
それから私は時折背中をさすってくれる優しい華音に甘えて20分以上泣き腫らした。