第60話三島煌一2
〜道中〜
「つまり…その大叔父貴の妹とかいうのを追い返したら大叔父貴が来たと?」
「わかりやすく言うとそうだね。それから華音…頼みがあるんだけど……」
「そのマリアとか言うヤツに操られていたっていう転校生のことか?」
私と華音は学校に迎えに来た黒塗りのベンツの車内でそんな会話をする…
「うん…たぶんパニックになっちゃうと思うから場所を…」
「んなことより自分の心配しろやっ!!」
いきなり声を荒げた華音に私は目を見開く…
「…妹の三島莉緒那ってヤツはウチは知らねーが、大叔父貴はマジでやべーぞ?………親父の話じゃ素手で頭蓋骨を握り潰しただとか、銃弾を金属バットで打ち返して逆に相手を殺しただとか、ふざけた話ばかりなんだぞ?…美月!!約束しろ!!絶対に死ぬんじゃねーぞっ!!」
華音は私の目を真っ直ぐ見てそう言った。
本当は逃げるべきなのかも知れない…いや、そんな化け物みたいな存在から逃げ切れるはずなんてない。
仮に逃げられたにしても、華音や私の周りの人達に迷惑がかかる…
私の選択は決まっていた。
「…うん、そのかわり華音も、無茶したら許さないからね?」
そんな私の言葉に華音は口元に笑みを浮かべる…
「…マジで一年前のお前からは想像もつかねーな?ウチはお前のダチになれたことを誇りに思うぜ?」
「いや、死亡フラグ立てないでくれない?」
〜
そんな私のツッコミからしばらくして、車は和風のお屋敷とも言えるような豪邸にたどり着く…
中には入ったことはないが、華音の実家だ。
八代目北川組、直参、三代目八神一家組長宅…
まさか中に入る日が来るなんて思っていなかった。
運転士の男が車から降りて後部座席のドアを開ける…
ヤクザの間では目上の人物にはこうするらしい。
まあ、私は特に関係ないだろうが、華音がいるからだろ…
『本家の組長の兄貴分の客人が目上じゃないわけないでしょ?』
ホープの声が頭に響く。
〜
私達は90度に腰を折るヤクザの人垣を抜ける…
そこにいたのは、二人の人物…
一人は立っていて、もう一人は机に足を投げ出した状態でタバコを吹かしている…
立っている方は一応挨拶ぐらいはしたことがある。
40代程度の強面の見るからにそっちの方面の人物だ。
華音の父親で三代目八神一家の組長…
強面で前にあった時は威厳と自信に満ち溢れていたその顔は今は緊張が支配している…
そしてもう一人…タバコを吹かすその人物…
見るだけでビリビリ来る様な…殺気って言うのかな?
ギラギラ輝いた瞳は視線だけで人を殺せそうだ。
見た目の年齢は60歳ぐらいだろうか?
『三島煌一は今年で91歳だよ』
ホープからの信じられない言葉が脳内に響いた時だ。
「くくっ…莉緒那がしくじったって言うから来てみればガキじゃねーかよ?」
その恐ろしい人物…三島煌一は口元に笑みを浮かべながら言ったのだった。