第49話三島莉緒那2
「ガスポート?ロシアが開発してる模倣型人工知能のこと?………あのバカはバカのくせにそんなもんにまで手を出したの?…バカなのに…」
三島莉緒那は話の内容から察すると同時に呆れながらそう言った。
ガスポートの情報は最重要機密だが、三島莉緒那はそれぐらいの情報を得れる立ち位置にいた。
「…たしかに兄貴の頭はちょっとアレかも知れないが、そんなにバカバカ言うなよ?あれでもあの人はすごい人なんだぞ?腕っ節だけであそこまで成り上がったんだからな?」
今や兄である煌一は、世界の中枢にまで根を張る闇のフィクサーだ。
本郷龍二の言う通り、本当にあと50年も生きるなら世界征服だって可能かも知れない。
だが…
「…アイツだけじゃ無理でしょ?あんたが…龍兄が近くにいたからこその今があるわけでしょ」
「俺の代わりなんかいくらでもいるが、あの人の代わりはいねーよ。莉緒ちゃんの代わりもたぶんいねーけどな?」
謙遜というわけでもないだろうが、本郷龍二はそう言った。
「あたしはもうダメよ…最近思考がボヤけるの…経験からの先読みは今でもできるけど、昔のあたしはもういないわよ…」
「それでも俺より莉緒ちゃんの方が100倍マシだろ?まあ、こんな爺さんに言われても嬉しくもねーかも知れないがな?」
「龍兄が爺さんなら、あたしは婆さんよ。で?ガスポートに手を出したのは、さすがにアイツの考えじゃなくて、龍兄の考えなんでしょ?…何か問題?………いくらあれば揉み消せるの?」
三島莉緒那は本郷龍二のお世辞をそう返しつつ、話を本題に戻す。
「…すまんすまん。つい昔の調子で話しちまった。昔の莉緒ちゃんなら俺が話さなくても、まるで頭の中を見透かされてるみたいに、的確な答えが返ってきたもんだからよ?」
「…それだけ耄碌したのよ。認めたくないけどね?」
「俺も人のことは言えねーよ。じゃー、言うぞ?ホープって知ってるか?」
一瞬の間…三島莉緒那は考える素振りをしたあとに口を開く…
「…破壊されたって話はガセだったか…。ここからは推察だけど、アメリカもホープ確保に動き出したってとこ?」
「耄碌なんて嘘だろ?これだけの情報で、そこまで話を読めるのは莉緒ちゃんぐらいだぞ?アメリカ…つまりマリアは最初はホープを破壊しようとしたが、失敗したらしい。まあ、性能のレベルが違うからな?マリアは今は大人しくしているらしいが、たぶん水面下で動いてるんだろうな?ホープやマリアがいたらガスポートで世界をとるのは難しい。この仕事は莉緒ちゃん以外には頼めねーよ」
三島莉緒那はため息を吐く。
「…ホープとマリアを奪ってくる…もしくは破壊しろと?」
「ああ、兄貴からの伝言は『二人で世界をとろうぜ?』だそうだ」
本郷龍二のその言葉のあと、しばらくの沈黙が支配する…
そして…
「………やるわよ。ただし二つ条件があるわ。一つはあたしの望む報酬を差し出すこと。もう一つは協力…いや、もはやこんなものは一方的な搾取ね…。もうこれっきりにして?この条件を飲まないならこの話はお断り」
三島莉緒那は86歳の老婆とは思えない強い眼差しで本郷龍二を見据えると言った。
それに対し…
「莉緒ちゃん、感謝するぜ?兄貴に代わって礼を言う」
本郷龍二は深々と頭を下げる。
これが今から約3ヶ月前の出来事である。




