第10話華音との登校
私と華音は学校に向けて歩き出す。
「まあ、たまには歩くのも悪くねえか。学校は行く時はだいたい1人だから単車か車だったしな?」
歩きながら華音はそんなことを言った。
ん?
華音も私と同じで友達があんまり…
いや、昨日の集まった学校中のヤンキー達を見る限りそんなことはない。
「みんなは?」
私は思わずそう聞き返した。
それに対し華音は若干呆れた顔になる。
「…アイツらがまともな時間に来ると思ってるのか?」
「あー…」
私は妙に納得した。
毎晩アレではまともな時間に登校している華音の方が異常である。
「おい?誤解するんじゃねーぞ?さすがに毎日アレはやんねーよ。アレは美月、お前の歓迎会だから特別だ」
私はホッと息を撫で下ろした。
毎晩アレでは体がもたない。
「普段は日付が変わる頃にはみんな帰るからな?」
うん…訂正…
〜
華音と歩いている私を見ると、他の生徒は一瞬ギョッとした顔になってからすぐに目を逸らす。
コソコソと何か会話をしているようだが、さすがに言葉までは聞き取れないか…
『「え?なんで美月と八神さんが?」「ヤバくない?私達があの子にしたことが八神さんの耳に入ったらタダじゃ済まなくない?」「ハイエース…レ◯プ…丸坊主…嫌…嫌…嫌…」』
ホープが事細かに会話の内容をスマホの画面に打ち出す…
ちなみに最後の子は学校とは逆方向に走り出した。
『まあ自業自得でしょ?』
ホープはそんなことを言うが、聞かなくてよかった…
私のイジメの主犯格は全員無惨な姿になってしまったが、関与はしているけど主犯ではない生徒はまだ生き残っているし、かなりの数がいる。
そうこうしているうちに私達は学校までたどり着く…
〜
「!?っ、おはよう」
「おはようございます」
華音と一緒に登校してきた私に先生も一瞬ギョッとした顔をしてからの挨拶に私はそう返した。
ちなみに先生の挨拶に華音は完全に無視である。
登校した華音はそのまま教室を…素通りして屋上に向かおうとする…
私は教室の前で立ち止まる。
「あ?来ねーのか?まあまだ誰も来てねーか。久々にウチも顔出すか」
私達が教室の扉を開けると今までガヤガヤと賑わっていた教室が一瞬で静まりかえる。
みんな私達の姿…いや、正確には華音の姿を見てギョッとしている。
「おい、そこの………美月?コイツ誰だっけ?」
「萌だよ」
金原萌…
華音に指名されたその子はオドオドと他に助けを求めるような視線を向けるが、みんな知らないフリをする。
私がいじめられてた時も最初はそうだった。
途中からはクラスのほとんどが関与してたのは別の話だ。
まあ萌もその1人である。
「朝飯食ってねーんだよ。サンドイッチとコーヒー買ってこい。サンドイッチはトマトが入ってるヤツな?コーヒーはブラックだぞ?美月は…朝飯食ったか?」
「食べたけど…華音はブラック党なんだね」
目の前の弱肉強食の縮図から目を逸らしたく、私はそう話題を変えようとするが…
「美月は違うのか?まあいいや。じゃーカフェオレと適当菓子も追加で買ってこい」
華音はポケットから万札を取り出すと放り投げる…
「10分以内に買ってこい。1秒でも遅れたら殺すぞ?」
「はっはいっ!!」
萌は真っ青な顔で万札を拾うと走り出す。
私は自分の席に座ろうとしたところで止まる…
あ、これ華音に見られたらマズイヤツだ。
私の机は彫刻刀で刻み込まれた、見るに絶えない罵詈雑言の嵐が書かれたものだからだ。
教室中から私に対する哀願するような視線は決して気のせいではない。