襲撃者
「あれか……」
背の高い草に隠れてじっと機会をうかがこと一時間、目標の輸送隊が見えてきた。馬車が三台、その周りには馬に乗った商会の人間たちがいる。見る限り武装は剣や弓、最初の奇襲でどれだけ落馬させられるかで後がどうなるか変わる。
「仕掛ける、お前たちは片付いてから出てこい」
万一仕留め損なったときのためにフードで顔はしっかりと隠している。
「あのスコールさん」
「なんだ」
「その、後ろの……」
ユキが怯えながら目を向ける先には黒い毛並みの狼を先頭に、たくさんの狼が伏せている。
「刺激しなけりゃ大丈夫だ」
近づいて来た黒い狼がスコールの顔を舐める。
「こら……」
すぐに飛び出せる体勢を取って、狼の背に手を置いて馬車との距離がさらに縮まるまで押さえる。この雌狼は最初に手懐けたやつだが、普段は大人しいが狩りとなると押さえておかないと先走りすぎる。
「…………行け」
手を離し軽く背を叩く。
それを合図に群狼が飛び出し、スコールもそれに紛れて低い姿勢で仕掛ける。
「狼だ――」
叫ぶ見張りの喉に狼が食らいつき、馬から引きずり下ろす。そして続く狼たちが馬の喉に食らいついて息の根を止め、すぐさま次へと襲いかかる。
あっという間だった。勇敢な声を上げることが出来たのは最初の一人だけだった、あとは悲鳴と痛みに泣き叫ぶ情けない声ばかり。馬車の周り囲む見張りはすべてが息絶え、御者も逃げだそうとしたらしいが馬車から降りたところを脚に食い付かれ倒れ首を噛まれる。
「食い応えのない……いや」
ギャンと狼の鳴き声に振り向けば、最後尾の馬車の影から一頭飛ばされた。
「ただの狼の群れ、じゃないな。お前か、野獣使い」
「どっかで……あぁ、あの時の、センタクスの雇われか」
しばらくぶりに会う相手だった。少し前の戦争では助けてもらう形になったが、今回はその恩で見逃す……なんてことはしない。アレはアレ、コレはコレ。
「その声スコールなのか」
「あの時は助かった。それじゃあさようなら」
ナイフ片手に斬りかかり、猛烈な風に押し返された。飛んでくる砂に目を閉じると、その隙に懐に小柄な影が飛び込んできて、脇腹から赤い染みが広がった。
「アハッ、それで二十階梯? よっわー」
痛みなど感じない。刺された? それがどうした、その程度は経験済みだ。
「って、なんで」
「いいか、確実に殺してから警戒を解け。刺してからすぐに解いたら、それは殺されることに繋がる」
スコールは刺した少女の腕を掴み、逃げられなくしたところで狼を食い付かせた。
「痛い痛い痛い!」
「さて、もう一人か」
狼に引きずられて草むらの中に消えた少女など気にせず、再び斬りかかる。
「テメッ、アーヴェ!」
「後ろも気にしろ」
ヴェントに攻撃を仕掛け、風に押し返されながらも馬車に狼が飛び乗って桃色の魔法使いを引きずり落とし、次々に狼が飛びかかる。
悲鳴は一瞬で消えた。
「シンティ――」
「終わりだ!」
風が乱れた、それを感じたときには肩にナイフが突き刺さっていた。
「なん、で」
刺された途端に力が抜ける。ショック症状? そんなことはない、戦争に飛び込んできた以上そういうのには慣れている。
「まだ……風よ、我に」
絞り出すような声で、風に呼びかける。静かに渦巻いた風は一気に膨れあがり竜巻となって辺りを空へと巻き上げた。




