風二導カレタ出会イ
気温が上がり、毎日汗をかく日々が続いている。空を飛んでいれば涼しそうに思えるが、服を突き抜けて肌を焼きに来る日差しはとても強く、寒いのに日焼けしそうなほど痛くて暑い。
「縁が切れた」
青い少女、レイアがぽつりと言った。
「また死んだのか、ペルソナは」
レイアを抱えて空を飛ぶスコールが、おおよその方角へと目を向ける。グランバルの中央軍が突如として東部の国を襲撃、王族も国民も容赦なく惨殺するなかで命からがら逃げ出した王女に罪を着せ、口封じに掛かった事件……と、報告では聞いている。理由ははっきりしていた、セントラとセンタクスが戦争をしてまで奪い合った〝神殿〟に保管されていた〝魔石〟だ。それと同じものが他にも四つほどある、それを狙ったのだ。現に、その〝魔石〟を強引に目覚めさせたときに発生する制御不可能な莫大な魔力が黒い靄となって大陸東部を覆っている。大陸中央の〝神殿〟の連中はその制御のために少女を一人、強奪して組み込んだ。
「チーナと一緒にね」
「誰だ」
「王女様。あ、それと……あの兵士、あいつも死んだよ」
「兵士……レクトか」
黒い靄に包まれた場所から視線を動かしていくと、川に沿って茶色の範囲が広がっている。ペルソナが何か撒いたのだろうか。
「そうそう、たぶんそんな名前だった」
「ついでに、ヴェントってやつはサーチできるか」
「ちょっと待ってね」
青い輪っかが広がり、地上に向かって魔力波を飛ばす。ほんの数秒して、レイアが口を開いた。
「瀕死で転がってるね、様子見る限り奴隷商相手に喧嘩売ったみたいだけど」
「へぇ、そんな連中に負けるとは、期待外れだな」
「相手の傭兵が結構強かったみたい。あ、なるほど」
「なにが、なるほど、なんだ」
「ピンク色の魔法使いがいる。お腹が膨らんでる、赤ちゃんいるね。人のじゃない、魔物かな、精神的には死んでるから、使えなさそうな感じかな」
「なるほど、な。ヴェントなら、激情してやりそうだ、強い相手に喧嘩売って返り討ち、あり得るな」
戦力として連れて行きたかった連中ではあったが、ダメなら仕方がない。
「そう言えば、スコールがエッチした女の子いたじゃん。あの子は」
「生きてると思う」
「なんで」
「なんとなく、だな」
「ふぅん……」
「なんだよ」
「わたしもそんなふうに思われたい」
「思いたくねえよ」
「どうして!」
「叫ぶなよ……お前は絶対に守る。だから、なんとなく、とか言いたくない。絶対に生きている、だな、言うとすれば」
「そっかぁー。ねえ、答え合わせしに行く?」
「生きてるからな、会いに行こう」
「死んでるかも知れないよ」
「死んでたら、死んでるって言うだろ」
「うん」
スコールは城郭都市を目指して飛ぶ。自然の力とは強い物で、空から見下ろす分にはかなり呑み込まれつつある。人が居ない証拠でもあるが。
「探すか」
旋回しながら緩降下。何周かしてかなり高度を下げて飛んでいると、レイアが震えた。
「離して」
「何かいたか」
スコールから離れたレイアが魔法陣を起動し、翅を広げ少し上を飛ぶ。なぜ戦闘モードに移行するのか理解できない。そこまでしないと探知できない何かがいるのか?
「下!」
キラッと光った。飛んで来たそれを回避。そして、
「捕ま――えっ!?」
入れ替わりで現れたアーヴェを捕まえていつかのように、すぅっと息を吐いて、吸わずに急降下。アーヴェが震えたのが分かった、叫び声なんて上げることなく手を回して、下草の生える地面すれすれで急上昇、再び城郭都市が一眸できる高度まで上がって宙返りした。
「失神しなかったな」
「こ、こここここのていでょで」
しかしぶるぶると震えている。怖かったのは確かだ。
「か、かおにこんなき、きずつけておいてけぼりにしやがって! よよ、よよ…………」
「なんだ」
「よ、嫁に貰ってくれやがれー……って、どう?」
「貰ってくれ、か。そんじゃまあ、この世界から貰っていきますかね」
空中で抱き合ったまま、ゆっくりと降下して――
「アラート! ブレイク――」
スコールはアーヴェをレイアに投げ渡し、急上昇。
「――高速飛翔体感知、なにこれ、大きいのに、速い。逃げてスコール! 狙いは」
「分かってる!」
急旋回。進行方向を飛んでくる物に合わせ螺旋を描き回避。
『聞こえる?』
「分かってたのか」
『いいや、この子、アーヴェが探知できなくて、スコールみたいな感じで怖かったから』
「なるほど。で、敵は」
『見えない、光も通してる、けど分かる、そこにいるのは分かる』
「ペルソナが打ち上げられたあの敵か」
『たぶん。気を付けて、私のミサイルじゃ捕捉しきれないし、私からの誘導も今のままじゃ無理』
「大丈夫だ、確かに分かるな、同系統か。直接仕掛ける、支援頼む」
『了解』
姿勢を対地水平、正面から限りなく狙われる面積が少なくなるようにしたまま上昇。そして目を閉じる、見えないのなら頼る必要がない感覚は切ってしまえ、その分の余裕で音を聞け。
『高速飛翔体接近』
「瞼の裏にしっかりとコースが出る、データリンクは良好」
拳を握り締め、白い光が漏れ出すと放つ。空中に撒かれた光の欠片、それに飛翔体が当たって炸裂。二発抜けてきて、急反転、加速して逃げる。
『接触まで十秒、ブレイク、上昇、減速』
指示通りに、しかし意識が飛びそうになる。
「落とす!」
一発が真下を通り抜けて行って自爆、振り向きざまに光の欠片を投げて炸裂させ、衝撃に飛ばされる。すぐさま立て直して、次に備えて不規則な軌道を描きながら敵に向かう。左へ、下へ、上へ、右へと体にかなりの負荷がかかるが、当たってしまえば一撃だ。
『スコール、バイタルが』
「気にするな、予測」
『射程内インバウンドまで二十秒、いや、消えた、後ろ!』
確認せずに、急減速して大太刀を顕現させて振った。腕が持って行かれようが、次の体に乗り換えてしまえばいい。そう、判断を下して、ずぶりと、刺さった。思ったより柔らかかった。そのまま、持って行かれる。両手で柄を掴むが、凄まじい加速に血が下半身に押されて、意識が薄れ離す。
「レイア、撃墜しろ」
『なんで刀にシグナルマーカー仕込んでるの』
リリースされたミサイルのロケットモーターが火を吹き、白い尾を引いて加速していく。
「こういう事態があるかもと思ってな。救難用を仕込んだのもあるが、あれは案外使えない」
五秒ほどでミサイルの燃料がつき、尾翼を使った姿勢制御で標的を追いかけ始める。しかし敵の方が速かった、急加速して振り切ると、ムチャクチャな動きで刺さった大太刀を振り落とす。遠くで目標を見失ったミサイルが自爆した。
「なんてやつだ」
『正面!』
「…………。」
ぶつかった、レイアがそう認識した瞬間に空間が結晶化して、部分的に世界が隔離された。内部までは観測できない、どうなったのだろうか。心配したのも束の間、結晶が砕けてスコールが姿を見せた。輪郭が薄れ、消えかかっているような。
『だい、じょうーぶ?』
「取り込んだ、影響はない。さて、帰ろうか、あいつらのいる場所へ」
『うん、仲間も増えたし』
レイアと合流し、高度を上げていく。
「あたいはどこに連れてかれるのかなーって、ほんとにどうなんの」
アーヴェを投げ渡され、しっかりと抱えたスコールは、どこまでも続く、蒼く果てのない空を見上げ。
「未来、かな」
そう言った。




