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灼熱ノ砂漠ニテ

「でーだー……お前はなんの為にここに来た?」

 砂の上に描かれた魔法陣を消しながら、スコールは暑さにバテているキサラに言う。何故だろうか、暑いところと言うと薄着で来たがるバカというのは、大抵が街暮らしの一般人だ。観光気分なのだろう、仕方がないと言える。しかしそれが騎士見習いともなれば話は別だ、暑い場所、日差しのきつい砂漠などでは全身を覆う布、とにかく日を遮る軽装備で来るのが普通だ。

「でぁ……ってぇ、砂漠ーは、日焼け止めと水筒くらいで……」

 逆さにした水筒はすでに乾ききっている。一滴の水すら落ちてこない。

「バカか。それになんだその装備は」

 騎士見習いとして支給される〝基本装備〟から重たい肩当てや首回りの装備を外した格好で来ている。この装備は平地での戦闘を主として考えられた物で、砂漠向きではない。見習い用と言うこともあってか、正規の騎士団が装備する鉄の鎧などではない――ただ鉄の鎧、魔術が使えない者が装備するとその重さで立つことすら困難な重さだ。見た目に惑わされてはいけないが、一般的な鎧は鉄の服と言った方が良い。薄い。

 彼女場合は手足を守る最低限の軽い装備、それと女性用なのか装備にスカートが追加されている、動きづらくないようにゆったりと作られてはいるが、引っかかるような物があれば邪魔でしかない。

「だんちょーがこれでいいって言ったからこれで来たんですー」

 思えば団長も砂漠でのまともな〝地上〟作戦経験は少ないはずだ。基本的には戦場に直接〝軍団〟を転移させ電撃戦を展開し、終わればすぐに撤収という物で、行軍などしたことがないような気がする。

「……短期決戦なんかするかよ。待ち伏せが基本なのに。とりあえずは」

 日が真上に来た。光を反射して純白に……立っているだけで焼かれそうな砂漠を見て、まずは影を作ろうかな、なんて考える。

「動け、四メーター四方、穴掘れ」

「掘ってどーするんですかー」

「このまま干からびたいのか、お前は」

「やーです」

「だったら言うこと聞け。まずはシェルター、それから迎撃準備だ」

「さっきみたいに私のコピー作って働かせたら良いじゃないですかー」

「中身のない人形にプログラム書き込む時間を考えたら自分らでやった方が早い」

「えぇー」

 乾燥した風が砂と共に吹き付ける。肌がヒリヒリと痛むが、サンドブラストを考えれば今のうちに隠れ場所を作らないと厳しい。砂漠で厄介な相手は風使いと光使い、炎使いなどの蜃気楼を扱えるやつらだ。とくに風使いを相手にした場合、足元にも空中にも大量の武器がある。風で巻き上げた砂をそのままぶつけてやれば良い、鉄の鎧だろうが何だろうがあっという間に削り取って、人体などすぐにボロボロになる。

 やる気のないキサラを無理矢理に動かし、穴を掘って支柱を立て、それに布を結びつけて行く。終わるとその周りに砂を盛って壁を作り、布の上にも日よけと断熱の為に砂を被せていく。上空からならまず発見されない、地上を歩いてこられると影で一発でバレるが、その時はその時。

「みーずー」

「お前は何故五百ミリリットルの水筒しか持ってこない?」

「だって大きいのって邪魔だし重たいじゃないですか」

「自分の命と比べろ」

 そんなことを言うスコールは、半透明に浮かぶ武器類を選り分けて水筒を顕現させた。

「ずるいー!」

「使えねえなら自前で用意しとけ」

 もう一本顕現させて投げ渡す。

「温いんですけど」

「冷たいと腹下すぞ」

 その辺の基礎から叩き込んで教育してくれと言う押しつけか? 今回のこの仕事? 任務? は。

「冷たいのくださーい」

「…………いっそ凍らせてやろうか?」

 舐めた口聞くとどうなるか。スコールが腕を振るう、それに呼応して白い砂漠に青い結晶が生え、一瞬にして灼熱の太陽に熱せられた砂が凍てついて砕け、粉になる。吹く風が止み、日が照りつける砂漠の温度が氷点下にまで落ちる。

「寒っ!? つめたっ、痛っ!」

 水筒から口に移りかけていた水が凍り、氷の塊を吐き出す。吐く息は白くない、空気がとても綺麗だから、そして微粒子に水分がくっつく前に凍ってしまうから。

 ほんの数秒で指先の感覚が消え、気付けば氷のような……冷えすぎた空気が液化してなおも冷やされ凍っていた。やりようによっては人間程度一瞬で冷凍できる。酷いことを言えば手足を壊死させて地獄を見せることも。

「あのっ、ごめんなさい。やめてください」

 いよいよ不味くなる前には解除したが、あくまでも局所的な干渉しか出来いないことに歯がみした。広域に向けてこれができれば待ち伏せ、迎撃なんて考える必要すらないが出来ないから仕方がない。

「分かったら良い。仕事だ、この札を五キロ四方範囲内、あちこちに埋めてこい」

 力を見せた上での無茶ぶり。逆らおうという気は起きない。

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