騎士団長二於イテハ
「消滅したとの報告があったが」
書類を流し読みしながら分類し、分類した中からさらに細断機直行、保留、要検討と分けて行くと言う作業をしつつ、背後でのんびりしている野郎に言う。
「あの程度なら体捨てて逃げる、それで済む」
自分用に今回のことをまとめているスコールは、そんなことを言う。体を捨てて逃げるとは、そのままの意味だ。物理的存在を捨てて精神的な、簡単に言えば魂だけで逃げる、つまり死ぬ。
「かなり危なかった、そういうことだろう」
「だな。久々にやったからまだ復旧出来てないが、通常戦闘ならなんとかなる」
「お前のなんとかなるは〝魔力を使うなら神様だって倒せます〟だったな」
「一対一で、物理的攻撃手段を備えない、に限ってだ」
「……ならあの目玉の悪魔は」
「ありゃ〝強奪〟しようにも仕掛けてこなかったし、解析しづらかったから、諦めた」
「まったく……」
はい次、と、控えていた者が書類の山を置く。
「やる気が失せる……」
「電子化しろ、パターンを出して自動仕分けと処理出来るようにして――」
「パソコン使えないどころか機械すら知らない連中に教育する手間を考えるとだ、俺がこうしてすべて紙ベースで手続きを全部やった方が早い」
しかし手間だ、その上無駄に紙を消費する。費用の関係上、長い目で見れば騎士団の詰所に電気配線と通信線を行き渡らせ、コンピュータの導入をした方がいい。そうすることで人件費も削減でき、休暇を作り出してローテーションを組める。だが、一番の問題は団長は電子機器というものを知っている、そういうものに囲まれた時代で生きた、しかし騎士団にはそもそも機械自体を知らない連中が多すぎる。教育コストを考えた場合、大幅な人員整理をして出来るやつを教育、それを上に置いて慣らして行くという手間が掛かる。そもそもそんなこと受け入れて貰えない。
「だったらすぐにやろうじゃないか、クーデター」
空間に瘴気とも言える黒い霧が発生し、その中で煌めくのは結晶。彼ならば一人で、一瞬にして拠点を制圧してしまえるだろう。力による支配、それに従う者が多くないことは確かだが。
「……一週間、時間をくれ」
「分かった。じゃあ、置いてきたやつら回収するから転移させてくれ」
「あの少女たちはナギサが回収に向かった」
「なら……偽の任務を発行しろよ。敵派閥とは言え逆らえないだろ」
「やる気か、お前は」
「強いだけのやつってのは、教本通りというか、一定のパターンがある。いくら群れたところで、負けることはない」
ただし、それが銃火器や電子機器で武装しただけの、スコールにしてみれば〝通常戦力〟というやつだが、それが相手なら勝ち目は低い。送られる〝場所〟が魔力主体というところなら、まず魔術が発達している、負ける可能性は低い。
「そういうことを言うか……砂漠の戦闘は可能か」
「出来る」
「このあいだまで居た世界、そこの西方、砂漠地帯に送る。取りあえずお前がクーデターを企てたことにして……そうだな、逃走したことにして追撃部隊を送ろう」
「後でどうなっても知らんぞ」
「お前がどうにかしてくれるんだろ」
「場合によるがな」
スコールが転移の光に包まれ、消えていくとため息を漏らす。
このままではダメだと分かっているが、変えていく事が出来ない。大きくなりすぎた、昔のように規模が小さければまだどうにかなっただろう、しかし規模が大きいほど細部の確認に手間が掛かり、こちらからの指示も届きにくい。所属する人員もどの時代から連れてきたのかで、常識すら違う。なんとか間を取り持っているが、いつまでも続かない。騎士団は一番上に大天使を置き、その配下として騎士団長、オーダーズと続く。実質的に騎士団長がすべてを仕切るわけだが、そんなことしていては身が持たない。だからといってオーダーズに管理を振り分けて派閥が増えて、割れて、内部抗争だ。
これでは取り込んだ〝盗賊団〟の方がまだいい。トップはレイズという青年だが、配下は子供から老人まで様々だというのにまとまっている。理由は単純なもので、強いから、だけだ。トップが絶対的な戦闘力を、その配下が人をまとめ、それでいて強制はしない。まとまる理由が分からない、内部を見れば家族でもなく、殺し合いをした者同士や襲ったり襲われたり、憎んだり憎まれたり、放っておけばすぐにでも血を見ることになりそうな組み合わせでしかないのに、まとまっている。レイズ、その配下である十三使徒。人、天使、悪魔、その他の種族が混じりながらも、なぜか形になっている。唯一そこから抜け出たのはスコールだが。あんなのは例外だ。
「キサラを呼べ。青っぽい目の色の訓練兵だ」
「承知しました」
待機していた騎士が出て行く。どこ部隊の、と聞かないのは団長も知らないからで、調べてから連れてこようということ。知っていればどの部隊の誰々と言うのだから。
「準備はしておくか」
やりたくはないが、キサラを使って美人局的な作戦でも仕掛けてみよう。どうせ効かないのは分かっているが、やってみなくては分からない。




