封緘命令
グランバルとの国境にて待機している部隊と合流、これを指揮し内乱終結へ向け中央軍を支援せよ。
「なんとも簡単な命令だことで……」
もうちょっと詳しく書いて欲しい。どこで合流、その規模は、どの派閥を支援すれば良い、どういう流れで終わらせれば良いのか、他にも色々と知りたいが書かれていない。今更内容を聞きに戻ろうにも、そう言う命令だ。戻れば反逆罪なりなんなりで斬られる。
で、たったいま連れてきた傭兵二人が中央軍と交戦、これを撃墜。合流予定の部隊はすでに全員死亡、付近には中央軍の死体も多数あり、その二つで交戦し共倒れ……ではない。何者かにまとめて襲われたようだ。
これでは命令遂行の前に敵軍として扱われそうだなぁ、なんてレクトは考えながらも証拠になりそうな状況を破壊している。装備を剥ぎ取り死体は燃やし、所属を示す物や目立つ遺品は砕くか埋めてしまう。
後でどうとでもでっち上げれば良い、証拠は自分の証言しかない、そういう形にしてしまえばいい。
「あーあぁ人生何があるか分からないねぇ……」
竜巻の後始末をしているヴェント、空で哨戒しているペルソナ。
正直強いだけで後先考えずに、攻撃してきた、じゃあ殲滅しよう、それしか能がない二人をどう使ってグランバルの内乱に介入していこうか……頭が痛い。強すぎる駒は下手に使うと敵と敵が手を組んで潰しに来る可能性が高まる。
「……あれ、血の臭いで寄ってきた?」
草の間に動くものが見えた。人では無い、だが魔物という感じでもない。野生動物だろうが、それでも脅威に変わりはない。襲われても対応できるように構える、野生動物は相応の理由がない限り攻撃してこない、肉食動物だろうが距離を取って警戒すると知っている。知っているからこそ、近づいて来た場合は……そういうことだ。
「だめ」
そんなレクトを制してペルソナが前に降り立つ。
「おいで、この人は敵じゃない」
すっと、音もなく草の中から出てきた黒い毛並みの狼がペルソナの足元に来て、身体を擦りつける。次いでレクトにも。それを皮切りに続々と狼の群れが姿を見せる。ちらほらと血が見えるが、狼のものではない。
「襲われたから、ね」
「それど――」
背後から狼に飛びつかれ、倒れたところに群がられて、でも噛みつかれたりではなく舐められたりにおいを嗅がれたり。
「ちょっとこれ、どうにか、して」
「今のうちに覚えて貰った方が良い。この子たちが来るなら、たぶんこれ、まともな戦争にはならないから」
「まともじゃない戦争はいつものうわっちょっと待ってさすがにっ――」
笑っていた。狼たちに群がられるその隙間から、初めて笑みが見えた。
「行こう、たぶん、中央軍は〝敵〟」




