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コノ日ノ戦場ハ晴天デ

 崩れた城壁の上、城郭都市の周りを一眸出来る場所で戦況を眺めていたエレンは、この異常な状態に呑まれていなかった。城郭都市の内部には武装した従業員を配置しているが、この状況にまともな精神状態ではない。おそらく魔物が入ってくれば大きな被害が出る。だが魔物は元カザークの傭兵たちが近づく前に撃破しているし、そもそも城郭都市を守るように周囲に発生する竜巻がすべてを空に巻き上げる。ユキに耳打ちされたヴェントが何を思ったか、黒い空の彼方まで飛んでいってしばらくすると、逆回転する一対の竜巻が発生してそれを皮切りに空から黒い渦が地上目指して降りてきて、到達と同時に破壊を撒き散らす。

 遥か遠くでは光の矢が大地を焦がし、吹き上げる灼熱が空を焼く。あるところでは何起こっていないようでいて、気付かれずに静かな激闘を繰り広げ、またあるところでは派手に大地を抉り力のぶつけ合いが起こっていた。

 国を潰せる災害に国を潰せる傭兵をぶつけるとどうなるかがよく分かる。……このままやらせておくと大地が、土地が使えなくなる。復興などばからしくなる、放棄して開拓に走った方がまだいいとさえ思えるほど、酷い破壊だ。

 ……で、どうやって止めようか。直接言いに行くには危険すぎる。たぶん、言ったところでやめない。だったらどうする、このままやらせておくか。

「これがカザークかい……」

「すごいですよね」

「いつの間に上がってきたの」

 涼しい顔をしたユキが後ろに立っていた。この異様な状況でも怯えていない、ホノカやミコトに比べると弱々しい印象を受けたが、この子はちょっとおかしい。確かに状況を突破する力は無いが、恐れがない……いや、死ぬことを怖がっていない。

「やることがないので……ちょっと様子を見に来ました」

「……ユキ、あんたはヴェントに何を言ったの。あんたが何か言ってから、あんな凄い魔術を使ったけど、ヴェントはそこまでの階梯じゃないはずだよ」

「私は気圧の差と風を使ったら二つの流れが出来ると言っただけです。科学の授業で習ったことです」

「ウチにはそのカガクっていうのが分からないけど、ヴェントは分かったのかい」

「分かってると思います。だってヴェントさん、この世界の人とは知識が違いますから」

「別の世界から来たって言い方だね、それは」

「世界は他にもあります。ただそれを、認識できないだけです」

「そうかい……分からない、だから聞かないことにするよ」

 ヒュウと澄んだ空気が通り抜けた。

 一瞬間を置いて、

「えっ」

 エレンが気付いた。なんでそんなものが、と。

「空、見てください」

「青空……あれはヴェントかい」

「瘴気を吹き飛ばしているんです。皆さんも、汚染された所を焼き払って、邪魔する敵を倒して浄化できない大地を削りとって、少しでも使える場所を取り戻そうって頑張ってるんです」

「あんたが吹き込んだのかい、ユキ」

「どうでしょうか」

 静かに、大人しく、それでいてからかうように言う。読めない、この子が、少し怖い。ただ助言をするようで居て、どこかに誘導しているような。


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