トアル日ノ戦場
「やあ、また会ったねペルソナ」
青年が真っ黒な人の形をしたモノに問いかける。
「覚えがないが」
ペルソナと呼ばれたそれは、声を発した。
「またまたぁ冗談を。僕が指揮した傭兵部隊、とくにカザークの君のおかげで戦績は上々でね。百人長に昇格ってね」
ここは戦場。コンコルディア大陸・中央にある二つの国、セントラとセンタクスの北部国境。〝神殿〟から溢れ出した瘴気のおかげか、長く続いた戦争も双方が多大な損害を被る形となり継続不能。撤退するも瘴気から這い出る魔物の勢いに押され、負傷兵まで投入して戦線をかろうじて維持している状況だ。
「あのとき君が一人で飛び降りていくものだから、ほかの人たちも遅れちゃいけないって張り切ってねぇ」
普通なら理解できないモノは怖い、人の形をした奇妙な黒いモノに平気で話しかけることなど出来やしない。
「要件は」
「つれないなぁ……まあいいけど」
辺りは昼間だというのに薄暗く、こちらの様子をうかがう魔物がちらほらと見える。常人ならば近づかない、そもそもここに来る前に殺される。
「今回の任務は瘴気の原因を探る、できるなら止める。それでだよ、行方不明になった人たちが瘴気の中をうろついているなんて噂があったものだから、ちょっと調査にね」
ペルソナが隠しもせずに警戒をはじめ、周辺の魔物がじわじわと距離を詰めてくる。
「とくに、君が魔物を操っているなんていう報告があったからちょっと気になってね」
「あんた、ここで死ぬ?」
「いやぁさすがにそれはお断りだねぇ……とはいえ手ぶらで帰ると僕の立場がないし。そういうわけで一緒に行動させてもらえないかな」
状況を見てものを言えと。
「僕としてはこの瘴気をどうにかできればいいんだけど、それで君と敵対するようなことにはならないはずだよ?」
「どうして」
「君はなにかをしようとしている、でもそれは人に対して危害を加えるような気配を感じられない。だったら僕はそれを手伝うし、その途中で勝手に瘴気を調べさせて貰う。構わないだろう?」
「邪魔するなら、排除する」
「うん、それが聞きたかった。僕は君の味方になろう、邪魔はしない、手伝うよ」
と、青年が右手を出す。その返事は、ペルソナの体から溢れた黒い煙だった。体の表面にこびり付いた汚れが溶けるように、人の色が出てくる。
パサついた長い黒髪に、汚れた傷だらけの肌。鼻先まで伸びた髪は視界を覆う、よく見えないだろう。腕や足も細く、男が本気で握ったらそれだけで折れてしまうのではないかと思えるほど。汚れのついた肌には、反射的に目を背けた。どうやったらそんな致命傷の傷痕だらけになる。
「じゃ、よろしく」
「取りあえず……服、着ない?」
「そんなものはない」
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「ミサイルが欲しい」
「戦闘機じゃなくて、か」
黒い影のような竜に追われながら、スコールと団長は〝神殿〟上空を飛んでいた――逃げていた。
「パイロットはどうする」
「……地対空ミサイルで竜はロックできるのか」
「シーカーのプログラムを弄りゃいけるだろ」
と、ぶるりとスコールが震えて黒い雲の隙間から地上を見た。
「どうした?」
「……分かったよ。来るなって言うなら、無理矢理引きずり出しに行ってやる」
「あ、おいスコール!」




