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再会ヘノ道ハソコニ

「悪い、置いてくぞ。さすがにこのまま共倒れとか、ごめんだからな」

 追撃を振り切りながら城郭都市を目指し、ユズリハを背負って歩き続けてしばらく。こういう戦いを経験したことのないヴェントに取っては限界だった。このまま守りながら戦って、逃げ続けていては一緒にまとめて殺される。

「……なんで、ここまで一緒に」

 木陰に降ろされたユズリハはゆっくりと手を伸ばすが、ヴェントはゆっくり離れて行く。

「人ってのはなぁ、追い詰められると本性が出るもんだ。じゃあな、運が良ければ生き延びられるさ」

「ヴェント……さん、あなたは」

「俺は優しい人間じゃねえよ、生きる可能性が上がるなら切り捨てもする。後は自力で頑張れ」

 それだけ言い残すと走って離れて行く。

 ユズリハのもとに残ったのは、ずっとついてきた狼と……食料と水とが入った鞄。

 おそらく彼は帰ってこない。帰ってくることが出来ない。一人だったら逃げることが出来るのに、やろうとしない。助ける理由なんてないはずなのに、助けられたら助けるだろ? そんなことを言って命がけの戦いに向かう。いわゆるどうしようもないバカというやつだ。

「人気者ってのは……どういう気分なんだか」

 見える範囲には二十人、近くで言えば顔見知り含む三人ほど。カザークが離反者の討伐依頼を発行しているらしいが、そこまで本気ではないらしく数も多くない上に高い階梯が向かってくるわけではない。しかしそれが良い方向に転がるかと聞かれたら逆だ。新人研修としてあちこちの斡旋所から、教導員と新人の組み合わせで代わる代わる仕掛けてくる。

「よぉ風使い」

「しばらくぶりだな、イグニス。それとコロナの新人」

「出来れば戦いないのですけどね……」

「仕事だろ? 私情を挟むなら実力で状況を変えて見せろ、出来ないならやめろ」

 傭兵をやっていればよくあること、今日の仲間が明日の敵。それで躊躇っていては傭兵など出来やしない。これから殺し合いをしようかと雰囲気ではないが、実際そういう経験はしたことがあるから特に思うところがない。

「イグニス、ちょっと教えろ」

「なんだ? カネ取るぞ」

「今の俺らの状況ってどうなってる」

「……お前と、女一人に殺害要請。ペルソナに捜索要請。それだけだな」

「なるほど、締め上げて聞いたのと変わらないな」

 たすき掛けにした紐に手を回し、三尺刀を抜刀しやすい位置に下げる。ペルソナの物だが、そのまま持ってきて捨てるに捨てられずずっと装備したままだ。

 まあ、抜けないから使えないだけのお荷物だ、威嚇程度に使うだけか。

「もう一つ教えてやる。神殿から瘴気が溢れ出して周辺が結晶化した。巻き込まれたやつらは体が徐々に結晶化して、死んだってよ」

「それが」

「事態の収拾に行った連中、報告じゃたった一人にほとんど殺されたってんで」

「何の関係がある」

「やったのがたった一人って話でそれが誰なのかは分からないが、一人で五十階梯とか化け物だけで構成された部隊潰すって、心当たり無いか?」

「一人、あるな。実際やったやつがいる」

「そう言う訳でだ。こちとら命令で出撃したが死にたくないし殺したくもない、今の情報と引き替えに軽く戦え。見逃してやる」

「本気か?」

「おめーなぁ、これだけ追撃部隊差し向けられて全部撃破してるだけでどれだけ警戒されてるか分かってるか」

「…………。」

 考えてみると教導員、戦闘の指導をする連中は基本的にそこらの連中とは格が違う。そんなのを新人という足手まといが居るとは言えすべて撃破しているのだ、だんだんと周囲からの評価でつけられる階梯が上がっているはずだ。

 だったら。

「あぁ分かった。で、どこまで誤魔化せる? 隠れてる連中は狙撃担当だろ。それともアレか、見逃すとか言って油断させて撃つのか」

「少しは信用しろよ」

「逆にお前がそこまでして俺を見逃す理由が分からない」

「お前を殺せば次は神殿の制圧任務、確実にこいつらが死ぬ」

「それで」

「お前を見逃せば俺が処罰される。プロミネンスからコロナに転属だ、それでもこいつらは俺の指揮下からは外れない。わざわざ死にに行かずに済む」

「そんな話が俺に通用するとでも思ってるのか、イグニス」

「思ってねえ、でも死にたくない」

「……だったら」

 三尺刀の柄に手を掛ける。

「やる気かよ……お前ら下がってろ、俺がやる」

 イグニスが蜃気楼に包まれ、二人が退いていく。

 正面からやり合いたいところだが、状況が気に入らない。風の流れで風上だろうが風下だろうがある程度は認識できる。わざわざこいつらをぶつけてきた理由が、一つしか思い当たらない。遠距離から手数で撃ってくるならイグニスを接近させる必要が無い。

 それでも近づけてくるのは、そいつ自体を照準器代わりに使うからだ。ヴェント、イグニス、そしてその遥か後ろ、直線上に一人。確実に仕留めるための一撃を必中させるための、使い捨ての照準器。

「集う焔は彼岸の導き、黄泉へ――」

 撃たれる前に動く。

「風よ――」

 詠唱途中でヴェントが空に飛び上がる。

 わざわざ長い詠唱しなければ使えない術を接近戦で使う価値は無い。そんな隙を作り出すことは素人がやること、使うなら単語二つまでだ。

「――我に集え」

 流れが一気に変わる。緩やかに流れる大気がヴェントの支配下に置かれ、暴風となって荒れる。使いようによっては街一つ簡単に滅ぼせる。そんな術を発動したからか、遠くで静観していたらしい連中が慌てて近づいてくるのが分かる。逃げれば良いものを。

「まずは……」

 プロミネンスの傭兵どもから片付ける。



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