誰カ私ノ声ヲ
広大な部屋の中央に、少女が一人。真っ黒な壁、出口などどこにもなく足元には幾重にも重ねられた隷属の魔術が広がる。霧のように、波のように寄せては引いていく黒い魔力が意識を蝕んでいく。
「あ……」
ぷつりと、縁が一つ途絶えた。すべてを諦めた暗い表情に悲しみが混じる。
ヘマをした、捕まった、使い捨ての存在を助けようとしたのは一人しか居なかった、それもまた同じ存在で。それでも、こんな空間に巻き込んで老いもせず空腹も感じず、孤独の苦しみの中で果てていくという状況に巻き込みたくなくて、突き放した。
魔力の許容量は凡人よりも少なく、小規模の魔術の使用にも体が耐えられず、しかし構築できる術の規模は桁外れに大きくそこに目をつけられて〝神殿〟での戦闘の最中捉えられた。
今では自分という存在を装置として、その使用を巡って外では長い戦争が続いているようだ。だがそれを捉え続け、知らせてくれていた縁が消えた。
そう簡単にやられるほど弱くないはずなのに。いざとなれば完全に気配を消して逃げることも、いつの間にか懐に飛び込んでいて喉元に刃を突き立てることも出来るはずなのに。
「ふぅ……」
少女は吐息を漏らし、そして唇を引き絞った。
「もういちど」
極小規模の術式を大量に並列起動して、辺りには有り余る魔力がある。すべてを引き寄せて、再構築していく。
自分はこの世界の管理を任された存在。ありきたりに言えば〝神〟なのだろう。それがどうしてこんなところに閉じ込められて終焉を待たなければいけない?
「とどけて、もうあきらめるから、あなたもあきらめて」
黒い人型が発生した。
その目覚めは、無機なものだ。眠っていた意識が目覚めたのではなく、予め情報の入力された装置が起動した。そう言った方がしっくりくる。
「いって……つたえて」




