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奴隷トシテ初メテノ仕事

「クソッ、クソッ、クソゥッ!! 屈辱だこんなの!」

 首輪をつけられ貧相な使用人の服に着替えさせられ。

「つべこべ言わずにやれ、間抜けが」

 無理矢理に。

「なんであたしがこんなことしなくちゃならないのー!」

 今までやったことのないことを。

「テメェが負けたからだろうが」

 そんな至極当たり前の理由で。

「人の顔ざっくり斬っといてよく言えるね!」

 させられる。

「むしろたった四日で回復するお前もお前だろ」

 娼館の裏手。顔にまだ新しい大きな傷痕を残すアーヴェは洗濯物を干していた。その隣では手際よく女衆に混じって洗い物をこなすスコールの姿がある。敗者は勝者の所有物……それがまかり通るからこその状況。

 もう猫なで声で柔らかい対応などしない、素の性格でいい。

「ほらほら新入りーさっさと終わらせて次は窓ふきね」

 娼館の主がいつもと違う、程度の低い使用人じみた格好で檄を飛ばす。当の本人も水を汲んだ桶を両手に抱え、ぼろ切れを掛けているところを見るに拭き掃除に向かうようだ。

 エレンが態度を反転させたのには理由がある。

「なんで!? 本業は暗殺なのになんで!?」

「そりゃアレだ、お前はもう死んだことにされているからだ」

「チクショウメ! 早いよぅ、手続き早すぎるよぅ」

 首輪さえなければすぐにでも逃げるのだが、スコール特製の設定した範囲の外に出ると爆発する首輪のおかげでまず離れることすらできない。しかも見せしめのためか、他にも人が居るその目の前で一人の首が吹き飛ぶ光景を見せられている。

「確かに異常だな。アーヴェ、シンティラ、ペルソナは死亡、ヴェントは指名手配中と。こりゃカザークは終わりだな」

「誰のせいだ!!」

「さあ?」

 さすがフリーランサー、そこそこの斡旋所を自分の失敗に巻き込んで潰しにかかって知らんぷりだ。

「とぼけんなー……いたた、傷が」

「塞がるまでに十日くらいかかるはずなんだがその傷」

「ほっぺをざっくり、しかも毒まで塗りやがってこのやろ……」

 唇から頬を通って耳までざっくりと、一生残る傷だ。

「こらそこー! 喋ってないで終わらせなさーい!」

 上から声が聞こえてきて、見上げてみれば屋根の上に堂々と立っているエレンの姿があった。

「普通自分で屋根の掃除するか?」

「しないと思うよー? ていうか、見えてるし」

「ドロワーズってーと……そうか、この頃のはまだ股のところが開いてるか」

 滑り落ちて死なれたら困るからそんな姿で作業するな、そういったところで聞かないだろう。本来なら危険なところの掃除は男衆の仕事のはずだが。

「最後だ、そっち持て」

 血汚れを落し終えたシーツを二人がかりで絞って、竿に干して皺を引っ張る。

「次は?」

「窓ふき……はもう別のやつが行ったから、屋根の掃除でもするか」

 と、不意にアーヴェの手を取ったスコールが軽い動きで空に飛び上がる。

「わっ!?」

「平気か、大抵のやつは叫ぶが」

 城郭都市が一眸できるほどの高さまでわざと飛び上がってみたが、アーヴェは怖がるよりも景色に見とれていた。

「おぉぉヴェントがいつも見てるのはこれかぁ」

「声が震えてるぞ」

「こ、怖くないし、寒いだけだし」

「へぇ……だったら」

 にやっと笑い、そしてすぅっと息を吐いて、吸わずに急降下。アーヴェが震えたのが分かったが、叫び声なんて上げる余裕は与えることなく人の行き交う地面すれすれで急上昇、再び城郭都市が一眸できる高度まで上がって宙返り。

「この程度で気絶か……ダメだな」

 下を見ればこちらを見上げる人たちがいるが、そんなものは気にしない。単独で都市を制圧できる者を空中投下、そういう戦闘方法だってできるのだ、好奇心で注目するだけで警戒しない連中ではもしもの時には死ぬだけだ。

「こら、起きろ」

「――はっ! 今落ちたよね!?」

 一瞬の気絶から目覚めればさっきよりも高い場所。吹く風は肌を引き裂くかのように冷たく痛い。

「さあ?」

「落ちたよねぇ!? も、もぅやめてよ……よ?」

 今度はどう飛ぼうか、そんな様子で地上を見るスコールを見て怯える。空を駆ける能力がある生き物は飛ぶことを恐れることは少ないが、地を歩くことが常識である人に取ってはとてつもなく怖いこと。

「ね? やめて」

「……アーヴェ、言うこと聞いてくれたら首輪外してやる……って条件で内容聞かずに返事できるか」

「それはぁ……」

「嫌なら今はいい。武器を返す、隠れてろ」

 視線を辿って、見つけた。最近スコールとよく言い争いをしている白騎士連中と、それに追いかけられているホノカが見える。

「外に出るなって言ったんだが……」

「あれ?」

「あいつらを確実に殺せって条件でどうだ」

「そんなので外していいのー? 逃げちゃうかもよー?」

「……あぁ、このままあいつらの真上に落として爆破した方が確実か」

 逃げられてまた不意打ちで刺されるなら。

「ちょっと待ってそれな――」

 急降下したスコールは白騎士たちの中程にアーヴェを落として――都市に響き渡る爆音と衝撃波に飛び散る土煙が舞った。

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