竜狐相墜つ
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ここからでも分かる程に魔力の流れが激しくなった、外壁の上へ向かって魔力が流れていき巨大な砲身が現れた。
砲撃の音は断続的に鳴り響いている、そのどれもが竜に命中する直前で防壁に阻まれていた、そんな状態で砲撃を気にする様子もなく竜の視線は真っ直ぐに外壁へ向けられていた。
それが自分を殺すと分かったのか、鬱陶しそうに周囲を見渡す、体を竦め、より強く地面を踏み締めると竜の目の前に魔法陣が浮かび上がり……一つ、二つと次第に数を増やしていき、いくつもの魔法陣が竜の周りを漂い始める。
魔法陣の形がさっきと違う、あれは……
漂っていた魔法陣の動きが不意に止まったかと思えば、狙いを定めるように内側の模様が収束し輝きを増していく。
「全員砲台から離れろ!」
その言葉が響いたほんの少し後、魔法陣から一斉に光が放たれた、砲台を守っていた防壁を貫き、周囲を薙ぎ払い無差別に破壊を撒き散らす。
私を狙っての攻撃じゃない、避ける事自体は問題ない……直前の声のおかげで砲台の近くにいた人達も逃げるのが間に合ったみたいだ。
ビバさんを相手取るには周囲の砲台が邪魔だったから、そんな風に見えた、何より……練度がさっきまでと比べて格段に上がってる、ビバさんが同じような事をしていたのを昔見た事がある。
周囲の魔力を操って魔法陣に魔力を込める、間接的に魔法陣を起動させるやり方、あれに鞘を割り込ませても効果は無い、竜が直接魔力を込めている所に割り込まないと。
邪魔が無くなったからか、大きく身震いすると改めて外壁へと向き直る、周囲の魔力に加えて壊された砲台からも魔力が引き寄せられていく、淡い青色の奔流が竜の周りを渦巻いている、それは次第に形を成していき竜の目の前に巨大な魔法陣を作り出した。
「■■■■■■■■■■■──!!!!!!」
姿勢を低くし、渾身の咆哮と共に竜の口から光が放たれる、それと同時に飛び込み、魔法陣の中心目掛けて鞘を突き立てる。
突き立てた鞘からは色の無い魔力が溢れ出し、魔法陣の光がさっきと比べて緩やかに強くなっている、それでも吸い上げる量と込められる量とが明らかに違う、これがこのまま続けば……
色の無い魔力が体を抜けていく度に妙な感覚に襲われる、この感覚には覚えがある、私の知らない記憶、断片的な誰かの記憶が脳裏に映る。
最初に見えたのはロナさんだった、いつものジャージじゃなく見慣れない格好をしていて、誰かと何か話をしていた。
次に見えたのはシュミルだった、火のついたままの煙草を指で挟んだままバツの悪そうな顔をしていた。
子供と一緒に遊んでいたり、ご飯を食べたり、なんてことのない日常、その日常の中には何度もティルの姿があった、一緒に本を読んでいる、と言うよりはティルに読んでもらっていたり、一緒に怒られたり……これはきっとこの子の記憶。
この子はただティルを守ろうとしていただけ、この街に漂っていた魔力のせいで暴走していただけだ。
『アカメ』、多分この子の名前、竜人の名前にはある程度決まった形がある、けどそのどれとも違う。
魔法陣の光は次第に強くなっていく、それでも魔法陣越しに竜の姿に変化が起こっているのが分かった。
実体を持っていた筈の体の輪郭が曖昧でぼやけた物に、白い霧のような姿に変わっていく、魔法陣の光が更に強くなる、もう時間がない、このまま続けていても間に合うのかも分からない。
……こんな状態でやれるのかは分からない、それでもやるしかない、最初見た姿に戻りつつあるのならやれる筈だ、目を閉じ意識を外側に集中させる。
激流に飲み込まれたような、嵐に真っ向から立ち向かうような、そんな感覚、押し返されないようにしながら何とか集中を維持する。
霧の奥に小さな人影があった、さっきいた竜人の子がしゃがみこんだままティルを抱き締めていて、顔を埋めたまま動かない。
近付くと僅かに顔を上げ、確かに私に視線を向け
「テイルス?」
何故かそう呟いた。
それと同時に体を抜けていく魔力が穏やかになっていくのが分かった、息を整えるようにゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
何とかなった?一先ずは落ち着いた……のか?それさえ分からない、少なくとも魔法陣にこれ以上魔力は注がれていない。
目を開けると辺りは霧散した魔力の霧に包まれていて何も見えなかった、魔法陣はもう無い、辺りを見渡すとすぐ近くに微かに小さな人影が見えた。
そっちに向けて歩きだそうとした時、これまでとは違う感覚に襲われた、異物、ここにあるべきではない物、これは危険な物だと直感で分かる。
それが目の前に現れたかと思った直後、全身が叩き付けられるような衝撃と共に意識を失った。
-2-
周りはもやもやしてるけど、テイルスがどこにいるのかはすぐにわかった。
テイルスにさわるといつもあったかいテイルスはびっくりするぐらいつめたかった。
よくみるとテイルスはいろんな所が真っ赤で、ひどい怪我をしてるみたいだった。
テイルスの手を両手でにぎる。
いたいのいたいのとんでけ
テイルスが私にしてくれたみたいに、私もテイルスにしてあげる。
これでよくなってくれるかな?元気になったら今度は私が本をよんであげる、テイルスが絶対によんだ事のない私がつくった本!
いろんな所を冒険して、いろんな人とおはなしして、わるい人もいるけど、ちゃんと仲なおりして、みんなで一緒にご飯をたべるお話。
それから一緒にいろんな所にあそびにいくの、テイルスがいきたい所と、私がいきたい所を順番で。
それから……それから……
やりたい事をたくさんかんがえているとだんだんねむたくなってきた、にぎっていたテイルスの手をそのままだっこする。
目をとじると、だんだんテイルスの手があったかくなってきた。
最初はなにしてあそぼうかな。




