曇りのち
-1-
ディブニハールを出て半日と少し、そろそろクルクスの外壁が見えてくる筈だけど天気が悪いのも相まって暗くなるのが思っていたよりも早い、そろそろ休む準備をした方が良さそうだ。
もう少し進んだ大街道沿いに村があった筈、どう呼ばれていた村かは覚えてないけど大街道沿いの村とかそんな感じだった気がする。
他種族を見る目がどの程度の物だったかは流石に知らない、部屋を貸して貰えれば上等、最悪村の外で野宿だ、揉め事にならなければいいけど。
「日が沈むのが思ったより早いんでこの先の村で休みましょう」
「あいよ」
問題らしい問題も起きず、日が沈んですぐに着くことが出来た、のだが様子がおかしい。
「……静かすぎますね」
入口にある小さな木の門は閉じられていて近くにいる筈の門番の姿が見当たらない、それに村の中にも人の気配が無い、夜だというのに明かりも無い、人に限らず家畜用の小屋の中でさえ何も見当たらない、外観から見ても荒らされた様子はない、魔動機の駆動音だけがよく響く。
「ちょっと調べてみる、念のため警戒お願い」
そう言うと目を閉じ深く息を吐いて集中し始めた、中を調べてもいいけどビバさんの調査が終わってからでいいだろう。
することも無いから辺りを見渡していると車輪の跡がいくつも残っているのが目に付いた、村の中には続いておらず門の前で跡が途切れてる、私たちの通ってきた道を見てみると私たちの分の跡しか無い。
それから少しして、不意にビバさんが目を開けた。
「誰もいないね、荒らされた様子もないし争った形跡も無し、気になったのは防犯用の魔具が村の中にあるのと魔物避けがかなり濃い事、大型の魔動機が何台も来てたって事かな」
「こっちでも魔物の被害増えてて避難した、って辺りですかね」
「だと思う、多分クルクスにでも避難してるんじゃないかな」
魔物被害が増えた原因はともかく、避難先としてクルクスは間違いないだろう。
北部に限らずクリミナ全体で見ても一番大きい街だ、避難民を受け入れるだけの余裕は十分にある。
話を戻して、門を閉じられている以上勝手に入る訳には行かない、防犯用の魔具を作動させないようにすれは出来るだろうけどそれじゃ悪人みたいで気が引ける。
「今日はここで野宿かな、魔物避け使わなくても大丈夫そうだし」
「……村の前で野宿ってのも変な感じですけど、晩飯肉でいいです?」
「肉がいいです」
そんな気はしていたけど一応確認はしておく。
トライクの回りに支柱を立てて幌を上から掛ければ終わり、その辺りの事はビバさんに任せるとすぐに終わる、その間に食事の準備でもしていよう、塩漬けした肉でスープを作ればそれでいいか。
「クルクスに行ってどうしよっか、言われるままに来てみたけど」
「どうしましょう、何かやること思い付きます?」
「……折角だし魔物の卸し先でも探そうかな、その辺の事頼んでいい?」
「じゃあそれで、向こうには朝着くようにするんで」
「多分寝てるから何かあったら起こして」
「はいはい」
最初からそのつもりとはいえ改めて言われるとこんな反応にもなる。
-2-
扉の外は何の変哲もない閑散とした通り、住宅地のようだが人の気配は無い、辺りを見渡すと遠くに高い城壁があるのが目についた、マーチェスにも外壁はあったがあそこまで高くは無かった、それに扉を開けてから漠然と違和感を覚えるがその正体が掴めない。
……ともかくまずは誰でもいいから見つける必要がある、どこかの家を訪ねるのが手っ取り早いがアカメにその事をうまく説明出来る自信は無い、まずは人のいそうな場所を目指す、見かけた誰かに事情を話して適当に同情を誘えば上手く行く筈だ。
「んー……?じゃあいこっか、おー!」
アカメも何か違和感があったようだが特に気にする事もなく続ける。
「……おー」
視線で訴え掛けてくる前にやっておく、そのまま私の手を取ると知らない道を歩いていく。
特に目新しい物も物珍しい物も見当たらない、ただの住宅地、細い道は避け大きい道に沿って目的地も何もなくただ思うままに歩いているだけ、それでも久しぶりの外出だからかアカメは楽しそうだ。
「あ、テイルス!公園あるよ!」
遠くに公園を見つけるなり私の手を引っ張って小走りに入り口へ向かう。
公園、いくつかの遊具と砂場、柱と屋根だけで建てられた東屋、二人でやれる事となると多くないが遊具があるなら十分遊べる、ここにいる理由は私には別に無いがアカメはそうじゃないだろう。
……ルシアから離れるつもりである以上どこかで説明する必要がある、アカメの里親の事、私とアカメとの記憶の齟齬の事、ルシアの事……とはいえどう説明した物か、隠し事をしている、という言い方で合っているのかは分からない、少なくとも違和感を指摘する事はいつでも出来た。
「どうかしたの?またむずかしい顔してたよ?」
私の足が遅くなっていたのに気付いたのか、公園に入ろうとした所でアカメは私に向き直り顔を覗き込んでくる。
「別に、何でもない」
「本当に?」
念押しするようにそう言われると何故か後ろめたさを感じてしまう。
「本当に、何でもないから」
話を強引に終わらせるように手を引いて歩きだそうとした所で
「あれ、一番乗りだと思ってたのに」
そんな声が聞こえ顔を向けると私たちと同じような外套を着た子供が三人、公園に遊びに来た様子だった、近くに親でもいれば良かったがいる様子は無い、子供に助けを求めても仕方がない。
「こんにちは!」
様子を伺うように子供同士が顔を見合わせるのも気にせず、最初に声を出したのはアカメだった。
「えっと……こんにちは?」
反応を返したのはそのうち一人だけ、他の二人は私たちと同じぐらいだが、それよりは歳上のように見える、少し戸惑っているようだ。
「私たちも一緒にあそんでいい?」
アカメがそう言うと
「えっと、ノーラ、ミュノア、いいかな?」
「いいけど」
「うん」
他の二人は人見知りする方なのか、ノーラ、ミュノアと呼ばれた子供は短くそう返す。
「あ、えっと自己紹介するね、こっちの子がノーラで、こっちがミュノア、僕はフロー」
「私がアカメで、こっちの子はテイルス!」
「アカメにテイルスね、五人もいるから何でも出来るよ、それじゃあ何しよっか」
いつの間にか遊ぶ事になってしまった、まぁいいか。




