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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
92/102

やさしい世界よ、さようなら

-1-


知ったから、思い出したからと言って今の状況から変わるわけでもない、それまでしていたように立ち振る舞うのはそう難しい事ではない、変化を気取られるような事は無いだろう。


やるべきなのは隙を見てアカメを連れてここから抜け出すこと、シルヴァーグと合流すること。


いくつか疑問はある、目が覚めた時、偶然見つけた風に言っていたがこうなると怪しい物だ、作為的な物を感じる。


そもそもアカメと私は拐われた身だ、ルシアはその事件に関わっている可能性があって、抜け出した私たちをもう一度捕まえた。


……なら何故環境を変える必要がある?あの地下での生活と比べればここでの暮らしはあまりにも充実している。


治療のために連れてきたと言ったがならここはどこだ?マーチェスの近くでは無いのか?家の中でそれを知る方法はルシアに聞く他無い。


……全てを明らかにする必要も無い、知っていようが知っていまいがやることに変わりはない、何にしても今出来る事はそう多くはない。


「むずかしい顔してたよ?」


「別に、何でもない」


これまで通り、アカメに本を読んでやったりしながら一緒に過ごして機会を伺う。


少し変化があったと言えば同じ寝床で寝るようになった、理由は特に無い。


昼間は私が本を読んでやっているからか、ここではアカメが考えた物語を聞く。


時折小言を挟みつつ、浮かんだ矛盾をその場の勢いで撤回したりしつつ、そうやって過ごしていた。


分かった事と言えば、毎日朝早くにどこかに出掛けている程度、一度出迎えたことがあったが様子から見て買い物から帰ってきた風だった、抜け出すとすればその時だろう。


アカメを連れ出すのは簡単だ、それらしい事を言えばついてきてくれるだろう、騙すようで気は引けるが仕方がない。


そんな事を考えていた折、晩飯の途中で不意にルシアが話を切り出した。


「明日なんだけど、ちょっと帰ってくるのが遅くなりそうだから、作り置きの食べてね」


「はーい」


抜け出すには好都合、後は今晩中にアカメを説得すれば問題なく抜け出せる。


……抜け出してからの事は考えていない、アカメの里親の事も何も思い付いていない、次に都合の良い日がいつ来るとも分からない以上無策でもやるしかない。


それでもこの機会を逃せば次があるのかも分からない、無計画でもやるしかない。



-2-


「あのね、明日ルシアお姉ちゃんがいない内にぬけだそう?」


二人並んで布団に入った所で声を潜めてアカメの方から切り出してきた。


「お姉ちゃんがもどってくる前にもどってくれば大丈夫だよ、それにね、お姉ちゃんが鍵かくしてる所しってるんだ、とじまりもちゃんとできるから、ちょっとだけ、ね?」


鍵、恐らくは玄関の物だろう、どこかに隠してあったのを見つけたようだ、アカメが気にしているのは戸締り出来るかどうかだけだったらしい。


「私も同じ事言おうと思ってた」


「えへへ、やっぱりテイルスもお出かけしたかったんだ」


「じゃあ今日は早く寝よう」


「うん」


朝起きた時、隣にアカメはいなかった、珍しくアカメが先に起きていたようだった。


窓から外を見てみるが雲が厚く天気が悪い、まだ雨は降っていないがすぐにでも雨が降ってきそうな天気だ。


階段を降りて居間に向かうとアカメが朝食を食べていた。


「おはよ」


「おはよう!」


机の上を見るといつもよりも多くの皿が乗っていた、皿の下にはそれぞれ朝昼晩、いつ食べる物かの書置きが置いてあった。


アカメの横に座って朝食用の皿から自分の分のパンと肉を取り挟んで食べる、少し冷めているがそれでも十分に美味かった。


朝食の後、着替えを終え一息つく。


「あ、そうだ!」


何かを思い出したのか突然アカメが部屋を出ていったかと思えば、すぐにまた戻ってくるなり大きく手を広げ、くるりと回って私に見せびらかす。


薄い茶色の外套、首の後ろ辺りに頭に被るための袋がついていて、尻尾の先まで覆い隠すかなり大きめの物、そう言えば持ってきた箱の中に入っていた、水を弾くような見た目には見えないがそうなのだろう。


「うん、似合ってる」


「えへへー、テイルスのもあるよ」


雨が降るようなら先に備えておいた方がいいか、着てみると見た目以上に動きやすい、着て分かったが尻尾の部分は窮屈にならないように膨らんでいるようだ、なかなか考えられている。


「ふっ……」


不意に目深に被るが角のせいで不自然に膨らんで被りきれていない、そして何故かかっこつけているように見える。


「何それ」


「悪いことする人、こうやって顔がみえないようにしてるの」


何かの真似だったようだ、これから黙って抜け出すからかまずは形から入るらしい、試しにアカメと同じように目深に被ってみるが耳が潰れて少し居心地が悪い。


「どう?」


「うん、ちゃんと悪っぽい!じゃあいこっ」


私の手を引いて玄関を目指す。


この先にあるのはただの変哲もない扉、だというのに不思議とその先に進むことを躊躇ってしまう。


……漠然とした不安、今更になって本当にこうするべきなのかと悩んでいるのか?


「……はぁ」


一息吐いて気持ちを切り替える、なんてことはない、ただ扉を開けて見つけた誰かに事情を説明して助けを乞えばいい、アカメの事も考えるのはそれからでいいはずだ。


「テイルス?」


「何でもない、行こう」


少なくともここにいるべきではない、扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。


肌に触れた外の空気は少し湿っていて不快だった。

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