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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
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冒険者的日常(2)

-1-


「えっと……?」


「いきなりすみません、冒険者組合の者です、この手紙に覚えはありますか?」


改めて出てきた女の人に手紙を見せると思い出すようにその手紙を凝視する、しばらくすると何か思い当たる物があったのか、はっとした様子で顔を上げた。


「……あーあの時の、まさか本当に来るなんて思わなくって」


「……どういう事です?」


「立ち話も何ですし上がってください、あんまり掃除出来てませんけど……そちらの竜人様も普段通りでいいですよ」


「あ、そう?じゃあ失礼して……」


話を聞くだけのつもりだったけど、厚意を無碍にするのも気が引ける、ここは甘えておこう。


扉の先はアパートの外観から予想できる程度の間取りの部屋、一応部屋が二つあるようだけど間の仕切りを開けっ放しにして一部屋にしているようだ。


洗濯物が干されてたり、物がある程度散らかっていたり、生活感ありまくりの至って普通の部屋、あんまり見るのも失礼だから程々にしておく。


さっきの子は私たちが入ってきた事に気付くと慌てて仕切りの影に隠れるようにしてこっちを覗き込んでいた、警戒されてるみたいだ。


「知らない人だけど入れていいの……?」


「この人たちは冒険者さんだよ、この前手紙出したでしょ?あれ見て来てくれたんだって」


「……ほんと?じゃあ、エンブレム持ってる?翼の付いてる奴」


「うん、持ってるよ、ほら」


しゃがんで見えやすい高さで組合のエンブレムを見せるとすぐに興味津々な様子で駆け寄ってくる。


「わぁ……!お母さん!ほんとに冒険者さんだよ!」


「はいはい、向こうで大人しくしてなさいね、お話しないとだから」


「えー、僕もお話したい!」


さっきまでの警戒した様子から一転、憧れとか尊敬とかそんな感じ、好奇心も混ざってるか。


「話聞くのは一人で問題ないと思うんで、私で良ければ話し相手になりますよ?」


少なくとも他人種に嫌悪感を抱いている様子では無いからか、ビバさんがそう提案する。


「お姉さんも冒険者さんなの?」


「うん、ほら」


ビバさんもエンブレムを取り出すとひらつかせると一層目を輝かせる。


「わぁ……!お母さん!冒険者さんが二人も来てくれたよ!」


「はいはい、分かったから……すみませんお願いしてもいいですか?」


「では詳しい話は私が」


わざわざ入れてもらってお茶まで出して貰ったとはいえ、聞きたい事はすぐに聞き終わった。


夜に空を飛んでいく姿を見た、方角は覚えていない、それだけだ。


「竜を見たのってあの子なんです、だから詳しい事はほとんど分からなくって」


視線を奥の部屋に向ける、自分の冒険話を面白おかしく話してるようで、男の子の方も目を輝かせながらその話を聞いている、流石に子供の夢を壊すような事は話さないだろう。


「それで冒険者さんに頼んでみようってあの子が聞かなくって、手紙は私が書いたもので一緒に出しに行ったんですけど、まさか本当に来ると思ってませんでした」


「ハーリングに冒険者組合が出来たのは知らなかったんですよね?」


「そうですよ、冒険者って本に出てくる架空の仕事だと思ってましたし」


地域によってはこうもなるか、手紙が組合に来るまでの経路が分からないけど依頼には関係の無い話だ、何かの手違い、もしくは誰かが気を利かせたか。


「冒険者物の本ってこっちにもあるんですか?」


あっちの話も盛り上がってるみたいだし出して貰ったお茶の分、世間話でもしていよう。


「ある、というか、旦那が運送の仕事やってるんですよ、たまに他の国の絵本を買ってくることがあって、そこで知った感じです、それであの子のお気に入りになっちゃって」


「あぁ、それで」


冒険者物の本にはまるのは子供の頃ならよくある話、こっちだとより新鮮に感じられて目新しかったのかも知れない。


「……あれ、そういえば関所って今開いてるんですか?デモが起きてるって聞いてたんですけど」


「まだ封鎖まではしてませんでしたよ、守衛の人もいつ通れなくなってもおかしくないとは言ってましたけど」


心配してるのは旦那さんが帰ってくる頃に関所が通れるかどうかって事だろうか、私たちも足止めされるかもしれない。


「ほんとに、迷惑で仕方無いですね……」


半ば諦めている様子で溜め息混じりにそう言う、良くはないけど慣れている印象。


「そうだ、この辺りでご飯の持ち帰りが出来る所知りませんか?出来たら観光客向けの癖が強くないのがいいんですけど」


話が暗い感じになっていたようだから方向転換、どうせこの後買う羽目になるんだからここで聞いておこう。


「えーっと……地図書きましょうか、ちょっと入り組んだ所にあるので」


「ありがとうございます」


聞きたいことはこんな所か、あんまり長居するのも悪い。


ここからの地図を書いて貰った後、席から立ち上がるとビバさんが視線を僅かにこっちに向けた後立ち上がる。


地図を書いて貰ってた辺りからそろそろ出ていく雰囲気を察したのか、話を畳みに行っていたのは分かった。


「時間取らせてしまってすみません、私たちはそろそろ」


「絶対手紙送るから、ちゃんと届くよね」


「うん、絶対大丈夫」


そんなやり取りの後、部屋を後にする。



-2-


「どんな話してたんです?」


トライクに戻るまでの間の他愛のない話、流し聞きしていただけだから詳しい内容までは聞き取れてない。


「そりゃあもう、私の冒険者生活の見栄えが良いところを良い感じに、後は好きな本の話とかかな、本が好きで一人で読めるように文字の勉強中らしいよ、サインまで貰っちゃった」


そう言って曲がりくねりながらも何とか『ハル』と読める少し癖のついた紙を広げて見せる。


「また手紙送ってくれるってさ、文通みたいで何かわくわくするね」


「返事忘れないようにしてくださいよ」


「分かってるって、そんな子供の夢壊すような事しないよ、そうだ、あの子に謎掛け出されたけどシルバもやってみる?」


「折角なんでやりましょうか」


トライクを走らせ、書いてもらった地図を横目に目的地を目指す。


「ここに底が抜けて穴だらけになった壺があります、この壺の中を水で一杯にするにはどうすればいいでしょう?」


「……穴塞いじゃダメなんですよね?」


「ダメなんだろうね」


底の抜けた壺に水を入れる方法、どうすれば水で一杯になったって言えるか。


謎掛けなんだから言葉遊びの類なのかもしれない、とはいえ運転中、少し考えて思いつかなかったからすぐに諦めた。


「……どうするんです?」


「諦めるのはや、壺を水に沈めるのが正解なんだって」


「確かに一杯にはなってますね」


「なんか釈然としないけどね、この状況の時、どこまでが壺の中の水なんだろうね、壺の外側の水も同じ水じゃない?」


「この流れで区別する必要あります?哲学的な話になってきてますけど」


「こういう話たまにするの楽しくない?賢い事言ってる感があって」


「感じゃ意味ないですよ、今まで聞いた人、皆竜種信仰でした?」


「まぁ、流石に分かるか、そもそも竜の事信じてないとこんな依頼してこないだろうしね、話全部聞き終わったし、移動しながらまとめようか、分かることは多くないけど」


竜の目撃情報は四つ、南部の物が三つ、北部の物が一つ、共通するのは北に向かって飛んでいった事。

発見日時からして一番新しいのは北部の物、そこから更に北に飛んでいった。


目撃された竜の特徴は共通して黒い鱗だった事、似た竜が二匹いたという線は流石に薄いだろう。


情報をまとめると黒い鱗の竜が北に向かって飛んでいった、時系列的にも南から北に飛んでいるのは間違いない。


これ以上の情報は無い、探そうとするなら周辺に聞き込みが必要だ、北部の竜種信仰者を見つけられれば何か目撃情報が出てくるかもしれないけどそう都合よくいかないだろう。


「結局どこまで調査する気なんですか?」


「今は程々でいいかな、見つけた所でどうすんだってのもあるし」


「その辺の事、何か考えてあった訳じゃないんですね……」


そもそも依頼の目的がはっきりしていないんだから仕方がないとは思う、こういう調査依頼ははっきりとした結果が出なくても調査しているってだけで納得してくれる事も多い、悪い言い方をすれば手を抜いてもバレない、勿論そんなつもりは無いけど。


そんな話をしつつ店の前まで着いた、外から見るに精肉店のようだ、店先に『肉の祭典』と大きく書かれた仰々しい雰囲気の大きな看板が立て掛けてある。


見たらすぐに分かる、とは言っていたからここの事で間違いないだろう。


「ここみたいですね」


「なんか凄いのあるね、私はこれにしようかな」


その看板のすぐ横、写真付きのメニューが壁に張られていて、いくつかは見た目と名前のインパクトが凄い。


『砲弾肉団子』『爆発肉巻きおにぎり』『肉肉巻き』……語感だけでも誉め言葉として頭の悪そうな料理なのが分かる。


ビバさんが指差していたのは『チーズ肉巻き』、特製のタレに漬け込んだ肉でチーズを巻いた後に炙った物、説明すればそれだけだけど写真から既に美味しそうだ。


「とりあえず買ってきますね」


私の分は何を買うかは考えてないけど適当でいいか。


「らっしゃーせー」


「すみません、チーズ肉巻きと……肉肉巻き、一つずつ持ち帰りでお願いします」


「あいよー」


似たようなのを前に食べた気がするけどまぁいいか。


夜にはクルクスに着く、あのエルフの言う事を信じるなら何かある、何日か滞在することになるかも知れない。


二十年ぶりの里帰りといっても思い入れも何も無い、私と母さんの二人だけで過ごしていた頃だ。



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