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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
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冒険者的日常(1)

-1-


いつもと同じ時間に目が覚めた、午前中に竜の話を聞きに行って午後にはここを出る、クルクスに向かうまで一泊、翌日の朝に到着の予定だ。


そのためにもまずはビバさんに起きてもらわないと行けない、ベッドから下りてビバさんの寝ているベッドまで寄ると敷いてあるマットの端を掴んで


「よっ」


勢いよく持ち上げる、ビバさんの体が宙に浮いてすぐに沈んだ。


もぞもぞとシーツから不満げに顔だけ出すと恨めしげに視線を向けてくる。


「もうちょっとゆっくりしてても良くない……?」

「行くなら早い方がいいですよ、手続きに時間掛かるかも知れませんし門閉まるかもしれませんし」


「へーいへい、野宿はしたくないなー」


渋々、不満げに、納得していない様子、ともかく手早く支度を終わらせる。


宿を出る際に宿がサービスで配ってるらしい軽食の入った小袋を受け取ってから出る。


小袋の中には二口程で食べられる大きさの団子が入っていた、茶色いのと白いのが一つずつ、ビバさんのも同じ内容だろう。


「甘いのってどっちだっけ?」


「茶色の方ですよ、交換します?」


「助かるぅ」


交換して食べてみると甘いといっても甘じょっぱい程度だった、ビバさんは得意じゃない味だろうなと思う。


トライクの横で二人並んでもちゃもちゃ食べ進める、サービスで配ってるのは味に自信があるからだろうか。


「やっぱりクリミナ料理もメニューに足した方がいいのかな」


「今のままでいいと思いますけどね、クリミナ料理食べたかったら他に行けばいいだけですし」


ハーリングの組合で出してる料理はクリミナ料理以外幅広く出してる、多少味付けはクリミナの人の好みに寄せてるけど、あそこまで人気なのはそれが理由の筈。


色々な国の料理の店、いくつかのメニューが日替わりなのももしかしたら関係あるかもしれない。


「オオヨロイの可食部って組合で引き取る予定なんですよね?」


「せっかくだし広場とか借りて解体ショーでもやろうかなって思ってるよ」


「いいと思いますけど余計に飯屋だって思われません?それ」


「それは……致し方無し、知ってくれてる人が増える方のが大事でしょ」


話が終わったタイミングで二人とも丁度食べ終え、手に付いた粉を軽く払ってから止めていたトライクに乗って路地を出る。


「それでどこに行けば?」


「大通りを真っ直ぐに行ってもらえれば」


「……関所に行くんですか?」


大通りを道なりに進んでいって辿り着くのは北部と南部とを分ける関所だ、一度だけ通った事がある筈だけどその時の事は思い出せない、大した印象が無かったんだろう。


「一応確認なんだけどさ、ディブニハールって関所の向こう側もディブニハールだよね?」


「特別な呼び方はしてなかったと思いますけど……本当に胡散臭いですね、その依頼」


「ね、これ住所ね」


受け取った手紙の裏面に書かれた住所は確かにディブニハール北部の物だ、関所を越えた先にもこっち側より少し規模の小さい街がある、どちらも街としてはディブニハールと呼ばれている。


『竜が飛んで行くのを見たので冒険者の皆さんに調べて貰えませんか?』


手紙の内容は短くそれだけしか書かれていない、誰かからの噂を又聞きすれば冒険者に辿り着く事もあるかもしれない、が関所を挟むとなると途端に現実味が無いように思える。


この依頼主はどこで冒険者の事を知った?どうしてそこに依頼を送った?考えても仕方ない、依頼主に直接会って聞くのが一番早い。



-2-


昨日は見掛けた衛兵の姿が今朝は一人も見えない、まだ巡回の時間では無いか、たまたまか。


大通りを道なりに進んでいくと大勢の人が道を塞いでいるのが見えた、大通りを遮るように出来たそれは関所の方向に向かっているようだ、ここから見てもかなりの人数が集まっているように見える。


何人かは看板を掲げて歩いているようだけど、裏面しか見えないせいで何が書いてあるか分からない。

明らかに何か起きてるこの状況、一旦トライクを道の端に止め様子を伺う。


「遠回りしますか?」


ここの立地には明るくないけど目的地の方角さえ間違えなければ関所までは何とかなるだろう、そこからどうなるか、そもそもこの状況で関所を通ることが出来るのか?


「けど、あれ何の集まりなんだろうね」


怒声の内容に耳を澄ませてみると衛兵の怠慢だとか犯人を許すなだとか何とか。


「あーちょっとそこの人いいかな、あれは何で集まってるの?」


近くで写真機を持って野次馬していた獣人の男にビバさんが声を掛ける、自分に話し掛けられてると思っていなかったようで一度周囲を見渡してその事に気付いたのか、確認するように自分を指差した、その反応を見てビバさんが手招きすると近くまで来てくれた。


「あんたら余所の人か?ちょっと前に至上主義者絡みの暴動があったんだよ、怪我人が何人も出て死人も出たって聞いてる、その被害者とそれに同情した奴らと日頃の鬱憤を晴らしたい奴らの集まりみたいなもんだ」


「暴動があったのは知ってるけど、何か関係あるの?」


「言っちゃあなんだが死人が出るのはまだ分かるんだ、けどその時に行方不明になったのが何人かいたみたいでな、それに北部……関所の向こう側の奴らと衛兵が関わってるって噂になってる」


彼の言うように死人が出るのはまだ分かる、そういう連中だから、とまだ納得出来る。


なら行方不明者の理由は?至上主義者が絡んでいるのは間違いないにせよ何があった?


行方不明と一言で済ませればそこまで、正確に言えば本人がどこにいてどんな状態なのか分からない、災害とかならともかく、人為的な物で起きるならそれは例えば誘拐が当てはまる、そんな噂が知れ渡ってしまったならあぁいう行動に出るのも違和感はない。


「なるほどねー、ついでに聞きたいんだけどこんな状況だけど関所って今通れる?」


「多分通れるんじゃねえかな、封鎖するって話は聞いてないから」


「分かった、ありがとう、時間取らせてごめんね」


別れを告げ一旦トライクを走らせる。


「新聞の人ですかね」


「多分ね、刺激したくないし遠回りで、道は雰囲気で何とかなるでしょ」


とりあえずは少し進んだ所に曲がれる道があるようだから大通りを一旦進む、



-3-


少し迂回するだけで関所には問題なくついた、時間もそれほど掛かってない、ただ人集りが近付くにつれて怒声の内容が嫌でもはっきり聞こえる。


「犯人を見つけて吊し上げろ!」「北の奴らを追い出せ!」「ディブニハールに平和を!」


彼らの掲げる看板にはそれを主張するような強い言葉、それから人間を排斥するのを連想させるような絵が描かれている。


幸い魔動機が通れる程度の道幅は残っているようで、そこを境界にして何人もの衛兵が腰ほどの高さのバリケードを挟んで目の前の群衆と睨み合うような形を作っていた、ぱっとみただけでも衛兵の中に人間はいないように見える。


威圧的な雰囲気を感じる壁とそれに反して少し小さい印象の門、門の横にある受付らしい場所まで乗り付け、必要な書類を持ってから向かう。


「……確かに封鎖はしていないが通ろうとするかね普通」


「すみませんねこんな時に、急ぎの用が出来たもので」


「仕事なんでね、やれと言われればやりますよ」


お互いに小言を言いつつも記入用紙を滑らせるように受付の上に置く。


守衛との会話は相変わらずビバさんに任せる、その間に私は必要な作業に集中する。


「荷物一式そこに置いといてくれ、魔具や武器を着けてるならそれもそこに」


「すみません、これとこれは試験品です、それから……」


一旦足輪を外し、刀と書類とをまとめて受付に置く、ビバさんに向き直り手を差し出すと思い出したように指輪を外し、横着してトライクに乗ったまま体を乗り出した上で背筋を伸ばして手渡そうとする。


指輪を受け取るついでに載せてある二人分の荷物を言われた台の上に移し、指輪を私の試験品と同じ場所にまとめる。


「これも、確認お願いします」


明らかに面倒くさそうな顔をすると渡した書類に目を通し始めた、時折試験品と書類の内容とを何度か見比べ最後に確認のための魔具を書類にかざすと、判のついた紙を添えて私の方に押し戻す。


この確認の作業、どこまでやるかは場所によってまちまちだ、試験品の証明書を見せるだけで済む所もあれば今回みたいに書類の内容まで確認する所もある。


共通してるのは偽造防止を確認するための魔具をかざす事、ともかくそれで大丈夫らしい。


帰ってきた試験品をいつものように着け直した後、ビバさんに指輪を返す。


「少し待っててくれ」


そう言うと受付側から台の側面を操作し始めた、変なものは入ってないからすぐ終わるだろう。


ふと後ろを見てみると衛兵の背中と意思表示する人集りが見える、実際はそうでないにしろ自分達が責められてるようで落ち着かない。


至上主義者ほどやってる事が過激で無いだけで受ける印象はそれほど変わらない。


「お昼どうする?持ち帰りのがあればそこで買っていこうと思うんだけど」


「それでいいですけど、ビバさん好みなのは探さないと見つからないと思いますよ」


「じゃあ最初の店ですぐに買おう、それなら大丈夫でしょ」


外れだったらどうする気なんですかと言おうとしたところで受付のガラスを三度、軽く叩く音が聞こえた。


「終わったぞ、不審物無し、通行を許可する、念のため言っておくがこの情勢だ、通りたいときに通れなくても文句を言わんでくれよ」


「分かってますって」


「すみません、終わり際になんですがこんな子、ここを通りませんでしたか?」


回収した荷物からティルの似顔絵を取り出し、受付に置くが僅かに一瞥向けるだけでそれ以上の反応は無い、思い出す素振りも見せないといっそ清々しい。


「通った奴の顔は覚えとらんよ、役所仕事なんでね」


「ちゃんと見てくれる?下らない事で文句つけられたくないでしょ」


ビバさんがそれを咎めるように口を出すと不満なのを隠そうともせず、改めて似顔絵を注視する。


「……顔はともかく子供は通っとらんよ、これで満足か?」


「お手数お掛けしました」


荷物と似顔絵を回収し、懐疑的な視線を背中に受けながら門を抜ける、こっちの門の前は平和なようだ。


ディブニハールの地理には詳しくないけど最悪誰かに聞けば住所ぐらいは分かるだろう。


「じゃあ後よろしく」


「ちゃんとそれっぽくしてくださいよ」


関所から道なりに進んで騒ぎがあった割には賑わっている大通りから細い道へ、少し入り組んだ道を抜けて恐らくその目的地についた。


「ここ?」


「の筈ですけど」


手紙に書かれてる場所で間違いない、二階建てのアパート、外観に汚れが目立つのと掃除が行き届いていないせいで寂れた印象を受ける。


依頼主はここの二階に住んでいるらしい、とにかく話を聞いてみない事には始まらない、トライクを近くに止め軋む階段を上がって一番奥の部屋、呼び鈴の類いは見つからないから入り口を三度叩く。


部屋の中から話し声が聞こえると少しして扉が僅かに開いたが誰もいない。


視線を少し落とすと七歳ぐらいの人間の男の子、開いた隙間から私の事を見上げていた


「おと」


「お母さーん!知らない人ー!」


少し身を屈めてお父さんかお母さんいる?と聞く前に勢いよく扉が閉められ、部屋の中からは元気な声が聞こえてきた。


ビバさんに顔を向けると顔を背けられた、顔は見えないけど笑うのを我慢してる気がする。


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