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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
一章 初めましてとそれから
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理由

組合に着いたのは日が沈む前、受付が忙しくなる前に戻ってこられた。


報告書は後で書くってことにして、とりあえずはティルのことだった。


聞いてみると自分の名前以外の記憶が無いらしく、何故あの森にいたのかも分からないそうだ。


孤児院に預けるにしても手続きや準備に日がかかる、問題はそれまでの間どうするかだった。


メイに相談してみると、組合で一時的に保護するか、見知った人、つまりは私かラズリア、どちらかがそれまで面倒を見るか、の二択になった。


ティルにどうしたいのか聞いてみると無言で私の手を掴んだことから私が預かることになった。身の回りの物についてはホビットやドワーフ用の服と靴を貸してくれるそうだ。


とりあえずラズリアに体を洗ってあげるように頼むと明後日街を案内する約束を済ませ一旦別れ、組合の階段を上る。


階段を上り突き当たりの部屋、三度扉をノックすると「どうぞ」と促された。


「失礼します」


扉を閉め正面に向き直る。そう広くない部屋だ。事務用の机、応接用の机を挟むようにソファー一式、所々隙間の空いた棚が壁に並べられている。


正面の事務用の机でくすんだ灰色の髪をした子供が何かの書類とにらめっこしながら判を押していた。


「……忙しいならまた後で来ますけど」


「そろそろ休憩しようと思ってたので大丈夫ですよ」


顔を上げずそう言って書類に判を押すと終わったと言わんばかりに掛けていた眼鏡を置き大きく伸びをすると


「お久しぶりです、依頼の件ですか?別件ですか?」


未だ幼いながらどこか年季を感じさせる穏和な表情を私に向けてきた。


アルティア冒険者組合組合長、アルナイル・ダスティート。ホビットとエルフのハーフだと聞いてはいるが本当のことはわからない。少なくとも私が初めて会ったときからずっと変わらない姿のままだ。


「……両方、ですかね」


「確か……ラズリアさん、でしたか?監督役をしてもらっていたはずですが、何か問題でも?」


「いえ、あの子は問題ないですよ、いくつか今日の依頼に関してお願いしたいことがあります」


「……長くなりそうですね、良ければ座ってください」


言われた通り、応接用のソファーに浅く腰掛ける。安物ではないがそう高価な物でもない、普通のソファーだ。


「調査の報告書はまた後で提出しますが……調査の途中きこりと思われるミノタウロスと戦闘、これを殺害しました、確かに殺したはずですし痕跡もありましたが死体は確認出来ていません」


「……そのことを知っているのは貴方とラズリアさんだけ、と言うことでよろしいですか?」


まとめてしまえばそれだけのことだ。

そうする必要があったというのを理解してくれているようで続く言葉は何故、でもどうして、でもなく事実の確認だった。


「もう一人、テイルスという森で保護した獣人の女の子も知っています、口外しないように言っていますので大丈夫と思いますけど」


「……わかりました、こちらで上手く処理しておきます、割には合わないでしょうが報酬をいくらか上乗せしておきます」


少しの間何かを考えるように目を閉じ、それが終わったのか再びゆっくりと目を開けると


「それで、お願いというのは?」


その一言で場の空気が僅かに緊張感を持ったような、交渉の場を作り出した。


僅かな圧力。顔の前で手を組むとさっきまでとはまた違った印象を与える声でそう言った。


とは言え知らない仲ではない、あぁいう仕草を取ったときは決まってこうだ。


「我慢しなくても吸いながらでいいですよ、気にしませんから」


「……すみませんね、しばらく吸ってなかったもので」


そう穏和な声で言って机からパイプを取り出すと口に咥え指先を火皿に触れさせると深く息を吐く。子供のような見た目からは想像できない程老けた仕草だ。


頃合いを見て私が声を出そうとした時だった。


「いいでしょう、引き受けましょう」


意表を突かれた即答に一瞬言葉が出てこなかった。


「……そう言ってくれるのは嬉しいんですけどせめて話聞いてから決めませんか?」


「どこの誰とも知らない人の頼みならそうするでしょうけど違いますからね、それに貴方からの頼みなんて珍しいですし、私に出来ると思っているから頼むのでしょう?ならそれに答えるべきです」


そういってパイプを咥えたまま意地の悪い笑みを浮かべ首を傾げる。後が怖くなったが、その時はその時だ。


会話の流れを戻す意味で軽く咳払いをし本題に移る。


「……私が殺したミノタウロスについて調べてくれませんか」


僅かな沈黙、何かを考えるように目を閉じ


「……理由を聞いても?」


そうは言うがきっと理由の見当はついているのだろう。それでも確かめるようにそう言った。


隠すつもりはなかった、理由を聞かれたなら答えるつもりだった。それでも思わず感情が漏れだしてくる。


「12年、ずっと探して、やっとなんです」


自分ではない記憶に見た懐かしい姿。ずっと聞いていたかった懐かしい声。突然いなくなってしまった大好きな人。


「やっと見つけた、母さんの手掛かりなんです」


私が冒険者になった理由。


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