北へ
-1-
「いや、きったな」
ビバさんの部屋を見て一言目がこれだった、部屋の至る所に物が散らばっていて整理整頓が出来ていない。
ビバさんの言う掃除『は』ちゃんとしてる、って言うのは掃除はしてるけど片付けてはないって事だ、掃除したついでに片付ければいいのに、といつも思う。
魔法無しで掃除させれば流石に整頓するだろうか、した所ですぐにこの状態に戻りそうな気もする。
ビバさんはというと入り口で止まっていた私を置いてベッドまで辿り着いていた、ベッドの上は流石に散らかっていなかった。
組合にすぐに使わない荷物を置いた、シャワーも借りた、後は寝るだけだ。
「とりあえず明日は北部の方に話聞きに行く予定、ここからだと到着は明後日かな……聞き終わったらクルクスに行ってみようか」
「何もない訳じゃ無さそうですしね」
ベッド回りは比較的物が少ないからそこに私の荷物を置く。
ここで寝るとなると散らかっているものをいくつか片付ける……のも面倒だし端に寄せていけば場所は作れるか。
そうやって寝る場所を作ろうとした所で気付いてしまった。
すぐに使わないだろう荷物は組合に置いた、具体的には野営用の設備、今欲しかったのは寝袋の類い。
ビバさんの部屋に予備の敷き布団なんて無いだろう、せめて椅子があれば少し楽に寝れたけどそれも見当たらない。
正直さっさと寝たい、組合まで荷物を取りに戻るのも面倒、けど床で寝るのは最後の手段にしておきたい、荷物を枕代わりにすれば少しはましか?
私の心情を察したのか
「一緒に寝る?」
不意にそう言う、ベッドの大きさは大人二人で寝転べるだけの大きさはある、尻尾の分少し詰めないとはみ出るかもしれない。
色んな物を秤に掛けて
「……じゃあそれで、起きなかったら無理やり起こしますから」
「それは頑張る」
ダメかもしれない。
-2-
朝、いつもと変わらない時間に目が覚めた……けど、腰の辺りにいつもと違う感覚があった、それだけで何となく状況を察してしまう。
二人並んで寝ていた筈がビバさんの顔がすぐ横にある、抱き寄せるみたいに腰に尻尾が巻き付いてるし引っ付かれてるし、抱き枕代わりにでもされてるんだろう。
「……ビバさん、朝ですよ、起きてください」
態勢はそのままに、体を揺すってみても反応が薄い。
前にもこんな事があった、もう十年ぐらい前になるか。
初めてビバさんと外泊して、間が悪く一人部屋しか空いてなかった、私は寝袋で寝ても構わなかったけどビバさんに誘われて断るのも失礼だと思って一緒に寝た。
朝起きたらこんな風に抱き付かれていた、その時はビバさんに遠慮して巻かれるまま抱かれるまま、目が覚めるまでじっとしていた。
ビバさんの寝覚めの悪さは知らなかったし、無理やり起こす程の無遠慮さはその時のビバさんには向けられなかっただろう、今は違う。
足で反動をつけて無理やり全身を起こし、ベッドの上に尻をつけずに座ったような態勢にする。
私に引き摺られる形でベッドの上をやや滑って、姿勢が変わったのにまだ起きない……というよりは起きようとしてない、寝たふりをしているようだった。
「……はぁ」
「わっひょい!」
構わずビバさんの尻尾に触れ、軽く魔力を流すと変な声をあげながら飛び跳ねるように起きた、恨めしそうな目で見られても困る。
「無理やり起こすって言ってたんで」
「昔のシルバはこんな子じゃ無かったよ……」
「他人行儀じゃなくなったら元々こんなですよ、早く行かないと野宿ですよ」
ベッドから降りようとした所で散らかった部屋が目に入って思わず顔をしかめた。
改めてここから見ると本当に散らかってる、とりあえず昨日どうやってここまで来たかを思い出しながら荷物を取りにキッチンの方に向かう。
朝食は組合で食べるのでいいだろう、新しく準備する物も特には無い、大街道を北上して、ディブニハールに着くのは夜になるだろうから一泊して話を聞くのは翌日、話を聞いたら今度はクルクス。
……クルクスは二十年ぶりになるのか、特別懐かしい感情がある訳でも無い、思い出らしい思い出も言われれば確かにそんな事があった程度の物しかない。
荷物を取って振り返るとビバさんはベッドの上から動こうとしていなかった。
「また流しましょうか?」
「起きます、起きますから」
-3-
クリミナはエスリックに次いで遺跡の数が多い国だと言われている。
単純に国土が広いから、というのもあるだろうけど、元々人は北に済んでいて何かの理由で南下してきたから、という説があるらしい。
その理由には思い当たる物はある、不定期に発生するらしい通称嵐と呼ばれる異常気象とそれにともなう魔物の大移動、クリミナの最北の更にその先、開拓域と呼ばれる場所ではそんな事が起きているらしい。
では何故遺跡は地下に作られたのか?この理由は昔は外の気候が農耕に適した物では無かったからだとか、魔物に家屋や設備を壊される可能性を減らすためだったとか諸説ある。
そんな諸説ある中でも他と比べて異質な物が一つ、空から見ている何かから隠れるために地下で暮らすようになったのではないか、と。
その根拠は遺跡から見つかった一枚の文献、発見された場所から察するに教理のような物らしいが状態が悪く読み取れたのは最後に書かれていた一文だけ。
『我々は空に見られている、その事を忘れてはならない』
その一文で締め括られた一枚はその不気味さと不可解さからこういう話をする時には欠かせない話題の一つらしい。
「見られているって言い方、星とか月とか形のある物に言うんじゃないんです?」
大街道を北上中、ビバさんの話に割って入る、時間潰しの話のネタとして遺跡について話してもらってた。
見られているっていうのは何か形がある物に使う印象がある、少なくとも空に使う表現ではないなと思った。
指摘すると話を途中で折られた……よりも私の指摘が的外れだったのか少し落胆した声で
「当時の人の感性に言うかね?こういうのは雰囲気が大事なんだよ、教理なんてそんなもんでしょ」
「気になったんで、というか遺跡の研究なんてしてたんです?」
「やりたいことが特に見つかってない時の長命種っていろんな事に手出すんだよ、浅く広い知識はそれのせい」
本人は浅く広い、とは言っているがそれでも博識に感じる程度には知識の幅が手広い、特に魔具や魔動機については一流と言っても差し支えない知識と技量があるように思う。
「配管整備とかやってたんでしたっけ?」
「魔具と魔動機に関係する事は一通り手をつけたと思うよ、楽しかったし」
それがどういう経緯で冒険者になるのか、魔具師になった方が良かったんじゃないかと思う。
そういえばビバさんが何故冒険者になったのか聞いたことがなかった、別に興味がある訳でも無いから聞かないけど。
そんな雑談をしつつ、特に問題も無くディブニハールまで着いた。
関所があるだけあって夜でも賑やかな街の筈だけど今は不気味なぐらいに静かだ、それに至上主義者絡みの騒ぎがあったからか、衛兵の数が多く感じる。
「任せていいです?」
「はいはい」
短い期間とはいえ、宿の手続き等はビバさんに任せる。
至上主義者が暴れていた街だ、人間がやると余計な不安を呼ぶだけだろう。
今回の更新はここまでです




