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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
83/102

楽しい時間はすぐ過ぎる

-1-


深夜、寝ていると不意に音を立てないようにゆっくりと扉が開いた、間隔の短い足音が部屋の中に入ってくるともう一度ゆっくり扉を閉めた。


目の前を探るようなゆっくりとした足音が近付いてくる。


敵意のような類いはない、それにこの足音からして……不意に体を起こすと両腕で枕を抱えたアカメが困った様子で駆け寄ってきた。


「どうかした?」


「えっと……あ、あのね、その……」


僅かに目を伏せ枕を抱き寄せたまま落ち着き無さそうに手を遊ばせている。


何かを言うのを躊躇っている、いや恥ずかしがっているようだ、こんな時間に来た理由も今ので察しが付いた。


「一緒に寝る?」


私の方から助け船を出してやると途端に表情がぱぁっと明るくなった、ぱたぱたと駆け寄り勢いのまま布団の中に潜り込む、その前に少し端に寄っておく。


背中合わせ……だとお互いに尻尾が邪魔になるから向かい合う形になるか。


一人だと丁度いい広さだったが二人で入ると流石に狭い、おまけに尻尾が布団からはみ出る。


「尻尾はみ出てる」


「うーん……あ、そうだ、こうやって……こう?」


そう言ってもぞもぞと体を寄せ、尻尾を回し自分の正面で抱きかかえた、それに倣って私も自分の尻尾を前に回し抱きかかえる、普段やらない態勢で少し違和感があるが寝る分には問題ないだろう。


……態勢を変えてからアカメの目線がそわそわしていて落ち着かない、何かあっただろうか。


「何?」


「尻尾さわっていい?」


思った以上に大したことじゃなかった、何も言わず尻尾をアカメが触りやすいように近付ける。


やや遠慮がちに伸ばした指先が毛先に触れ、次第に慣らすみたいに手のひらで毛並みに沿って撫でる。


「おーふかふか」


そうやってしばらく私の尻尾を撫でていると


「んー……私のもさわる?」


何故か自分の尻尾を差し出す、別に触るつもりは無かったが言われた以上触らないのも居心地が悪い、言われるがまま指先から順に手を触れさせる。


感触は少しざらついている、鱗があるのだから当たり前か、なかなか癖になる触り心地だ、尻尾の輪郭をなぞるように手のひらを動かして感触を堪能する。


「んふふ、ちょっとくすぐったい、あのね、へんな夢みたの、それがこわくって」


夢の内容が少し気になるが掘り下げたところでどうしようもない、わざわざ私を頼って来たんだ、それに応えるべきだろう。


「じゃあ気が紛れる話しよう、何かある?」


「えっとねー……テイルスは、おっきくなったら何かやりたいとかってある?」


何かあるかと振ったのは私だが、将来、これからの事、今まで考えた事がないことを聞かれ、つい黙ってしまった。


やりたいことと言われてもこれまでただやりたいように生きてきた、今更そんな事を考えても何も思い付かない、惰性で生きていると思いたくはないが何か目的がある訳でもない。


魔法の事や魔具の事を勉強しているのだって、本を読んでいるのもそうだ、ただ気になるからでそれを使ってどうこうするつもりは今のところ無い。


「私はたくさんあるよ、おいしいものたくさんたべたり、色んなところにいったり、いろんなお話をきいたり、あとはテイルスに本よんであげたり」


私の沈黙に構うことなくアカメが続ける。


「最後のは別にすぐ出来る」


「うん、今度おじちゃんがきたら私がよめる本おねがいしてみる、でも次いつくるかわかんないんだって……あ、そうだ、私が本つくったらテイルスによんであげられるかな?」


「いいと思う、どんな本にする?」


「えっとねー、いろんなところを冒険して、こまってる人をたすけるの、わるい人とたたかったりもするけど、ちゃんと仲なおりするんだよ、それから……」


雲の上にある街、そこに行くための空を飛ぶ船、繰り広げられる冒険の数々、どこか見覚えのある魔物の話や見覚えのある食べ物の話、時折話が逸れつつもアカメが想像した本の話を続ける。


眠気に負けないように話を続けていたようだが、不意にその言葉の続きがいつまで待っても返ってこなくなった、少し経つと穏やかな寝息が聞こえてくる。


「おやすみ」



-2-


朝起きるといつの間にかアカメに抱き付かれていた、はみ出るからと前に回してきた尻尾の代わりにされたようだ。


私が身じろぎするとアカメも流石に起きたのか、ゆっくりと目を開ける。


「んー……………おはよー…………?」


「おはよ」


寝覚めが悪いのか反応の遅れた間延びした声だった、ゆっくりベッドから立ち上がるとまだ半分寝ているような状態でとぼとぼと歩いていくアカメの後ろをついていく。


そのまま階段を下り、居間まで下りてきたがルシアの姿が見当たらない、まだ寝ているんだろうか。


「ルシアお姉ちゃん、どこにいるのかな?」


「探してみる?」


提案してはみたがこの家はそれほど広い訳でもない、二階に部屋は二つ、私とアカメで使っている、アカメの部屋にいる訳はないだろう。


居間の奥には狭い調理場がある、そういえばこっちにまで入った事は無かったか、目につくのは二段の冷蔵庫と収納棚、中身を見る必要は……


「あ、テイルス!ジュースあるよ!」


そうは思っていたがアカメが下の段の冷蔵庫を開け中身を物色していた、薄黄色の液体の入った半透明な水差しを嬉しそうに抱え、私に見せてくる。


……この距離からでも分かるが水差しの中から酒の類の匂いがする、味が気にならないわけではないが今は別にいい。


「それジュースじゃない、多分酒」


「そうなの?……のんじゃだめかな?」


「アカメにはまだ早い」


不満げに目線だけで抗議するがそのまま黙っているとすぐに諦めて水差しを戻し冷蔵庫を閉じた。


この部屋はこれで終わりか、部屋の外に出る、トイレと風呂場を見る必要はないがこの廊下には入ったことのない部屋が二つある。


その内の一つの扉を開けようとしてみたが、鍵が掛かっているのか開かなかった、扉に鍵穴のような物は見当たらない、魔法か何かで施錠しているんだろう、気になって扉に耳を近付けて見るが特に何か聞こえてくる訳でもない。


「んー……もやもやしてる?」


「何それ?」


アカメも私の真似をしてか、並んで耳を近付けるがアカメの感想はどちらかと言えば視覚的な物だ。


ともかく開かない部屋の前に居続ける理由もない、そのもう一つの部屋の扉を開けてみると鍵は掛かっていないようだ。


そう広くない部屋、私が寝ていた部屋と同じかそれより少し広い程度、机とベッド、タンスに小さな本棚、必要最低限に物はあるが飾り気が無い、恐らくはルシアの部屋。


「ここの本はどんなのかな?」


アカメは背伸びして部屋の明かりをつけると本棚の前に立ち、上から順に背表紙を眺めていく、当初の目的から逸れているがまぁいいか。


何か無いか探しているアカメの横に並び、一緒に眺めてみるがここの本棚の背表紙には何も書かれていない本しか入っていない、その中でも特に古そうな一冊を手に取り開けてみたが日記のようだった。


ざっと見た限り本当に他愛の無い、誰かとした世間話の内容だとか、今日の晩御飯の献立だとかそんな内容ばかりだが途中からは白紙になっている、普通日記を本棚に仕舞うか?


アカメの方も端から一冊、私の真似をしてか手にとって開いているようで、その本は頁に別の紙を貼り付けた物だった、張り付けている物の紙質は新聞と同じものだ、内容は主に冒険者に関係する物が多いように見える、何かまとめているようだ。


「わぁ、新聞かな?」


内容が気になるのか、そわそわした様子で時折私に視線を向けてくる、読みたいなら素直に言えばいいだろうに。


「読みたい?」


「うん!」


探検は置いておいて、持っていた日記を元の場所に戻しその場に座り込んで二人並んで本を覗き込む。

ある程度読み進めてからまとめて説明する。


概要としてはハーリングという街に冒険者組合が出来たと言う内容、冒険者の職務の内容の説明、失せ物探し、魔物退治、治安維持、収穫の手伝い、仲介業等々……煩雑な仕事だ。


それから食堂も併設しているらしい、この新聞の記事が貼り付けられている中では一番大きい記事のようだ、他の頁にはこじんまりとした切れ端が切り取られて貼り付けられている、他の物も冒険者に関係した内容のようだ。


「冒険者組合が出来たって書いてるだけ、冒険者の記事まとめた本みたい」


起きた事件や事故、どこで何があって何をして、その結果どうなったのか、アカメにも伝わるように出来る限り噛み砕いて説明する。


話しても問題なさそうな物はある程度噛み砕いてまずそうな物は無視するつもりだったが、平和な内容の物ばかりだ、収穫を手伝っただとか壁の修理を手伝っただとか。


「んー……なんかおもってたのとちがうね……」


「まだ読む?」


「うん」


そうやって読み進めていくと一番最後の頁まで来たらしい


これまでとは内容が異なっていた、事件や事故の類いではなく、これから冒険者組合設立の為の活動がある事、おおまかな予定と冒険者が何をする物なのかについての記事だ、一番最初に見た記事に内容は似ているが最初の物は宣伝、これは報告、そんな印象を抱かせるように文末には設立に携わるらしい主要な人物の名前が載っている。


『会長 ヴィーヴァル

会長補佐 シルヴァーグ・フラットワーズ』


そこにシルヴァーグの名前があった。


「……っ?」


「わ、どうしたの?」


それが目につくのと同時に今までの自分の思考の不自然さに気がついた。


何故今まで思い出せなかった?そもそも認識すらしていなかった。


名前を見て初めて思い出した、既視感……とは違う、その逆、未視感?今の感覚は何だ?知っている事の筈なのに今までそれを忘れていた。


「私の部屋で何してるのかなー?」


そう考えが至るのと同時、間延びした声が扉の方から聞こえて、顔を向けるとルシアが一見柔らかく見える笑みを浮かべて扉から顔を覗かせていた。


「えっと、お姉ちゃんをさがしてて……ごめんなさい!」


これまでの経験から何となく悪いことをしたと思ったのか、すぐにアカメは頭を下げた、私は下げない。


「ううん、怒ってないから大丈夫、それは?」


「テイルスがよんでくれてたの、ルシアお姉ちゃんは冒険者さんの事気になる?」


そう言うと何か引っ掛かったのか、アカメから本を受け取るとページを捲っていく。


「……どうだろう、気になるって言い方であってるのか分からないけど……多分そうなのかな」


アカメの質問に答えると、一度深く息を吐き懐かしむように続ける。


「ここにある本は新聞に載ってた冒険者の事まとめてるのばっかりだよ、趣味……とはちょっと違うけど、なんて言うか、日課?みたいな感じ」


思い返すように、懐かしむように本の表紙を軽く撫で


「もうずっと会えてないんだけどね、娘が二人いるんだ、上の子が冒険者になってるみたいで、下の子は……今何してるのかな……」


「なにかあったの?」


「喧嘩したとかそう言うんじゃないよ?ただ……色々複雑なんだよ、朝ごはんにしよっか」 


掘り下げられたくないのか、話を強引に終わらせ本を元に戻す。


……記憶の齟齬について、アカメとちゃんと話すべきだろうか。


どうやって共有する?過去についての記憶が無いのなら、孤児院での事は覚えていないのだろうか?


その割には私に渡した飾り紐の事は覚えているようだったし孤児院での事も覚えているようだった、覚えている事と覚えていない事との違いが分からない。


それに……アカメの里親の事もある、気安く触れていい事ではない、殺された、とアカメの前で言うのは憚られた。


アカメにも同じ事が起きているならアカメとの認識の齟齬はこれが原因だろう、そうだとしたら里親を殺したのに関係している可能性が高い。


思い出したからと言って今すぐ何か変わる訳ではない、今までと同じようにしていればいい、何か目的があるのだろうがそれも分からない、現状敵意のような物は感じられなかったが相手の得体が知れない。


少なくともこの家にこのまま居続けるべきではない、抜け出さないと。

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