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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
82/102

楽しい時間

-1-


持ってこられた箱の中身は大きさの違うお揃いの服がいくつかそれぞれ二人分、服を取り出す度に自分の前に重ねた後同じように私にも重ね、似合ってるだの何だの言いながら楽しそうに笑う、他にはさっきも出していたブラシの類いや布、私の尻尾用のブラシもちゃんと入っていた。


アカメが掘り返している間にルシアに少し聞いてみようか。


「ここって本ある?」


「あるにはあるけど……二人にはちょっと早いかも、こんなのだけど読める?」


半ば諦めた様子で近くの本棚から適当に一冊抜き取り、よく分からない物が書かれた表紙を私に見せる。


『恐怖!ウーズ男!』


表紙から抱く感想としては陳腐、題名を見た後に表紙を改めて見るとよく分からない物は両腕を広げ今にも飛びかかろうとする人、のように見えなくもない。


ルシアから本を受け取り中身をざっと見てみるが、載っているのは文字だけだ、単に知識と見聞を得たいだけの私はそれでも構わないが、それではアカメが退屈だろう。


本を返すとルシアが本を元の場所に戻し、本棚の前で騒いでいるのが気になったのか、アカメは掘り返すのを止め本棚に近付き、何か面白い本でもないかと背表紙を端から順に流し見し始めた、が


「えっと、の、こ、う……???」


自分が読める文字だけを拾って読んでいけばそうもなるか、アカメの横に並んで同じように端から背表紙を眺める。


背表紙から内容の目星がつけばよかったが、どれもいまいちはっきりしない。


『格納機の向こう側』『格納機の反対側』『怪奇!ウーズ男!』『対決!ウーズ男対ブロブ男!』……さっき同じようなのを見た気がする。


さっき見た本と似た『怪奇!ブロブ男!』なる本を抜き取りあらすじらしい所を流し見する。


ウーズに食われた男がウーズとして意識を取り戻し、自分が何故殺されたのかの真相を辿っていく内容らしい、興味は惹かれるが今読むかと言われるとまた別だ。


「テイルスちゃんはこういう字も読めるんだ?」


「読むのは出来る」


適当に返しつつ一旦元の場所に戻して物色を始める。


目についたのは『領外図説目録』と書かれた分厚い古めかしい本、表紙には……何か自然現象を感じるものや見慣れない生き物らしいものが載っている。


図説とあるからには絵や図が載っている筈だ、文字は読んでやればいいとしてそういうのがあればアカメも楽しめるだろう。


「なんてかいてるの?」


「領外図説目録、多分何かの図鑑だと思う」


「……凄いね、それも読めるんだ?」


ルシアの反応が気になって改めて表紙を見るが特に違和感はない。


「あぁ、ごめんごめん、その本書いてる文字が古いんだよ、アカメちゃんが知ってるのは……多分こういうのかな?」


空中に指を走らせると空に文字が浮かび上がった、『きょうのばんごはんなにがいい?』と書かれている、アカメと一緒に勉強した文字と同じもの、元々何故か文字だけは読むことが出来たせいでそう言われても違いは分からない。


「おにく!あ、テイルスもそれでいい?」


「いいけど、胃もたれしそうなのは嫌」


「んー善処しましょう、わざわざ共通語以外で書く事も少なくなってきてるけど、古い本とかだと使われてるかな……けど読めるってこと、他の人に言わないようにね、変な勘繰りされちゃうだろうから」


「えー!テイルスこれよめるんだ!どんな事かいてるのかな?」


アカメも乗り気なようだし読む本はこれでいいだろう、机に持っていくとアカメは私の後を追い掛け嬉しそうに私の横に座る。


「よんでくれるの?」


「ん」


読み始める前に念のため中身をざっと見てみたが、ある地域での生き物の生態やその地域特有の現象について記された本のようだ、……こういうのもアカメは好きだろう、多分。


目次があるらしいからそこに載っている文字を読んで、アカメの読みたい所を言ってもらってそれを読む、我ながら手慣れた物だ。



-2-


この本に載ってる内容は少し難しいように感じた、載っている物も以前見たような色のついた写真ではなく手書きの白黒の絵だ、絵はそのまま見せればいいが内容はある程度噛み砕いて説明する。


今開いているのはグソクムシのような見た目の生き物の所だ、オオヨロイというらしい、かなり巨大な生き物のようで絵の横に大きさを比べるために人間が描かれている。


説明するのはアカメが興味ありそうな所だけで良いだろう、何を食べてるとかどんな習性があるかだとか……味についてまで載っているのはどうなんだ、食えるような見た目には見えないが食えるのかこいつは、海老や蟹と同じで身が美味い類いだろうか。


「あ!テイルス、それつけてくれてるんだ!」


不意にアカメがそう言う、視線を辿ると私の手に、正確には手首に付けている飾り紐に向けられているようだ。


「ん、結構気に入ってる」


言われてふとアカメの角を見てみてもお揃いだった筈の飾り紐は見当たらない、

地下にいた間はつけていたように思う、どこかで落としたとするとあの化け物から逃げている時だろうか。


「アカメのは?」


「ずっとつけてた筈なんだけどなくしちゃったみたい、でもテイルスがつけててくれてうれしい!」


一瞬だけしゅんとした表情を見せたが心配させないようにか、すぐに明るい表情に切り替え空元気でも出してるようにそう言う、改めて自分の飾り紐に目を向け少し考える、お揃いではなくなってしまったか。


「どうかしたの?」


「何でもない、次どれがいい?」


それからはこの本をずっと読んでいたが流石に頬が疲れた、手のひらで頬の肉を解しているとアカメが真似して私の頬を両手で捏ねる。


「あに?」


「ううん、テイルスのほっぺさわりたくなっただけ」


アカメに頬を捏ねられながらふと窓の外を見てみると随分暗くなっている、いつの間にかそんなに時間が経っていたようだ。


「そろそろご飯にするけど、先にお風呂入っちゃう?」


ルシアの声にすぐに反応すると思っていたアカメは私の反応を伺うように視線を向けてくる、一緒に入りたがっているようだがアカメのいない所でやっておきたい事がある。


「先に入ってて、ちょっとやりたい事があるから」


「うん、わかった、明日は一緒にはいろうね!」


アカメはニールの持ってきた箱から自分用の着替えを掘り返して取り出すとぱたぱたと部屋を出ていった……かと思えば忘れ物でもしたのか、すぐに戻ってきてすっごくいい紙を数枚と毛先の硬いブラシを取るとまたすぐに出ていった。


アカメのいない内に済ませておこう、それほど時間は掛からないだろう、問題は材料があるかどうかだ。



-3-


晩飯はアカメの注文通りに肉だったがあまり肉が主役という感じでは無かった。


薄切りにした肉と様々な種類の野菜、それから柔らかい食感のパンとソースが一つ。


肉と野菜を一緒に巻いてそれにソースをつけて食べる料理のようで、肉に下味がしっかり付いているのもあってそれだけでも美味かった。


ソースをつけて食べると酸味の効いたさっぱりした味に変わる、もう少し味の濃いソースで食べても美味いだろうが今の私の腹には丁度いい塩梅だった。


「代わりじゃないけど、これ」


晩飯を食い終え机の上が片付いた後、アカメに向かって差し出す。


風呂に入っている間にルシアから色のついた紐をいくつか見繕ってもらって、それを交互に束ねたもの。


アカメから貰った物を見よう見まねで作ってみたが、初めて作った割には良い出来だと思う、人に贈る物を作るのは初めてだったがこだわりすぎて完成しないのも馬鹿馬鹿しい、ある程度納得出来るならそれでいいだろう。


「これ、テイルスがつくってくれたの?」


「出来は良くないかもしれないけど」


「そんなことないよ!えへへ」


紐を両手で持ったまま上機嫌な様子でにやにやしながらじっと見つめている。


「着けないの?」


「んーもうちょっとだけ!」


そう言ってしばらく見つめた後ようやく満足したのか、慣れた様子で角の根本に結び付ける、が結び方が少し汚い。


「どうかな?にあってるかな?」


「結び目がちょっと汚い、ちょっとしゃがんで」


結び目に少し手を加えてやると見映えもよくなった、窓に映った自分の姿を見ると嬉しそうにルシアの元へ駆け出す。


「みてみて!テイルスがつくってくれたの!」


「うん、似合ってるよ、アカメちゃんを驚かせたくて内緒にしておきたかったんだって」


そう聞いたアカメは嬉しそうな表情でこっちを見つめてくる、そういう意図が無かったかと言われると無いわけではないのだが、改めて言われると気恥ずかしい。


箱の中から自分の着替えを見繕って逃げるようにこの場を去る、背中に生暖かい視線を感じるがまぁ……悪い気はしない。


なんて事の無いただの日常、気掛かりな点もあるにはあるが気にしても仕方がない事だ。


風呂上がり、アカメが髪の手入れを手伝ってくれた、どちらかと言えば尻尾の方をやりたかったようだが流石にこれは譲れない。


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