屋台飯
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所謂食事コーナー、たくさんの屋台がスペースを囲むように軒を連ねていて入り口に立っているだけで美味しそうな匂いがしてくる。
椅子と机も用意されているみたいだけど、食事のためというよりは休憩に座っている人が多い、人は多いけど窮屈な感じはしない、屋台をざっと見てるけどどれも美味しそうだ。
「いやーこうもたくさんあると悩むっすね……端から順に食べてく訳にもいかないですし」
「じゃあとりあえず端から」
ラズリアの小言に乗っかって、こういう時はどれにするか迷うより勢いで決めた方がいい、入り口から一番近くの屋台の前に立つと
「いらっしゃい、何にするか決まってるかい?」
メニューは屋台の上に掛けられている一本たまごだけだ、名前こそ違うけど要するには卵焼き丸々一本、後はそこにトッピングで何を入れるとかパンで挟むだとか。
「じゃあ、サンドを」
「あ、私は出汁多めのそのままの奴で」
「うい、すぐ出来るからちょっと待っててな」
注文を受けてすぐに慣れた手付きで卵焼きを作り始めると美味しそうな匂いがこっちにまで漂ってくる。
「どっかで見覚えあると思ったらこの前うちに来た人か」
「あぁ、あの時はどうも、覚えられてるとは思ってませんでしたけど」
「いやぁ、礼言われる事はあるにしても、作り方教えてくれは滅多にあるもんじゃないよ、ちっこい子は一緒じゃないのか?」
「色々都合がありまして、出店やってたんですね、ちょっと意外でした」
「店の雰囲気からじゃそう思われても仕方ないわな、元々は屋台でやってたんだが段々出歩くのが億劫になってな、屋台で使う魔動機のメンテナンスだって積み重なればバカにならねえ出費だしよ」
「やっぱり結構掛かるんですか?」
「道具にこだわってなけりゃもう少し安上がりには出来るだろうけどな、一回野外調理用の道具で作ってみたんだが納得のいく味にはならなくてな、やっぱり美味いもん作ろうとしたら道具もちゃんとしたの使わないと駄目だな」
世間話をしているとすぐに出来上がったのか、小さめの卵焼きが一本そのままパンに挟まっているのと卵焼き一本を紙で包んで渡された。
「二人で1100ね」
「なんか適当な理由でキリのいい数字になったりしません?」
「うーん、じゃあ、うちにきてくれたしな、1000でいいよ、それと飲み物欲しくなったらあそこのが一杯目無料やってるからよろしくな」
「ありがとうございます」
思い付いて場当たりで言ったけど意外とノリのいい人だったみたいだ、片方をラズリアに手渡し代金を払う、折角だからさっき教えてもらった一杯目無料の屋台に向かおうか。
「……知らない人と話すのって何かコツとかあるんすか?」
私が踵を返した所で話している間黙っていたラズリアが不意に聞いてきた。
「コツっていうか単に慣れの問題だと思うけど……共通の話題を見つけたりとか、言葉遣いに気を付けるぐらいしか意識してないし」
「……やっぱい慣れるしかないんふかね」
もそもそと卵焼きを頬張りながらそうぼやいた、初対面じゃなければやれてるんだから問題無いとは思うけど、本人的にはそうじゃないんだろう。
一口食べてみたけどやっぱり美味しい、横で盗み見していたけど特に変わった事はしていなかった、となるとやっぱり使ってる道具か食材か下ごしらえか、丁度話してた道具辺りが怪しいけどその辺りはこだわり始めるとキリがない、使い慣れた道具が一番だとは思うけど専用の物を使った方が良い物は作りやすかったりするんだろうか?
「先輩、今卵焼きの事考えてません?」
「そんなに顔に出てた?」
「卵焼き睨んでたら何事かと思うっすよ」
そんなに。
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「うい、初めての人だな、一杯目は無料なんだがどれにする?ちなみに俺のおすすめはこれ、丁度姉さん方の食べてる奴とも合う筈だ」
教えてもらった一杯目無料の屋台の前に立つと気さくそうなリザードマンの男がカウンターの下に吊るしてあるメニューを指差す。
ほとんどがアルコール、名前で察しが付かないのも多分酒だろう、それからジュースが少々、祭りみたいな物だから昼間から酒も出してるか……ラズリアが露骨に私の反応を伺ってるけど、まぁ
「……酔わない程度にね」
「おすすめの奴下さい!」
「あいよ、元気がいいねぇ、そっちの姉さんは?」
止めるつもりは無かったけど半ば食い気味に、酔わな、の辺りでもう注文していた。
「じゃあ、私も同じのを」
注文を受けてすぐ後ろの見慣れない魔動機?からコップを取り出すと透明の酒を注ぎ、カウンターに二つ置く。
「変わったコップですね?」
手触りが木でも土でも金属でもない、表面に滑り止めの凹凸があるけど初めて触る感触だ。
「あぁ、魔力形成って奴で作ってる、準備と片付けが楽ってんで導入してみたんだよ、あ、味には影響無いから安心してくれ」
「っ……かぁー……染みるぅー……」
店の人の説明を聞いていると不意にラズリアの……何だろう、漏れてきた魂の叫び?みたいなのに遮られた。
横を向くとラズリアは酒を一気に煽ったのか渋い顔で大きく息を吐いていた、あまりにも年不相応な動きで少し面白かった。
「やっぱり昼間から酒飲むのっていいっすね……なんか、こう、しちゃいけない事してる感じが」
いつも昼間から飲んでる?と怪訝な面持ちで見つめると
「いつもは飲んでないっすからね?……いや、ちょっとだけ、本当にちょっとだけっす」
嘘を吐こうとして諦めたのか、人差し指と親指とを近付けながらすぐに訂正した、わざとらしく嘆息を吐くだけでそれ以上は触れない。
「いやいや、悪いことじゃない、良い飲みっぷりだった、飲みっぷりに免じてもう一杯無料にするけどいるかい?」
「え、ありがとうございます!それじゃあ、美味しかったんでおんなじのお願いします」
「あいよ」
ラズリアがコップを一旦返している間に一口飲んでみると何と言うかすっきりしてる、あまり酒には詳しくないけど飲みやすい部類だろう。
「ついでに聞きたいんですけど、ここらの屋台でおすすめってあります?酒に合う合わないは関係なしで」
「あー卵焼きはもう食べたんだもんなぁ、正直どこも美味い所ばっかだがあそこのステーキは食っといた方がいい、ここでしか食えないから」
指差す先にある屋台を見てみると人が並んでいる屋台があった、博覧会限定と大きく書かれた看板の横に美味しそうなステーキの写真が大きく貼り付けられていた、ここから見ているだけでも客捌けは良い方だ、少し並べば食べられるだろう。
「ありがとうございます、足りなくなったらまた来ますね」
「あいよ、金は取るがコップは大きいのに変えれるからそん時はよろしく、それと飲み物は他のとこでも買えるけど酒は俺んとこだけだから、そこんとこもよろしくな」
屋台でおすすめを聞きながら回っていこうと思ったけどあそこの屋台は忙しそうだから聞かない方がいいか、一先ずは手に持ってる卵焼きを食べ終えてから、片手が空いてから行こう。
「美味しいは美味しいけど、ちょっとオーバーじゃなかった?」
「事件やら何やらのせいでしばらく飲めてなかったっすからねー、久々に飲むとやっぱりこう、何か違うっすよ」
それからは屋台を回って気になった物や食べたい物をいくつか、屋台の人と会話があった時にはおすすめを聞いたり他愛のない話をしたり、普段あまり食べないような物やこういう屋台での定番の物、少しずつ色々食べて腹も十分膨れた。
今はラズリアが推定最後の酒を飲み終えた所、あれから結局五杯飲んだ。
酒が無くなると私の顔色を伺いながら屋台の方をちらちら見たり、私のコップと自分のコップをわざとらしく見比べたり、決して声には出さすおかわりをアピールしていた、二回目からは顔を覚えられたのか屋台の人と会話も弾んでいたようだ、主に酒の話で。
「思ってたより飲んだね」
「まだ五杯っすよ?」
確かに酔うときはもっと飲んでるか、別に酒に弱い訳では無いんだろうけどそれ以上に飲むから酔って面倒くさくなる、本人は酔ってる間の事を覚えてるんだろうかとふと思った。
「じゃあ、今度こそ魔具作りに行きましょう!……の前にちょっとトイレ行ってきます、流石に、はい」
「あー、うん」




