博覧会
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博覧会、要するには魔具や魔動機等の最新技術やら何やらを披露する場所。
博覧会関係の依頼を受けた事はあるけど参加するのは実は初めてだ、そもそも魔動機や魔具のそういうのにあまり興味が無いから自分から行く事は無かっただろう。
開催期間は三日、生産中止になった魔動機や発掘品、最新の魔動機の展示、技術交流会、現役の一級魔具師による討論会、ライブ演奏……バスに揺られながら博覧会のパンフレットを眺めているけど結構色々やってる。
「どれ見るとかって決まってる?」
「一日目なんで展示とか体験コーナーとか回る感じになるっすかね、後は屋台とかも結構充実してて、その辺り食べ歩きするのも楽しいっすね!」
パンフレットを指差しながらこれもいい、あれもいい、と説明してくれるラズリアはとても楽しそうで、これだけでも連れてきて良かったなと思える。
誰かに誘われでもしないと来ることもなかっただろうから、少し楽しみではある……ティルがこの場にいない事が少し引っ掛かるけど、気晴らし目的で来てるんだから今だけはその事を忘れよう。
そんな話をしていると不意にバスが止まり、乗っている人が立ち上がり外に出始めた。
「とりあえず、行こうか」
バスを降りて一番初めに目に入ったのは正面にそびえ立っている巨大な塔のような物だった、会場の中心から空に向かって真っ直ぐ伸びた塔を見上げていると
「……でっか」
思わず声が漏れてしまった、この街のどこからでも見えそうなぐらいに巨大な塔は昨日は確かに無かった筈、つまりは一日で出来たって事になる。
「気候とか天候とかをある程度操作出来るんすよ」
「今日がちょっと暖かいのはこれのおかげ?」
「まぁそうっすね、それにこの会場、屋根無い所のが多いっすからね、あれ無いと本番なのに雨降っちゃうかもなんでそれを避ける為ってのもあると思うっす、折角なら組み立てる所も見てみたかったっすね……!」
ぐぬぬと悔しそうに手を握り、目の前の塔を睨み付ける。
「組み立てる所って何かあるの?」
「あ、いや、本当にただ組み立てるだけなんすけど、その組み立て方が凄いんすよ!何回か見せてもらったことあるんすけど、パズルのピースが勝手に嵌まってくみたいな感じで!あれ凄いんすよ、大型炉心が120基ついてて……」
確かにラズリアは好きそうだなと思った、目の前の巨大な塔についての話を半分ぐらいは聞き流しながら会場の中を進んでいく。
多分、今日一日はこんな感じ。
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今は魔具の体験コーナーみたいな所に来てる、広いスペースに最新の魔具の効果を体験出来るスペースがいくつも設置されていて、その近くには魔具についての説明が書かれた看板が置かれている。
今試しているのは看板を見るに誰でも重量物を動かせるようになる魔具、少し大きめの取っ手のような形で握った時に親指を置く所にボタンがついている。
魔具の効果を確認するために使うらしい大きめの本棚やベッドにソファ、それに冷蔵庫なんかも置かれている、どれも普通に動かすには少し手間が掛かる物ばかりだ。
魔法を使ってもいいなら少し浮かせてどこかにぶつけたり中身を落としたりしないようにゆっくり滑らせるようにして動かす、とはいえ魔具の体験に来てるのに魔法の話をするのも無粋か。
使い方はとても単純、動かしたい物に取っ手を押し当てて親指のボタンを押す、それだけで運べるようになるらしい。
「へぇー準備いらないんすね、これ」
ラズリアの言うように似たような事が出来る魔具はもうあった筈、あれは事前に中身を出しておいたり運ぶ物の隅に目印を張り付ける必要があったか、看板を見る限りでもそういうのは一切必要がないのを強く推している、なんでも新技術だそうで。
感心したようにそう言いながらラズリアは魔具を手に取り、試しに本棚を動かしてみるそうだ、側面に魔具を押し当て親指のボタンを押すと薄緑色の魔力の膜が本棚を覆うように広がった。
「おぉーこれ凄いっすよ!先輩!全然重さ感じないっす!」
興奮気味にラズリアが片手で取っ手を引くとするすると地面を滑るように本棚が動く。
「へー」
そこまで簡単に動かせると何かにぶつけたりしないだろうか、と不安に思ったけど看板を見るにそれも大丈夫そうだ。
「動かす物の表面に防壁張ってるんだって、何かにぶつけても大丈夫らしいよ」
「勝手に防壁の調整までしてくれるってさらっと凄い事してるっすね……!」
防壁を確認するために本棚の表面を指先で小突こうとして見事に邪魔されてる、当たり前だけど弾くような防壁ではなく沈み込ませるタイプの防壁のようだ。
「先輩はやってみないんすか?」
「見てるだけでも結構楽しかったけど」
魔具が凄いのは見てるだけでも分かった、とはいえ言われてやってみないのも違うだろう。
魔具を操作して魔力の幕を消した後ラズリアが横に避け、何故か期待の眼差しで私を見つめる。
「……それは何の何?」
「あ、いや、本当にすいーって動くんでどんな反応するのかなって」
「一回見てるのにそんな変な反応しないって、あ、本当に凄いね、これ」
取っ手を押し付けてボタンを操作するともう一度薄緑色の膜が本棚を覆う、特に体重を掛けなくても腕を引けば動くのは勿論手首のスナップだけでも動かせるのは驚いた、想像していたよりずっと軽くて素の反応が出てしまった。
その後はラズリアがベッド、ソファ、冷蔵庫、ここにある物を一通り動かして満足したのか
「次はあれ行きましょう!」
今度は楽しげに別のコーナーを指差す、今度のは小さい箱?みたいな奴だ。
「はいはい」
それからは新技術を体験したり、最新の魔具を使ったパフォーマンスを見たり、色々と見て回った、ラズリアはそのどれにも年不相応にはしゃいでいて、まぁ楽しそうだった、気持ちの上ではラズリアの保護者みたいなつもりでいたけど、私も少し乗せられていたかもしれない。
「義手の技術って今あんな風になってたんだね」
「凄いっすよね、義手っていうより副腕って感じで、なんでか飛びますし」
さっきまで見せてもらっていたのは自分の意思で動かせる手……というよりは指の方が印象としては近いかもしれない、そんな感じの魔具、主に人が入れないような狭い場所での作業に使われる予定らしい。
似たような事をする魔法に見覚えがあった、それとはかなり用法が異なっているが理屈としては同じような物だろう。
「魔法で出来る事は理論上は魔具で再現出来るんだっけ?」
「本当に理論上の話っすけどね、魔法を魔具に落とし込むのって本当に大変なんで……」
そこまで言った所で何か思い付いたのか、一瞬ハッとした表情になり
「そう言えば先輩、魔具作った事ってあるっすか?」
ダレン爺の店で働いていた事はあるけど陳列や接客、帳簿の整理がメインで魔具を作ることは無かった、今も働いていたなら作り方を教わる事もあったかもしれない。
「無かったと思うけど」
「じゃあ次は魔具作りに行きましょう!パンフレットに魔具の製作体験みたいなのがあった筈なんで!」
元気よくそう言った割にその後には妙な間が空いて
「……の前にお昼食べておかないっすか?」
「ん、もうそんな時間か」
色々回っているうちにもうそんな時間になってたみたいだ。
せっかく屋台が来ているんだからいくつか食べ歩いてみるのもいいか、どんな屋台が来ているかは知らないけど立ったまま食べられる軽食の類いがメインだろう。




