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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
76/102

明滅する光明

-1-


組合に鍵を返した後、屋敷に戻るとラズラさんに呼び出された、ラズリアにはあまり関係のない事らしく呼び出されたのは私だけだ。


「いくつかお伝えしておきたいことが、まず組合の増援が明後日には到着するようです、人数までは聞いていませんが組合の業務の他にこちらの調査や警護にも協力してくれるそうです」


もう少し掛かる物かと思っていたけど、想像以上に手が回るのが早い、とはいえそんな事を伝えるためにわざわざ私だけを呼び出したりはしないだろう。


「それで、何かあったんですか?」


「遺跡で保護された男性についてなのですが……」


歯切れの悪さからして何かあったのは分かる、それも決して良いことではない。


「尋問中に死亡しました、状況から見ても自殺以外には考えにくいのですが不審な点が多く……」


誰かの不手際を責めるつもりは無いけど、数少ない情報源を失ってしまった、出来るなら私もその調査に加わりたいけどそこまでは手が回らないし関わらせてくれるかも怪しい。


「尋問の録音を預かっています、確認しますか?」


そう言ってラズラさんは机の上に置いてあった小さな箱に手を伸ばした、使ってるのを横で見たことしかないが録音機だろう。


私たちが助けに来たとき彼は本当に喜んでいたように見えた、とても自殺するとは思えない……答えが出ない物を考えていても仕方がないか。


「お願いします」


そう答えると小さく頷いた後録音機を操作し始め、すぐに雑音混じりに声が聞こえてきた


………


『まずは協力ありがとうございます、担当することになったエルレンです』


『な、なぁ、本当に俺の安全を保証してくれるんだよな?嘘じゃないよな?』


『それは貴方の回答次第……と脅す訳では無いのですが、こちらでも出来る限りの事はします、しばらくは不自由な思いをするかもしれませんがどうかご理解下さい、予め言っておきますが妙な気は起こさないように』


『……なんだっていい、俺は、聞かれたことに答えれば良いんだな』


『では始めます、分からない場合は分からないとお答えください、名前と職業は?』


『……分からない』


いきなりそう返されると思わなかったのか、一瞬言葉に詰まった様子だったがすぐに気を取り直し


『……発見された遺跡についての話をしましょうか、どうしてあそこに?』


『竜人の、子供の面倒を見るように言われてたんだ、最初はその子供だけだったんだが、後からもう一人増えた……あぁ!俺が閉じ込められてたのはあのガキのせいだ!あのガキのせいで、俺は……!』


感情的になった男が怒鳴り、机を強く叩く音がした。


『落ち着いてください、誰かに命令されて遺跡にいた、で間違いありませんか?』


『……あぁ、顔は見たことないが男の声だった、あんたと同じぐらいの背だった筈だ』


『では、その子供の容姿は分かりますか?何か特徴は?』


『……一人目は、竜人の子供だ、忌み子って知ってるか、それから……短い癖毛で角は額に一つ、こっちの子は人懐っこい感じでよく話してた』


『古い考え方ですね……もう一人は?』


『もう一人は……亜獣人で、長い金髪に尻尾も髪と同じ色だ、無表情で何考えてるのか分からねえようなガキだった』


亜獣人、あまり聞かない呼び方だ、こんな言い方をするのは今だとクリミナの一部の地域ぐらいだろう。


男の言った特徴はティルと一致する、あそこにティルがいたのは間違いない、もう一人の竜人の子と一緒に逃げ出した、この竜人の子はティルが会おうとしていた子だろう、なら悪魔を殺したのはあそこに居合わせた別の誰か、なのか?


『その二人の子供についてですが誘拐されていた事はご存知でしたか?』


『知るかよ、ただ頼まれたからあそこで子守りしてただけだ』


『……分かりました、話を戻しましょう、遺跡で何をしていたかご存知ですか?』


『聞いたが教えてくれなかった、ほかにも何人か……食事や着替えの手配をする奴がいたが、ほとんど話さなかった』


『あの遺跡にいたようですが、何か変わった事はありましたか?些細な事でも構いません、例えば変わった音がしたとかいつもとは違っていた事があったとか』


しばらく沈黙が続いた、ペンを走らせる音が微かに聞こえてくる。


『一度、問題が起きたとかで遺跡の周囲を見張っているように言われた、結局何も無かったが、後は……銀髪の女が来たんだ、だから俺は、覗き窓を壊して、殺されないようにしたんだ、そうしなきゃきっと殺されちまうって!』


『落ち着いてください、一度机の上に両手を置いて、ゆっくり深呼吸してください』


『あ、あぁ、…………』


『大丈夫ですから、では……その銀髪の女について何か知っている事はありますか?』


『あ、あぁ……銀髪の、女についてだな』


男の声音が少し変わった、何かに怯えているような印象で受ける。


『こども、を、っれて……………………』


続く男の言葉を待つが男からの返事は無い、声になり損ねた呼吸音が長く、低く続いて


『あ、ぁ? 』


酷く雑音の混ざった呻き声が聞こえるとぽた、と何か水気のある物が机に落ちる微かな音が聞こえた、その音は何度も聞こえて、その間隔は次第に短くなっていって、最後にはどん、と重い物が机に落ちたような音が聞こえて


『っ、おいっ!あぁクソ!誰か治癒師を呼んでくれ!』


そう叫ぶ声が聞こえて録音は終わった。


………


「大丈夫ですか?」


録音を聞き終えるとラズラさんは口元を手で覆い渋い顔をしていた、


「あぁ、いえ、大丈夫です、聞くのは二度目ですから、とはいえ慣れるものでもありませんね……不審な点について話しましょうか、自殺としか判断出来ない状況ではありますが最後に雑音が酷くなった部分があったと思います、ですが録音が終わる直前ではそれが戻っていた、道具に異常があったのならそうはならない筈です」


「雑音の原因は……魔力関係ですか?」


「えぇ、あの一瞬で何かあったがそれがすぐに元に戻ったと思われます、結局原因が分からないままなのは変わりませんが……」


その場にいたのはエルレンさん一人、何か出来るなら彼しかいないが疑われると分かっていて殺すとは思えない、……この件を追って得られる情報は決して多くはないだろう。


誰かがどうにかして尋問中の男の口封じをした、それ以上は見えてこないように思える、だったら


「……クリミナに向かおうと思います、短い間でしたがお世話になりました」


子供を連れて、とそう言った、遺跡であった時はクリミナに向かった筈と言っていた、あの男が私の事を母さんと勘違いしていたのなら可能性は十分ある、どういう訳かティルを探す事と母さんを探す事とが重なってしまった。


「随分突然ですね……理由を聞いても?」


「助けた時にクリミナの名前を出していたので、明日準備して明後日には出ようと思います」


「……でしたら、こちらで必要な物を揃えておく代わりにお願いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」



-2-


三度扉を叩くとすぐの扉が開いた。


「先輩?どうかしたんすか?」


「ちょっと話があるんだけど、今大丈夫?」


「だー……いじょぶっす」


特に考えずに大丈夫と言おうとした所で入れていいものか確認するように一度振り向いて部屋の中を確認し、改めて向き直ってそう続けた。


机とベッドと空の本棚にクローゼット、それから遠征に持ってきていた荷物がベッドの脇に置いてある、殺風景だけど元々置いてあった物はメルヴィアに持ってきてるんだから仕方ないか。


何か作業をしていたのか、机の上に紙とペンが広げられている、遠目から見て分かるのは何かを見比べていたようだ。


「もしかして忙しかった?」


「忙しい訳じゃないんすけど今日調べてた報告書から分かる事まとめてたんすよ、あんまり進展してる感じしないっすけど」


どかっとベッドに座り込みながらそう説明してくれた、机に近付いてみるとヴァルニールの書いた報告書をある程度まとめた物と報告書から読み取れた情報が箇条書きでまとめられている。


二十年以上前から冒険者になっていて見つけた一番古い報告書で既に五枚羽だった事、魔具や魔動機について詳しいだろう事、複数人で受けていた依頼の傾向と単独で受けていた依頼の傾向、マーチェスでの報告書は少なく近隣の村や街、他の国での物が目立つ事、医療団に関する依頼を良く受けている事。


「頼んどいてあれだけど量が多いな……」


「ウルベさんも手伝ってくれてたっすからね」


「一応もう一回聞くけど、本当に何もされてない?」


「どんだけ信用されてないんすか……本当に世間話しながら調べてただけっすよ」


ウルベならやっててもおかしくないと思ってる、居ないところで改めて聞いてこれなら本当に大丈夫だったんだろう。


「……あ、そうだ、医療団の護衛でメルヴィアにも来た事あるみたいっすよ」


話題を変えるためか、不意に思い出したのか、突然そう言った。


「医療団が護衛って珍しい」


医療団からの依頼は基本的に薬の材料に関係した依頼が多い、それ以外は街や村で行う医療活動の応援がほとんどで護衛の依頼は稀だ。


メモを眺めているとそれらしい記述を見つけた、メルヴィアに向かう医療団の護衛、新しい医療器具を運搬するため普段よりも護衛を厳重にしていたようだ、日付は……今から十二年前、母さんがいなくなった日の少し前だった。


一瞬、嫌な考えがよぎる。


母さんの帰りが遅くなった理由は医療団を手伝うからだ、その時ヴァルニールもいた可能性がある、パンテロの村の事件に関わっていて、そこには母さんもいて……考えすぎと言うにはあまりにも筋が通っている、ように思えた。


「……なんかあったんすか?」


「何でもない訳じゃないけど……大丈夫、気にしなくていいよ」


「…………なんか用があって来たんすよね?」


話を強引に終わらせると次の話を考えるような間の後、なんとか振り絞って出てきたのか一瞬はっとするとそう聞いてきた、変に気を遣わせてしまったか。


「あぁ、うん、明後日クリミナに行くことになったから伝えておこうと思って」


「って、いきなりっすね……私も」


「却下、今はラズラさんとリアンさんの側にいてあげて、それにこっちで調べてくれる人も必要だろうし」


ラズリアが言おうとした事を強引に遮ると言葉に詰まり、困ったように頬を掻いた、それらしい理由にはなっただろうけど、本当の所は別の理由の方が大きい。


あの国は他種族に対する偏った思想が根付いている地域が多い、勿論そうでない人もいる、クリミナにいる全員が全員そうでないのは知っている、それでもおおよその人は程度に違いはあれど嫌っている、来ても気分を悪くするだろう。


クリミナの他種族嫌いは有名なのにそれでもラズリアが着いてこようと思った理由については思い当たる物が一つある。


「ティルの事、自分のせいって思ってる?」


答えはすぐには返ってこなかった。


「……私がもっとちゃんとしてたらこうなってなかった筈なんすよ」


昨日今日と必死さみたいな物は何となく感じていた、自分に出来る事を探してやろうとするのはいい事だけど、今回の件を自分のせいと思ってしまっているならそれを取り除いておかないといけない、責任感から来る無茶は少しやりすぎる事が多いから。


「私があの日一緒にいられなかったのは私のせいって思う?」


「え、いや、そんな事……」


「こんなだけど後悔はしてるんだよ、私、それでも起きてしまった以上はどうしようもないからね、後悔するのも大事だけど程々にしておかないと自分を追い込むのってキリがないし」


失敗を割り切るとか受け入れるとかそう簡単に出来る物ではないのは分かってる、それが誰かを傷付けた事なら尚更、私は……出来てる方だと思う。


「話変わるんだけど、明日時間取れる?」


そう聞くと不思議そうに首を傾げ


「大丈夫っすけど、何かするんすか?」


「働きっぱなしだし、ちょっとは息抜きしないとね」

今回の更新はここまでです


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