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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
75/102

しつこい訪問者

-1-


「あの、先輩」


資料室のウルベと別れ、組合でラズリアとウルベのまとめたメモを見ていると不意に声を掛けられた、顔を向けるとラズリアはどういう訳か、少し困った様子で


「えっと……ティルが渡してくれたメモの家、もう一回ちゃんと調べてみたいんすけど……」


「立ち入りの許可さえ貰えたら大丈夫だろうけど、何か気になる事でも出来た?」


「状況が似てるってのは昨日言ってた通りで……他にも似てる所あったら犯人の事なんか分かんないかなって」


冒険者が関与したこと、人を拐ったこと、召喚機が持ち込まれたこと、確かに他の共通点が見えればそこから何か分かるかもしれない、手掛かりが少なく出来ることを片っ端からやっていくしかない状況だ、何か分かるかもしれないならやるべきだろう。


「今から調べられるか聞いてみようか、駄目ならそこまでだけど」



-2-


『被害者はこの家に住んでいる獣人の男女と身元不明の竜人の子供の三名、リビングの中央で逆さ釣りにされていたのを発見した。


男女はこの家に住むメーレン夫妻であると判明、子供について近隣の住人に聞くと最近里親になったとの事から義理の娘と思われる、名前は不明。


死因は首の傷が原因の失血死、状況から見て死後一日以内と思われる、犯行の手口から人類至上主義者による犯行の可能性有り。


狙われた理由については被害者は発掘品の記録翻訳者であり、仕事場と思われる書斎から翻訳中の原稿及び原本が見つからなかった事からこれに関係した物と思われる、現在翻訳を依頼した人物・組織について特定中。


部屋の中には複数の魔力反応があり、現在鑑定待ち。


現在調査中、随時加筆』


まだ調査中だった体なのか、文章はそこで終わっている、後は遺体の傷の箇所や状況を説明するための図、この家の間取り図と発見当時の状況を説明した物が書かれている。


事件の内容次第では新聞に載せるために一旦仮提出しておいて調査が進んだら後で加筆するのは珍しい事じゃない。


疑われてる身分だから半分諦めていたけど、受付の人に用件を伝えるとすんなり鍵と報告書を貸してくれた。


博覧会の方に人を回しているのと失踪したのとでとにかく人手が足りないらしい、ある程度人員を浮かせていたにしてもここまでは予想出来なかったんだろう、事態が悪化する可能性があったとしても割り切るしかないとぼやいていた、信用されている訳じゃないようだ。


現場は住宅地にある近隣の家と比べて少し大きめの二階建ての家、家の敷地を囲むように関係者以外立ち入り禁止と書かれた帯が張ってあった。


近所の人にいくつか聞き込みをしてみたけど、報告書に書かれている以上の内容は聞き出せなかった、一度話したことをもう一度話すのは相手としても不満が強いだろうから体裁としては報告書に不備が見つかったからその確認という事にしておく。


「まさかこんな何度も来るとは思わなかったっすね……」


玄関を開けると魔力に違和感があった、気にせずリビングへの扉を開けると部屋に籠った血の臭いが一気に流れてくる、床板に染み付いた血痕と荒れた部屋、遺体の発見場所。


「部屋の真ん中辺りに刺さってて、それをマグダレンさんが持って帰ったんすけど……あ、そうだ、言うの完全に忘れてたんすけど、サピの森で見つけた……ウーズ?ブロブ?に食べられてた刃あったじゃないですか、あれとよく似てたのが刺さってたらしいっす」


「そっちは流石に後回しかな……組合を閉めるまでには返してほしいって言ってたから早く始めよう、ほとんど調べてはないんだよね?」


「まぁ……長居する訳にも行かなかったっすから」


何かあったとしても事件の手掛かりになりそうな物は事前に処分されてしまっている筈だ。


だから調べるべきなのは事件とは直接関係の無い部分、今回の事件と関係性を見出だせそうな部分、被害者二人についての情報だ。


「とりあえず……何か気付いたことがあったら教えて」


「了解っす」


………

……


キッチンとリビング、それから風呂とトイレ、一通り調べはしたけどそれらしい物は見つからなかった。


二階の部屋は三つ、寝室が二つと書斎らしい部屋が一つ。


寝室の一つは夫婦の物、もう一つは恐らく子供の物、今夫婦の寝室を調べ終えたけどここも何も見つからなかった。


「何にも無いっすね……」


言い出した側としては何かあって欲しかったんだろうけど、それが見つからないせいか、少し居心地が悪そうにそう言う。


遺体を見つけてからダレン爺がこの家に来るまでで証拠を処分する時間は十分あった、ここまで何もないとなると処分されてしまっているか。


「この報告書に嘘書かれてるのは分かってるからね、改めて調べてみる価値はあったと思うよ」


「なんか、徒労に終わりそうで申し訳ないんすけど」


残る部屋は書斎と子供部屋、先に書斎を調べよう。



-3-


書斎は他の部屋と比べて少し狭い、私とラズリアが二人入ると少し手狭なぐらいには狭い、家具が多いせいか。


この部屋にあるのは机と椅子と壁一面を埋める本棚、机の上には眼鏡と小さな明かりが置いてある、一応机の下を覗き込んで机の裏側を見たけど何もない。


「昔の文法の本とかそんな感じのが多いんで発掘された記録の翻訳してたのは本当みたいっすね」


適当に手に取った本を流し読みし、すぐに本棚に戻した。


ラズリアが本棚を見ている間に引き出しを順に開ける、分かっていたけど引き出しの中には何もない、念のため、引き出しの裏側を手でなぞって何か無いか調べてみるけどやはり何もない。


「流石に本の間を全部見ていく時間はないかな……」


間に何か証拠になる物が挟まっているかもしれない、ただそれをするには時間が掛かりすぎる。


これで一旦は子供部屋以外の部屋を全部調べた事になるけど、目ぼしい物は何も見つからなかった。


書斎を一通り調べた辺りでラズリアが報告書を睨みながらうんうん唸り始めたけど何か気になる事でも出来たんだろうか。


「手口から至上主義者の犯行って分かるもんなんすか?」


「まぁ……傾向みたいなのはあるよ、聞いてて気分の良い物じゃないけど」


おおよそはこの報告書に書かれている通りの事、模倣犯が起きないように公にはされていない。


逆さ釣りにした状態での失血死、この殺し方は食肉加工等での血抜きを模しているって言われている。


至上主義者は人間かそれ以外かで考える、連中にとってのそれ以外が人間と同じように生きるのが気に入らないんだろう。


「とはいえ、至上主義者の仕業に見せたかったんだろうとは思うけどね、マーチェスの冒険者が犯人だろうし」


「それじゃあ……複数の魔力反応って、どんな感じの奴だったんすか?」


報告書の内容から何か思い付く事が無いか確認しているようだ、成果無しで帰るのが気に入らないんだろう。


「そういう事書いてるときは大体争った跡だった事が多いかな、鑑定すれば誰がどんな魔法を使って残った物かまで分かるらしいけど」


「へー、そんな所まで分かるんすね」


何となくそこは魔具や魔動機の管轄だと思っていたけど、ラズリアの反応を見るに違うらしい、となるとこの手の話は魔法ギルドか、そう言われると確かにそれっぽいなと思う。


残っている魔力の鑑定は今回に限ってはあまり重要じゃない、犯人よりも理由の方が今は知りたい。


そもそも本当に鑑定を依頼しているのかも怪しい所だ、今の状況で魔力を見ようとしても召喚機の魔力と混ざってまともには分からないだろうけど一応、見ておこうか。


目を閉じて意識を自分の外側に向ける。


乱れた魔力が薄く覆っているようで何も分からない、強い異物感があってあまり長くは続けていたいと思えない、ただその感覚が無い場所があった、正確にはそこから先が分からない。


今やってるこの方法は自分を中心に魔力を広げてその広げた魔力から周囲の状況を探知する、と言われた、魔力が届かなければ当然その先は分からない。


本棚の後ろの壁、そこに触れた魔力が不自然に押し返されている、隣は子供部屋の筈だ。



-3-


扉の前に立ち、試しに部屋に向かって軽く叩く程度の魔力をぶつけてみる。


何もないなら魔力が扉にぶつかって軽くノックして終わり、だけどそうはならなかった。


弾かれた、というよりは反らされた魔力が扉に沿って上に向かってすぐに霧散した。


「魔力が通らないみたいだけど……外から調べるのは限界があるな」


現状中の安全が分からない状況、診療所の時みたいに中で魔力が充満している可能性もある。


刀の柄で直接触れないように扉を開けてみたけど目視では何もないように見える、魔力を見ようにもこの先は調べられない。


「むぅ……あ、そうだ、先輩、明かり持ってないっすか?ちょっと試してみたい事があるんすけど」


「ん、何か思い付いた?」


ラズリアに明かりを渡しながら聞くとしゃがみこみ、短剣で明かりに傷をつけ始めた。


前にあったブロブの時とは違って魔法陣を刻んでいる訳ではなく、浅い傷をいくつもつけているみたいだ。


「不良品の明かりって周りの魔力に影響されやすいんで反応で分かると思うんすよね、なんで今良い感じの不良品作ってる所っす」


「そんな仕様なんだ」


ラズリアの言うように、ある程度傷をつけると不意に明かりが不規則に点滅を始めた。


急に始まった点滅に少し驚いたのか、一瞬体をびくっとさせると明かりを部屋の中に転がす。


「まぁ、分かんなかったらそれはそれで何か考えるっすよ」


部屋の中に入った明かりは少しの間不規則に点滅続けていたけど、それが止まってそれっきり。


「……で、これはどういう?」


「特に問題ない筈……なんすけど、なんか急に自信無くなってきたっす」


「まぁ、気持ちは分かるけど」


顎に手を当てて訝しげに部屋の中に転がした明かりを睨んでいるラズリアは置いておいて問題ないらしい部屋の中に入ると慌ててラズリアもそれに続く。


部屋の中に入るとその時点で他と違うのが分かった、この部屋だけ違和感がない、この家の外と変わらない普通の空間だ。


床には荷物の入っているらしい箱が二つ、本や雑貨、箱の横には子供が書いたような大きな字で書かれた通りの物が雑多に詰め込まれている。


クローゼットの中にも同じような箱が二つ、こっちは服や装飾品の類で入っていた服はどれも子供の物、ここがその子の部屋って事になるのだろうか。


入っていた服はどれも羽織った状態で前か後ろで止める物ばかり、日用品の中には荒さの違う紙やすり、キメの細かい布、毛先の硬いブラシがあった。


どれも竜人に関係しているもの、角の手入れとか尻尾の手入れとか、ベルが同じのを使っているのを見たことがある。


部屋の中には他に目立った物はない、ベッドと机、クローゼット、荷物の入った箱がいくつか、魔力を弾く原因になる物は見当たらない。


改めて意識を集中させると部屋の外で感じていた乱れのような物は無かった、とはいえ分かったのはそれだけで、部屋の外に出ようとした魔力は壁や床を境に弾かれた。


「部屋に魔力を入れない理由って何か思い付く?」


そう聞くと顎に手を当て、壁や床に目をやり


「うーん……工房の内壁にそういう施工する事はあるんすけど、そういう部屋じゃないっすもんね……その子が何かの病気で魔力の影響受けないようにしてるとかっすかね?」


「やっぱり子供関係の理由になるか……確認なんだけど一日二日で作れないよね?」


詳しくないとはいえそれぐらいの事は分かる、多分壁の中や床下に魔法陣が埋め込まれているんだろう。


「そうっすね……それだと初めからここにあったって事になるんすけど、それなら何かしら気付いてると思うんすよね」


下手に触れずに放置したのか、それとも本当に気付いていなかったのか、報告書にはわざわざ魔力についての記載があった、確認していなかったというのは考えにくい、その上でもし気付いていないとしてあり得るのは……


「召喚機が原因でこうなったんなら気付いてなかったとしても違和感は無いかな、召喚機の魔力って不具合起こすんだよね?」


「……結局、なんでこんなのがあるのかは分かんないままっすけど」


これが恐らくその子が拐われた理由と襲われた理由、ティルが拐われた理由とも関係あるんだろうか?


ともかくこの家で調べられる所は一通り調べ終えた、結局謎が増えていくばかりだけど。


「……そろそろ切り上げないと、遅刻していい身分じゃないしね」


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