信頼には足る
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対応してくれたのは前とは違う人だった、簡単な手続きを済ませ、手早く目的の棚まで向かう。
見たいのは一度手に取ったが報告書には目を通していなかったパンテロの村の治癒師からの依頼書だ、村の裏手にある崖の方から変な感じがするから調べてほしい、と。
どこにあった物なのかは覚えている、資料を手に取り報告書に目を通す。
『報告書
調査の結果、異常の原因及び痕跡の発見には至らなかった。
依頼者に尋ねた所、依頼を出した後からその変な感じはしなくなったとの事。
自然に発生した物ではなく人為的に発生した物である可能性有り。
現在異常は見られないが些細な変化にも注意が必要と思われる、以上。
アルティア冒険者組合マーチェス支部所属 ヴァルニール』
短くまとめられた報告書にはあの竜人に名前があった。
悪魔騒動に関わっているのは間違いない、あの村での事件にも関わっていると見ていい。
私の見たものとは明らかに異なる報告書、何かを隠している、この報告書のどこに嘘があるかは分からない、これを見て分かるのは違和感を調査したのがあの竜人で、依頼を出したのが村の治癒師だという事。
崖……確か、崖の下で倒れている所を助けたと言っていた筈だ、そもそも原因は何だ、どうしてあの診療所に運ばれる事になった。
思い返してみれば気掛かりな点は多い、一度しっかり現場を調べてみる必要があるか、時間は経っているが、行ってみれば何かわかるかもしれない。
「あ、先輩!」
聞き慣れた声に呼ばれて顔を向けてみればラズリアが小走りに駆け寄って来ている所だった、今日は屋敷の調査を手伝っている筈だったけど何かあったんだろうか?
「何かあった?」
「特になんかあった訳じゃないんすけど、ショウさんが組合に一旦戻るからそれに着いてきた感じで、調べ物っすか?」
ラズリアが私の持っている資料を覗き込むと
「ヴァルニールって……あの竜人の人ですよね」
「何か知ってる風だったし、一回ちゃんとあの村を調べようと思ってるけど先にある程度資料調べてからかな」
「なるほど…………手分けした方が良くないっすか?」
考えるように顎に手を当ててから数秒、思い付いたようにそう提案した。
「気持ちは嬉しいけど……ラズリアを一人にする訳にはね、誰か一緒にいてくれたらいいんだけど」
一段落したとはいえこれから何もないとは言い切れない、私が一緒にいれればいいけど手分けした方が当然いい、少しでも早く、多くの手掛かりを見つけないと。
誰かいただろうか、今マーチェスにいてラズリアを任せても問題無い人。
ダレン爺は今日は手が空いていない、ラズラさんは……そもそも守ってもらう側だろう、ダレン爺が特殊なだけだ。
マーチェスの冒険者は……現状どこまで信頼できるか分からない、出来るだけ頼りたくない。
二人組……エルレンとショウなら大丈夫そうだし丁度良いけど、あっちはあっちで忙しいだろう、ラズリアの面倒を見れるか微妙な所だ。
ダレン爺に信頼出来る人を見繕って貰えればいいけど、そう言えばどこにいるのかを聞いていなかった。
マーチェスに知り合いがいない訳じゃない、信頼も出来るけど何かあったときに守れる人でないと駄目だ、この件に巻き込んでしまうのは少し気が引けるけど……そこまで考えて無関係ではないのが一人いた事を思い出した、事情を深く聞いてこないだろうってのと多分断らない。
正直あまり貸しを作りたくはないけど、私の個人的な理由でやらない訳にはいかない、今どこにいるかは組合の人に聞けば分かる筈だ。
「……ちょっと着いてきてくれる?」
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「で、俺かよ」
組合の宿に泊まってるウルベにおおよその事情を話した。
ティルが拐われた事、ラズリアが何者かに狙われていた事、召喚機絡みの事件に巻き込まれていた事、ラズリアの実家がトラビスタである事は話していないが、知らなくても問題はないだろう。
話を終えて、理解はしたが納得は出来ていないように思える。
「頼れそうなのが他に思い付かなかった」
「お前が付いてればいいんじゃねえのとは思うが、まぁ手分けした方がいいわな、そりゃ」
続けて言うか言うまいか悩むような素振りを見せると
「支部絡みだろ、これ?ってか、密輸されてたの召喚機だったのかよ」
密輸の件と私の話。それから組合の現状を繋げればはそう判断するのは不自然な事じゃない、ウルベの方でも個人的に何か調べていたのかも知れない。
「面倒事に巻き込むかもしれない、嫌なら断ってくれて構わない」
「別に嫌とは言ってねえだろうが、要はラズリアちゃんと一緒にいりゃいいんだろ?」
ウルベがやる気になってるなら余程の事が無い限りは大丈夫だろう、ラズリアと二人きりにさせる、っていうのは別の意味で心配だけど。
「……事後承諾みたいになっちゃったけど、ラズリアは大丈夫?」
「大丈夫っすけど、何の確認なんすか?それ」
「大丈夫ならいいよ、気にしないで、変なことするなよ」
「やらねえよ、信頼されてんのかされてねえのか分かんねえな」




