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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
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父と子

-1-


「これからどうするか決まっているのか」


「組合を調べるつもり、まだ調べられてないこと残ってるし、助けた男から色々聞きたかったけど私は止めておいた方が良さそうだし」


まだ見ていない報告書がいくつかある、もう少し記録を遡ってフィルスト・ダグザックの記録が無いかを確かめる必要があるか。


アルナイルさんが調べてくれてはいた、その時はマーチェス支部に協力して調べてもらったと言っていた、情報としての信憑性は弱いだろう、改めて調べれば何か見つかるかもしれない。


分かるのは少なくとも十年より前である事だけ、結局報告書や依頼書を片っ端から調べていくしかない。


「何かさせるつもりだった?」


「確認しただけだ、それで何かあったのか」


思ってもいない方向から質問が飛んできて少し固まってしまった、何かあった風を顔に出していたつもりは勿論無い、私が聞かれた理由を考えていると


「焦っているように見えた、何もないならそれでいい」


「……ティルが拐われたってのも勿論あるけど、母さんの手掛かりが見つかってね、それで……あんまり考えたくない事考えちゃってる」


ティルの事も勿論心配だ、でもそれと同じかそれ以上に母さんの事が気掛かりで仕方ない。


あの男が警戒するような事をしていた、あの様子を見て何があったのか想像出来ない訳じゃない。


十二年、母さんがいなくなってからそれだけ経ってしまった、何があったのかは知らない、どうしていなくなってしまったのか分からない、ただそれだけの時間があれば人が変わってもおかしくない。


優しかった母さんは変わってしまっているかもしれない、もしそうだったら……母さんと再会できたとして私はどうするんだろう。


帰ってきてとお願いする?嫌だと言われたら?どうしていなくなったのか聞く?誰かが言っていたように本当に私たちを捨てたとしたら?


悪い方へ悪い方へと考えが向いてしまう、今までこんな事考えたこと無かったのに、いざ手掛かりが見つかったらこれだ。


「単に考えすぎだ」


ダレン爺の答えはとても短いもの、いつも通りといえばいつも通り、それ以上期待していないと言うと棘があるけどそういう物だ。


「それはそう、聞かれたついでに聞きたいんだけどヴァルニールの事なんか知ってるよね?」


「以前あった召喚機事件の調査を依頼したが……恐らく犯人だろう」


「その辺の話あんまり詳しくないんだけど」


一級魔具師とテスターの噂が広がったきっかけになった事件、悪魔と契約した、子供を拐った、非道徳的な実験をした、噂は色々あるが事件についてはほとんど知らない。


「当時の事件現場にこれと同じ物が見つかった、屋敷の庭で見つけたものだ」


そう言ってダレン爺は透明な小袋に入った小さな欠片を見せてきた、指先に乗るほど小さな物で明かりの光を微かに反射している。


「加工難度の高い魔化合金の欠片だ、主に魔法の触媒として使われるこれを当時加工出来たのは一部の一級魔具師に限られた」


「……一級魔具師とテスターの噂ってそこから?」


現場に特定の人物しか持てない物が落ちていたとなれば当然疑いが掛けられる、どこかからその情報が漏れたとしたら噂が流れるのも自然だろう、納得は出来ないけど。


「誇張している物もあるがいくつかは本当にあった事だ、当時は今ほど魔具や魔具師に対する知識が広まっていなかったからな、誤魔化すならこれぐらいが丁度いいだろう」


「誤魔化すって言ったってさ……」


ダレン爺の家の場所を尋ねた時、決して良い反応とは言えなかった、疑っている訳では無いのだろうが煙たがられているようだった。


あの様子から見るにダレン爺も当時疑われていたんだろう、事件と無関係なのに勝手に悪く言われるのは釈然としない、それが世話になっている人なら尚更。


「これでもましになった方だ、本筋から離れすぎたな、言っても聞かないだろうがあまり無理をするなよ」


「……報告書はまた明日組合に出しておくよ、おやすみ」



-2-


「帰ってきていきなりお願いがあるって言われて、こんな事になるなんて思わなかったよ」


先輩とマグダレンさんが部屋を出た後、一度大きく息を吐くと肩の荷が降りた様子で父さんが話し始めた。


「多分みんなそうだよ、それで伝えたい事って?」


別に仲が悪い訳じゃない、ただどうしても母さんと比べると話をする回数というか、機会は少なかった。


それでも世間話から本題に切り出そうとしてるのは分かったから、すぐに本題に移す、何か言いづらい事なんだろうか?


「……疲れてるだろうから、あまり長くならないようにはするけど……大事な話だ、よく聞くんだよ」


大事な話と言われるとどうしても背筋が伸びて緊張する、父さんがしそうな大事な話。


跡継ぎの事?母さんの事?今のトラビスタの事?博覧会の事?想像するだけでどれも胃が縮まってあまり考えたくない。


「ラズは今でも冒険者を続けていたい?」


そのどれでもない、今の私の事。


本で読んだときからずっと憧れていた、自分には絶対なれないと思っていた、でも今はこうして冒険者をやってる。


苦手な事もある、嫌な思いをした事もある、……死にかけた事だってある、それても辞めたいと思った事はない。


「……私が冒険者をやってるのは嫌ですか?」


だから父さんはそう思ったんじゃないかって、危ない目に遭ってほしくないから。


今回みたいな事はそう何度も起きる事じゃない……とは思う、それでも起きてしまったから心配になるのは当たり前だ。


「あぁ、そうじゃないんだ、勘違いさせてしまったね、背中を押したのは私たちだ、やりたい事をやらせてあげたい気持ちに今も変わりはないよ」


私が冒険者になりたいと話したら父さんも母さんも驚いていた、でも止めはしなかった、ミスリル製の魔具に紹介状まで書いて貰って、見送ってくれた。


「もしかしたら、期待を裏切ってしまわないように無理をしてるかもしれない、私たちの気持ちを重荷に感じているかもしれない、今回みたいな目に遭って冒険者が嫌になってしまったなら……と思っていたけど、大丈夫そうだ、いつでも戻ってきていいからね」


帰ってこいって言ってる訳じゃない、無理をするなって言ってくれただけ、逃げ道を用意してくれただけ、今のところお世話になるつもりはないけど改めて言葉にされるとどう返していいのか分からない。


「……はい」


頬を掻いて短く返す。


「なら話は終わり、明日も大変だろうからしっかり休むんだよ」

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