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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
五章 その手を取って君の名を呼ぶ
69/102

報連相

-1-


日が沈む前にはマーチェスに戻れると思っていたけど、結局夜になってしまった。


単純に人一人分背負って森を抜けるのに時間が掛かってしまった、組合に報告するのは明日やるとして、問題はこの男をどうするか。


間違いなく何かを知っている、それを聞き出さないといけないけど私が聞こうとしても多分話にならない、どこか安全な場所で預かってもらいたい所だけど思い当たる所はない。


普通なら組合に頼んでおけばいいけど今の組合は信用しきれない、ラズラさんかダレン爺に聞けばどうにかしてくれるだろうか、色々考えてる内に結局男を乗せたままの屋敷まで戻ってきてしまった。


ラズリアは後ろで私の腰にしがみつきながら器用に寝てる、途中までは起きてたみたいだけどその姿勢でよく寝れるなと思う。


門の前にトライクをつけると庭の方から明かりを浮かべたダレン爺が歩いてくるのが見えた、こんな時間まで何か調べていたのだろうか。


「その男は?」


「多分今回の件に犯人側で関係してる、長くなるから後で話すよ、この人の事を保護してくれそうな所知ってる?」


私がそう聞くと考えるように少し間が空いて


「……先に戻っていろ、俺が連れていく」


「ん、晩御飯は?」


「もう済ませた、ラズラの分も必要ない、少し借りるぞ」


ラズリアは……起こす必要もないか、疲れているならそのままにしてあげよう。


起こさないよう、慎重にラズリアの腕を私の首に回し、背負って立ち上がる。


私と入れ替わるようにダレン爺がトライクに跨がると低い駆動音と一緒に離れていった。


今朝と比べて少しだけ掃除がされている、壁の穴はそのままだけど、荒れたままだった庭や血痕もある程度は片付けられている。


ここにあった死体は……どこに運ばれたんだろう、どこに運ばれたかは聞いていない、どこかで解剖されたりするんだろうか、川にあった死体も処理してもらうよう手配しないと、報告書には何て書こう、原因の調査のため森に向かった所、ガルムの異常な死体を発見、更に調査を進めた所遺跡を発見?遺跡の調査をしていると閉じ込められていた男を保護……情報がごたついてる、そもそもは暴走の原因の調査なんだからその辺りの事を書かないと、私は分からないからラズリアに書いてもらわないとダメか。


色々考えながら歩いていると玄関に着いた、呼び鈴を押すがしばらく待っても反応はない、もう一度押すと今度はすぐに反応があった。

外の様子を確かめるように覗き窓が一瞬だけ開いて、すぐ後に鍵が開く音がした。


扉を開けててくれたのは今朝屋敷で見かけた冒険者だった、大柄な獣人の男と小柄な獣人の男の二人組の大柄な方、簡単にではあるが武装している。


「今朝はどうも、ダレン爺いませんでした?」


「ちょっと出掛けてます、すぐに戻ってくると思いますよ、小さい方の人は一緒じゃないんですね」


「小さい方って言うと面倒くさいんで本人のいる所で言わないでくださいね、俺がでかいだけなんで」


短く世間話をしつつも屋敷に上がり、後ろ手に扉を閉める。


「まだ名乗ってませんでしたよね?エルレンです、小さい方がショウと言います、トラビスタさんの監視兼保護、召喚機事件及び組合関係者集団失踪を担当する事になりました」


「……詰め込みすぎじゃないです?」


私の自己紹介は置いておくとして気になった所を掘り下げる、人手が足りていないにしても、ここまでまとめてやらされるのは少し同情する。


「他に人手を回してるってのもあるんですが……まぁ、それは関係のない話です」


ため息を吐きそうになったのを堪え、一度咳払いすると改めて私に向き直る。


「正直な所を言っておくとまだ信用出来ていません、人手が足りていないとはいえ容疑者に調査を協力させる気が知れません、それでも貴方やトラビスタさんを拘束しないでいるのはダレン爺を信用しているからです」


圧を感じさせるようにそう言う。


「お互い様では?」


連絡が取れなくなった冒険者はいるが、それで犯人の組織全員と決めつける訳には行かない、まだここに残っている可能性だって十分にある。


あの時ヴァルニールと一緒に来ていた、疑う理由としては十分足りるだろう、誰をどこまで信用していいのか判断出来ていないのはどちらも同じだ。


「……それもそうですね」


「信用されていない上で一つ聞きたい事が、フィルスト・ダグザックという名前に心当たりはありますか?」


「……初めて聞く名前です、報告をまとめないといけないので失礼します」


口調を元に戻してそう答えてくれると廊下を歩いていった、あっちには確かに工房があった筈だ。


言葉の中に少々棘が混ざっているが気にしなくていいだろう、そういう物と割り切る。


召喚機に関わっていた疑いがある、となれば抱く印象としては妥当な所だ。


別にそこまで興味があるわけでもないけど、あの様子だとダレン爺とは長い付き合いなのだろうか。


「はぁ……それで、いつから起きてた?」


短く嘆息を吐いてから背負っているラズリアに話し掛ける、話してる途中少し強く抱き着かれたからそうだとは思っていた。


「……先輩が背負ってくれた辺りで……まぁ、はい、そう思われるのも仕方ないってのは分かってはいるんすよ?ただ、納得出来るかとはまた別って言うか……」


やや不満げにそう言いながら私の背に顔を埋め、上手く言葉に出来ないままもごもごと続ける。


「ちゃんと報われてほしいって言うんすかね、そんな感じっす」


「……起きたんだったら下ろしていい?」


「え、このまま連れてってくれるんじゃないんすか?」


私がそう聞くと絶対に下りるものかと、そう意思表示するよう更に強く私にしがみつく。


別に下りてほしい訳ではない、話の流れを変える切っ掛けが欲しかっただけだ、わざとらしく呆れたような溜め息を吐いてから階段を登る。


「……ありがとうございます、先輩」


「急に何?」


「あ、いや、ちゃんとお礼言ってなかった気がしたんで」


話はそれで終わり、風呂を借りて着替えるのと晩飯を済ませるのと、ダレン爺が戻ってくる前に済ませてしまおう。



-2-


一通りやることを終わらせている間にダレン爺は帰ってきていた、ダレン爺と入れ替わる形でエルレンさんは帰ったらしい。


少し遅い晩飯の後、応接室で私とラズリア、ダレン爺とラズラさんの四人で机に向かう。


ラズリアは緊張してるのか、落ち着かない様子で動きが全体的にぎこちない。


「緊張してる?」


と隣に座っているラズリアに小声で聞くと


「空気感に気圧されてるって言うんすかね……なんか重いっすよ」


と小声で返してきた、身内と知り合いしかいなくてもそう感じる物だろうか。


「じゃあ、私の調査結果から、魔動機周りの事はラズリアお願い」


「あ、はい」


魔動機関係の事はラズリアが、それ以外の事は私が、調べて分かったことを順に説明する。


川で見つかった死体は屋敷で見たものと同じだった事、死体の状況と周囲の状況、森で見つかったガルムの群れの死体、遺跡とそこで保護した男の事、それからティルがそこにいたかも知れない事、……男が母さんに会ってるかもしれない事は伏せておく、話す必要は無いだろう。


「……ややこしくなってきたな、意図的に報告されてなかった遺跡だったんだろう、拠点にするには都合がいい、悪魔もそこから出てきたと思っていいだろう」


「正式な遺跡の調査は恐らく博覧会が終わった後になるでしょう、遺跡としてではなく犯人組織の拠点として調査するなら話は別ですが……」


「組合主導で調査するならそうはならないでしょうね、冒険者が関わってる事は隠したい筈ですし……保護した男は?」


「留置所で預かって貰っている、明日エルレンに尋問を頼んでおいた、立ち会うか?」


「嫌われてるみたいだし止めとく、それに私がいたら話さないかもしれないし」


「……えっと、魔動機の事話しても大丈夫っすか?」


間の悪さを察したのか、ラズリアがそう切り出した、促すようにラズラさんが視線を送ると説明を始めた。


聞き慣れない専門用語がいくつか出てきた辺りから私はあまり分からなかったけど、まぁ私が分からなくても支障はないだろう。


「まぁ、そんな感じでした、歪みについてはあんまり分かんなかったですけど……」


「歪みについてですがこちらでも同様の物を庭や工房で確認していますが悪魔が原因かと思われます、魔力と干渉しているようですので船が暴走した原因はこの歪みによる物で間違いないかと……こちらの報告もさせていただきますね」


話してくれたのは屋敷での調査の概要、順調とは言えないようだ。


「マグダレンさんのおかげで私も調査に協力出来ていますが結果は芳しくありませんね……先ほど話した歪みのせいで調査用の魔具が使えない状況ですので」


「念のため召喚機について分かった範囲で説明しておく、あれは悪魔を呼ぶ為のものではなく正確には悪魔の存在する場所と繋がる穴を作るものだ」


「……何か違いあるんすか?それ」


「悪魔が出てくる事に違いはない、だがそれとは別にこちら側に誘き寄せる必要がある、その為に魔力が必要らしい、事件のあった家でも確認出来た、ただ穴を開ければいい訳では無いようだ」


「工房にある……人工ミスリルを作るための装置を使った痕跡がありました、恐らくはそれを使って悪魔を呼び寄せようとしたと思われます」


ダレン爺の説明を補いつつ、一拍置いて私にも分かる呼び方で言い直した。


「ですが、あれは誰にでも操作出来るものでは……」


「リアンさんは、操作出来ますか?」


「……何故そんな事を聞くんですか?」


どうしてもあの時の事が引っ掛かる、どうしてあんな事を言ったのか分からない。


話すべきではないかもしれない、それでも事実として伝えておかなければならない。


「屋敷からリアンさんが出てきて、少し様子が違いましたけどヴァルニール、後は任せたって」


「……ラズも、その場にいたんだね?」


「はい……先輩の言ってることは本当です」


疑うようにラズリアに確認を取ると大きく溜め息を吐き、顔を覆った。


共犯の可能性がある、そう捉えてしまうのは仕方ないだろう。


ダレン爺の家から抜け出した事、あの場にいた事、そうだとしても何故?リアンさんが襲われた事とあの時屋敷にいた事が繋がらない。


「……この事を知ってるのは私たちだけです、公表しようとは思っていません、ただ……その可能性があるとだけ」


「でも、母さんは、なんか、変な魔法掛けられてたんすよね?それが原因ってことは……」


「本人に聞けば分かることだ、この話はここまでにしておけ」


追及するのを止めるようにダレン爺が割り込む、ダレン爺の言うように本人に聞けば分かることだ、私たちがどうこう言っても結局推測や邪推止まりで何か分かるわけでもない。


「……では、なぜテイルスさんは拐われたのでしょうか?犯人からの要求は未だに無いままです」


話の流れを変えるためにラズラさんがそう切り出した、人質目的なら何かしら要求の連絡が来る筈だ、それが無いと言うことはティル自身が目的なんだろう、ティルが拐われる理由に思い当たる物はない。


ラズリアからメモの家であった事を教えてもらった、夫婦が逆さ吊りにされて殺されていた事、新聞には家族三人と載っていた事、その家に召喚機があった事。


無かった筈の死体が増えた、その増えた一人は恐らくティルが会おうとしていた子だ。


ラズリアにこの話をしないように言った理由は分からない、不要な心配をさせたくなかったのだろうか。


気付いていなかった可能性も十分にある、けど何となくティルはそういう事には気付きそうな物だとは思う。


「……犯人から要求があれば推測出来たかもしれませんけど、ティルが目的だった事しか分かりませんね」


「それについてだが、犯人はシルヴァーグがいないと分かった上で犯行に及んだと思うか?」


私がいなかったからティルが拐われて、ラズリアは殺されかけた、私があの日屋敷にいれば少なくともそうはならなかった。


私があの日いなかったのはラズラさんからの依頼があったからで、どこかで情報が漏れたとすれば私の留守を狙った犯行は可能だろう。


「どこかで情報が漏れた可能性は?」


「そうとは考えにくいですね……密輸されているのを知っている人はいますが、積み荷を奪う計画の事は話していませんから」


「結局、犯人の目的は何なんですかね」


しばらく黙っていたラズリアが不意にぼつりと呟いた。


「召喚機使って悪魔を呼ぼうとしたかと思ったらどこかにいなくなって、ティルを拐って……何か筋が通っていないっていうか、散らかってるというか」


つらつらと羅列して見れば確かに分からない事が多い、いや分からない事だらけだ、同一の組織による物の筈なのにどうにも繋がらない。


犯人の目的は分からない、少なくとも至上主義者による物でもトラビスタを狙った物でもない、それが目的ならまた違った方法……例えば博覧会当日に会場のど真ん中で行動を起こした方がより大きな影響が出た筈。


ティルを拐った理由は……分からない、そもそもいつから計画されていた事なんだ、ヴァルニールはパンテロの村の事件に関わっている、少なくともその時点から何かしらの行動は取れていた筈。


それならもっと入念に、それこそ誰にも気付かれずにやれただろうに、私の見たものが真実だとして人一人の痕跡が何も出てこない、それだけの能力がある筈なのにだ。


……じゃあ、なんで今なんだ?


「密輸されたのがどれぐらい前か分かりますか?」


「確か……一ヶ月は経っていない筈です、博覧会の為の運搬作業が始まった頃の筈なので」


もしかしたらもっと前から密輸していて、それが見つかったのがたまたまその日だった可能性もある、ただそうだとしてもわざわざ今である意味は薄まっているように思えた。


「最初は博覧会で組合の協力があるからだと思ってましたけど……ここまで大人数で組織立った行動が出来るならもっと前から秘密裏に持ち込めた筈です、何か切っ掛けがあって今やらざるを得なくなったのかも知れません」


わざわざ博覧会のタイミングを狙ったのではなく、たまたま時期が被っただけ、どうしても今やらなくてはならない理由が出来たのかもしれない。


「……アルナイルがマーチェス支部を調べていたが、それが切っ掛けになった可能性がある、丁度その後にメルヴィアから腕利きが一人マーチェスに来ている、それに続いてシルヴァーグまで来たなら見つかるのは時間の問題だと判断したのかも知れん」


私の依頼したフィルスト・ダグサックの過去についての事だろう、結局情報は何も出なかった、だからこそアルナイルさんは疑った訳だけど、調べられる事が相手にとって都合が悪かった、って事になる。


こっちにその意思は無かったにしても、相手から見ればそれを調べに来たように見えてもしかたないか。


「つまりは……バレる前にやっとけって感じだったって事っすか」


ラズリアの声音は低く暗い、そんな理由で危険な目に遭って納得出来る物ではないだろう。


「だが辻褄は合う」


「それなら、ティルを拐ったのはまた別の話になるんだけど……密輸されている他の荷物についての情報はないんですよね?」


「えぇ、ですので警戒するしかないという状態です、警備を増員して通常通り運営する予定のようですが……こちらから出来ることはあまりありませんね」


組合関係者が突然失踪したからと言ってそれで全員とは思えない、まだいる可能性も十分ある、何か他の目的で行動した一部と考えておいた方がいい。


敵側の情報がほとんど無い現状、相手側の動きを待ちながら調査していくしか無いだろう、情報を知っていそうな遺跡の男から何か聞き出せればいいけど。


それを聞くとラズリアが固まって、順に指を折って日を数え、確認するようにその手をまじまじと見つめる。


「あ、もう明後日開催なんですね……なんか、ごたごたしてて全然そっちまで気が回ってなかったです」


「……こんな所か、明日は手が取れん、何かあればこちらから連絡する」


話が少し脇にそれた所でダレン爺がそう言うと立ち上がり、私たちもそれに倣って立ち上がろうとするとラズラさんが呼び止めた。


「あぁそうだ、ラズ、少し話したい事があるんだ、残っていてくれるかな」


「えっと……私なにかしましたか?」


「そんなに悲観的になる事ではないよ、大した事ではないから」


少し困ったようにラズリアが頬を掻くと改めて席に座り直した、落ち着かないのかそわそわしているように見える。


「では、私たちは先に失礼します」

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