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既知

-1-


窓から外を眺めてみる。


昨日あった事が嘘のように……なんては言えない、壁に空いた穴は空きっぱなし、庭木も荒れっぱなし。


下にある工房は調査中で立ち入り禁止になってる、昨日から組合の人やら魔法ギルドの人やらが何人も壁の穴から出入りしている。


マグダレンさんのした事についてまた別に問題があるらしいけどそっちは私たちには関係ないらしい。


何をしたのか聞いてみると独断で父さんと先輩を独房から外に連れ出した、らしい。


マグダレンさんは


「非常事態だ」


の一点張りで組合の人を困らせていたみたいだ。


父さん曰く、マグダレンさんがあの穴を閉じるために使っていた魔具を完成させるために父さんの助けが必要だったらしい。


先輩を先行させたのは、母さんがいなくなったタイミングではまだ魔具が完成していなかったから。


……結果だけ見れば、私が外に飛び出さなければ間に合ってなかった、のかも知れない。


マグダレンさんや父さんに怒られるかと思ったけど、そんな事はなかった。


自分の行動は無駄じゃなかったんだって、そう言い聞かせて納得する。


母さんは……まだ目を覚まさない、どうしてあそこにいたのか、とか何があったのかとか、聞きたいことはたくさんある。


何より、無事で本当に良かった。


父さんと先輩の件も冤罪……というか誤解だったみたいで本当に良かった。


けど、まだ終わりじゃない、ティルの事が残ってる。


「あ、おはようございます、先輩」


「おはよ、怪我は大丈夫?」


考え事をしながら階段を降りていると、丁度玄関から入ってくる先輩が見えた。


小さく手をあげて挨拶を返すと私が横につくのを待っていてくれた。


「しばらくは激しく動くな、って言われたっすけど、まぁ大丈夫っす!」


「あんまり無理しないようにね、ラズラさんは?」


「今は応接室にいるはずっすよ、確か冒険者の人と話があるって」


応接室の方を見てみると、丁度応接室から出てくる見覚えのある二人の姿が見えた、確かあの日の朝、私を追い掛けてきた冒険者の人。


視線に気付いたのか、大柄の人が小さく会釈してくれたからこっちもぎこちなく会釈を返すと二人揃って工房の方に歩いていった。


「なんか、気まずいっすね……」


「あっちも同じだと思うよ、気にするな、とは言わないけど」


小言を挟みつつ、応接室の前まで向かい扉を三度叩いて中に入る。


部屋の中では父さんが何かの書類を見ていたようだ、私たちが部屋に入ると顔を上げる。


「お茶も出せず申し訳ない、座ってください、ラズも一緒で構いません、無関係では無いですから」


促されるまま二人並んでソファーに座ると見ていた書類の一つをこっちに差し出す。


「……昨日からマーチェス支部の会長及び組合関係者十数名との連絡が取れなくなっているようです、臨時の役員を充てているようですが……規模が規模です、収束には時間が掛かるでしょう」


何かの名簿らしく、役職と人の名前がずらっと並んでいる。


今話していた連絡が取れなくなっている人の名前だろう。


「今回の件、目的こそ不明ですがこの失踪した全員が組織立って行動していたと見て間違いないでしょう、妻と娘を襲ったのもテイルスさんを拐ったのも恐らくは」


組合に所属していた人が、何かの目的でそうした。

ならその人たちの事を調べていけばテイルスを見つける手掛かりになるかも知れない。


「私たちの都合で巻き込んでしまった償いにはなりませんが、トラビスタの代表として最大限協力させて頂きます」


先輩は名簿を暫く眺め、少しの間考えるように瞑目するとゆっくりと顔を上げた。


「テイルスの件、ありがとうございます、何か協力が必要になった際には頼りにさせてもらいます、それとは別に……関係の無い、個人的なお願いがあります、構いませんか?」


何となく、先輩の言葉が弱々しくなったように感じた。


「私に出来ることなら、話していただけますか」


「……十二年前から人を探しています、何でも構いません、この人について、何か知っていることはありませんか?」


一枚の小さな写真を取り出すと机の上に置く。


家族写真のようだ、古い写真なのか、端の方が擦りきれてしまっている。


手前に写っているのは多分小さい頃のメイさんと先輩だ、何となく面影がある。


その後ろにいるのは……


「あれ、その人……」


何か違和感があった、違和感というか、なんで今までその事を意識しなかったんだろうって。


今の私がこうやっていられるようにしてくれた人、先輩によく似ている、この写真を見てからどうしてかその事に気付いた。


初めて先輩と会ったときには、そんなこと思わなかったのに。


「ルシアさん……ですよね?」



-2-


目が覚めた、少し気だるいが体は問題なく動く。


体を起こして辺りを見渡してみるが知らない場所だ、どこかの民家の一室のように見える。


それほど広くない部屋、机、空の本棚、私の使っている寝床、窓からは日が射していて何と言うか安心する。


少し肌寒い、服が着替えさせられている、病院で着ていたような服だ。


それに……内側にあった異物感が抜け落ちたように無くなっている、魔力が押さえ付けられているような感覚も無い。


誰かが治した?部屋を見渡してみても私以外に人はいない、それにアカメの姿が見当たらない。


私が助かった以上、アカメも無事だと信じたいが姿が見えないのが不安で仕方ない。


下手に動くのが得策とは思えないが、部屋の外に行くしかないか。


寝床から降りようと体を動かすと丁度扉が開いた。


部屋に入ってきたアカメとお互いに顔を見合わせると一瞬固まり


「テイルス!よかったよぉ!」


「うわぷ」


半泣きのアカメが駆け寄り、勢いのまま飛び付いてきた。

何とか踏みとどまろうとしたが、抵抗虚しく寝床に倒れ込んだ。


「……重い」


「あ、うん!ごめんね!」


嬉しそうに涙を拭くと私から離れると嬉しそうに寝床の縁に腰掛ける。


「たすけてくれた人がいたの!今お買い物からかえってきたところでね、今から一緒にご飯つくるの!」


説明は要領を得なかったが、伝えたいことは分かった。


「よかった、痛むところはない?体は大丈夫?」


騒ぐアカメの声を聞いてか、その女は部屋の外から覗いていた。


初めて会うはずなのに見たことがある容姿。


銀色の長い髪に、深い藍色の瞳、間違いなく同じ人間だと確信できるのに、初めて見たときとは印象が全く異なる。


「色々説明しないといけないけど……まずは自己紹介からかな」


平静を装っている……ように見える、真っ当な人間に見えるように真っ当な人間を演じている、とは少し違う。


一度壊れてしまったものを、壊れていないように見せているような感覚を覚えた。


何故そんな風に感じたのかは分からない、ただ問題なのは


「私はルシア、よろしくね」


あの記憶の中で見た、あの村の人間を皆殺しにした元凶だと言った女がそこにいるという事。

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