表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/102

振り絞る

-1-


なんでここに来たのかって聞かれるとうまく説明出来ない、何となく、本当に何となくここにいるんじゃないかって思って、門を見上げている。


敷地の外からだとほとんど見えない、普段は開いている門も閉じてしまっている。


一度辺りを見回して誰もいないのを確かめると、少しだけ門を開けて隙間に滑り込むように抜けてまたすぐに閉める。


なんでこんなこそこそしてるんだ。


庭を見渡しても誰もいない、そのまま周りに気を付けながら扉の前まで歩く。


見慣れた扉を見上げる、大丈夫だ、いつもより少し大きく胸を張って、いつもより少しだけ勇気を出して。


自分の家なのに、なんでこんな気持ちにならないといけないんだ。


何となくいつも通りの玄関とは、少し違う……ような気がする。


肌で感じる空気感というか、はっきりとは分からないけど何か違うような、そんな感じがする。


呼び鈴を鳴らそうとして……止めておいた、応対する人がいるはずがない。


扉に手を掛けて、開けようとしてみたけど開かない。


鍵が掛かっているとかそういうのじゃない、扉が動かない。


「これって……」


あの夜と同じ感触、誰かが魔法で塞いでいる。


誰かがそうした、間違いなく何かある。


無理やりに開けるのは多分無理、昨日マグダレンさんがやっていたように道具があれば開けられる。


手持ちに使えそうなものは無い、今すぐに開けるのは無理そうだ。


道具を持ってくればきっと開けられる、焦る気持ちを抑えて一度道具を取りに……


「っ」


戻ろうと振り返った時、体が固まる、門の前に誰か立っている。


武装している竜人の男の人、見覚えがある、確かあの朝に来ていた冒険者の人。


手には捻れた短い杖が握られていて、それを一度振るうと辺りから聞こえてくる音が突然少なくなった。


遠くから聞こえていた川の流れる音が聞こえなくなった、なのに庭木が風で揺れる音は聞こえる。


ここだけ切り離されたような、そんな感覚。


「お前の母親は中にいる、死なせたくなければ抵抗することだ」


その言葉だけでどういう立場の人なのか何となく分かる。


私が生きていると困る人、父さんに罪を擦り付けようとしている人……戦わないといけない人。


剣を向ける事を遠慮も躊躇もしちゃいけない、相手は殺そうとしてるんだから。


大丈夫じゃない、けどやらないと、私が剣を抜くと杖を私に向ける。


真っ直ぐに駆けようとして、何か嫌な感じがして大きく横に飛び退くとさっきまで私のいた場所が爆ぜて土煙を巻き上げた。


そのまま続けて杖が私に向く、男の周囲を回るように駆けると私の後を追うように土煙が順々に何度も上がる。


見えないけど、杖から何かが放たれているみたいだ。


攻撃の隙を見て踵を返すと、体を回転させながら勢いを乗せて短剣を投げつけ、真っ直ぐに駆ける。


牽制にもならない、防がれて当たり前の攻撃、杖で剣を弾かれると同時に指輪に魔力を込め、私の方へ引き戻し再び投げる。


攻撃させる隙を与えないように、杖が私に向く事がないように畳み掛ける。


続けて放った剣も弾かれたけど、もう一度引き戻し放つ。


近付けるだけの時間は十分に稼げた、あと少しで届く。


思い切り踏み込んで剣の後を追うように飛び掛かるようにして剣を振るう。


……飛び込んだ直後、投げた剣が空中で勢いを失っていくのが目に入った。


その奇妙な光景に気付いた時、突然泥に沈んだように体の勢いが無くなっていき、後少しで一撃が届く所で勢いが完全に無くなった。


力を込めても少しも動かない。


「経験が足りないな」


呆れたような声と共にゆっくりと杖が私に向けられる。


これから何が起きるのか想像してしまって、体がすくむ。


全身が強い衝撃に襲われて、地面を転がった。



-2-


「げほっ……ぐぇ……」


口の中で鉄の味がする、砂利でも噛んだみたいで気持ち悪い。


痛い、どこが痛いとかじゃなく身体中が痛い、目を開けるのでさえやっとだ、立ち上がることすらままならない。


それでも何とか見える範囲だけで状況を確かめる。


持っていた剣は……中程で折れた状態で地面に転がっている。


その先には……竜人の男の人がいた。


怖い、すごく怖い、今すぐ逃げ出してしまいたい、あの感覚をもう二度と感じたくない。


考え無しに突っ走って、自分で何とか出来るかもだなんて思い上がって。


私には過ぎた行為、言われた通り待っていればよかったんだ、いつか読んだ冒険譚の主人公みたいに出来るわけなんてなかったんだ。


あそこで待っていれば、こんな怖くて痛い思いしなくてよかったんだ。


あそこで待っていたら……取り返しがつかなくなっていたかもしれない。


そうなってしまったらあの時何もしなかった事を、あの時母さんを探しにいかなかった事を、きっと後悔していた、だから。


大丈夫、大丈夫だからと逃げ出したい気持ちを押さえ付けるように自分に言い聞かせる。


絶対に何とかして見せると自分を鼓舞する。


何とかしないと、何とかしないとダメだ、そんなの絶対に嫌だ。


意思に反して体は少しも動かせそうにない、それでも何とかする方法を必死に考える。


足音が近付いてくる、近付いてくるのは……私が動けないと思ってるから。


もう終わったと思っているから、それなら……


剣を手元に引き寄せると同時に足元で魔力を爆発させて


「いっけぇぇぇぇ!!!」


自然と叫んでいた、剣を構え、真っ直ぐ、真っ直ぐ、ろくに動かない体を魔力で前に押し出す。


押し出すなんて行儀のいい物じゃない、自分でも制御できない力で吹っ飛んでるだけ。


剣を手放してしまわないように両手で握り締め、勢いのまま、真っ直ぐに。


見えない何かにぶつかった、それでも構わず、それでも止めず、押し出し続けて見えない何かで自分の体が押し潰れそうになる。


ゆっくり、ゆっくりとだけど刃がめり込んでいく感覚がある。


後少し、後もう少しで届く、そう思った所で甲高い音が響いて、体が突然軽くなった。


抑えられていた力が急に無くなって、態勢が崩れて、坂道を転がり落ちるみたいに地面を転がって。


それでも勢いは止まらなくて、全身を何かに打ち付けられてやっと止まった。


ばらばらと何かが崩れるような音が聞こえる。


いつの間にか壁際にいた、何があったのかよくわかっていない。


体はもう動かない、魔力ももうほとんど無い。


頑張った、よく頑張ったと思う、もういいんじゃないかと思う。


「よく……ない……」


立ち上がろうと思っても力が入らない。


納得しちゃ駄目だ、まだ終わりじゃない、諦めたくない。


土を踏む足音がゆっくりと近付いてくる。


死ぬのは嫌だ、怖い、嫌だ、嫌だ。


逃げたくても逃げられない、私に出来るのは怖さから逃げるように目を強く瞑るだけだ。


……風を切る音が、聞こえたような気がする。


いつまで経っても痛みは襲ってこない、恐る恐る目を開けてみると誰かがいる、銀色の髪に──


それが誰なのかを理解すると我慢していた涙が溢れてくる。


本で読んだような、窮地に駆け付けてくれる英雄のように思えて。


私は、こんな風になりたくて冒険者になったんだ。



-3-


「……来るのはいいんだけど、扉壊すってどうなの?」


「非常事態だったとでも言う、ラズラの家に向かえ」


この二日間、出会ったのは着替えと食事を持ってくる看守だけ。


取り調べの類いを受けると思っていたけど、そういうのは一切無かった。


私が捕まったのはどこかから知っているとして、面会に来ないのは博覧会の準備で忙しいからだと思っていたけど、この様子だとそうではなさそうだ。


「流石に防具までは持ってこれなかったが使え」


そう言いながら渡してくるのは至って普通の剣、それから小さな指輪だ。


ダレン爺の試験品と同じもの、捕まった時に押収されていたはずだけど。


「……これ、どこから取ってきた奴?」


「押収品を回収しただけだ、剣は備品の物だろう」


押収されていた物を回収するために何をしたのかは聞かない事にする。


いつも通りに装備を整えながら一つだけダレン爺に質問する。


「事情聞く暇ある?」


「無い、準備が出来次第俺も向かう」


短い溜め息を吐いて色々諦める。


何があったのかまでは分からないけど、何かがあった。


ダレン爺の言うようにラズラさんの家まで急ごう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ