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意外な再会

-1-


目が覚めた、寝床は固い。


体が少し気だるいが起こせない程ではない、体を起こし、寝床の縁に腰かける。


見知らぬ部屋、部屋全体が剥き出しの鉄色、光源は無いが問題ない。


爪先で軽く床を叩いてみると高い音が返ってきた。


寝床は私が今横になっているのを含めて二つ、丁度向かい側においてある。


窓はない、換気するための装置らしい物が壁の高いところにあるがそれだけだ。


出入口らしいのは覗き窓のついた頑丈そうな扉が一つと風呂場に使われているような扉。


寝床から立ち上がり、風呂場にありそうな扉を開けると風呂場と厠だった。


それなりに小綺麗だ、ここにも換気するための装置はあるが相変わらず窓はない。


続いて、頑丈そうな扉を開けようとしてみるが開かない。


ガチャガチャと少し足掻いてみるが開く様子はない、外から鍵が掛かっているらしい。


覗き窓を覗こうにも位置が高い、私一人じゃ届かないだろう。


あの晩、家に忍び込んだ賊が私を連れ去った……のだとは思うが、意識を失う前後の事をはっきり思い出せない。


今出来ることは無い、仕方がないからもう一度寝ようかと振り返ると毛布を頭から被った誰かが寝床の上からこっちを見ているのに気がついた。


「っ、誰?」


誰かいると思っていなかったから反応が少し遅れた。


器用に目元だけ開けて毛布を頭から被っている、毛布の膨らみの輪郭が人間のそれではない。


光源も無いのに毛布の隙間から覗く赤い目が僅かに光って見える、それに布団の端からトカゲのような尾の先がはみ出ている。


お互いに見つめあって、数秒。


「テイルス?」


「……なんで?」


その声はあまりに予想外で、思わず素で声が出た。


「やっぱりテイルスだ!」


私だと分かるとアカメは毛布を弾き飛ばし、寝床から飛び降りるようにこっちに駆け寄ってきて、その勢いのまま私に抱きついてきた、倒れないように力を込めて踏ん張る。


どうしてこんな所にいるのか、何があったのか、色々聞きたいことはある。


あるけど、無事そうで安心した。


一度アカメを引き剥がして、立ったまま話すのも何だから固い寝床の縁に腰かけるとアカメも隣に座った。


「ここ、どこか分かる?」


「ううん、おじちゃんにきいてもおしえてくれなかった」


「……その、おじちゃんって?」


「えっとね、ご飯とか着替えの服とかもってきてくれるよ、外に出ちゃ駄目だって部屋からだしてくれないの」


私を拐った奴だろうか、私が拐われた理由も分からないが、アカメが拐われた理由はもっと分からない。


アカメの里親を殺してまで拐っている以上、何かの人質と言うわけではない、アカメ自身が目的なのだろう。


「もー、テイルスばっかりずるい!私も聞きたいことあるのに!」


「じゃあ、そっちの番」


「えーっと……」


聞きたいことがある、とは言ったがそう言うと考えるように天井を眺め始めた。


少しして何か思い付いたのか、ハッとした表情になり


「そうだ!テイルスはどうしてここにきたの?」


どうしてここに、それは私が聞きたい。


「わかんない、なんでここにいるの?」


「私もわかんない!それじゃあ次はー……」


すぐ様答え、同じ質問を返すと何故か自慢気に答え、次の質問を考え天井を眺め始めた。


そのまましばらく唸り続けているがまだ出てこない、結局あまり無いんじゃないか。


「何にもないんだったらこっちの番、さっきまで何してたの?」


「えっとね、ガチャガチャって音で目がさめて、誰だろうって見てたらテイルスだったの!」


要領は得ないが、伝わるには伝わった。


「……アカメはどれくらいここにいる?」


「えっとね……おじちゃんにおはようっていったのがー……」


「嬢ちゃんたち、朝だぜ」


アカメが悩んだところで乱暴に扉を叩く音が聞こえると覗き窓から顔が見えた。


あれがアカメの言うおじちゃん、だろうか。


友好的なように見える、見えるだけだ。


子供に警戒されないように、そういう人間を演じている人間だ。


「あ、おじちゃん、おはよう!これで五回目かな?」


「あい、おはよう、そっちの嬢ちゃんもおはような」


五回目、アカメがここにきて五回目の朝。


五、六日前となると……私とラズリアが、殺人現場に居合わせた日とかち合う。


「……おはよう」


ともかく、ここで分かることを知る必要がある。



-2-


ここで過ごす内に分かったことがいくつかある。


同じ人間、アカメの言うおじちゃんが食事やら何やらを運んできている事、他の人間が持ってくることは無かった。


食事中や男が退屈そうな時にアカメとよく話している。


私の方にも声を掛けてくるが、こっちは話の流れで話をする程度の物だ。


隠しているつもりだろうが下心が丸見えだった、子供の体に魅力は無い……事は無いだろうが、とにかくそういう趣味の男だろう。


他にも何人かいるらしい事、一度だけ外から他の声が聞こえてくることがあった。


上で問題があった、手が足りない、とか言っていたか。


戻ってくる足音は一人分だけ、この近くにいるのは一人だけなのだろう。


飯が不味い、食えなくはないが美味くない、他に食うものも無いから仕方がないが、アカメは文句も言わず美味そうに食べる。


ただ、飯の後に出される果物は甘くて美味しかった、皮を剥くのに少し苦労するのが難点か。


外に出られないのは窮屈だが、アカメが相手をしてくれているから退屈はしない。


初めはアカメの話に私が反応を返すのがほとんどだった。


何度かそうするのはいいが、話す内にいい加減話す事も少なくなってきたみたいで、考えるように天井を見上げる事が増えた。


普段なら沈黙は気にならないが、今は違った。


「……私が覚えてる本の話しようか?」


「ききたい!」


だから私の昔の事を話す事にした、長く生きている、話す事には事欠かなかった。


勿論私の経験だとは言わない、あくまでそういう本があったのだと、そういう本を読んだのだという体裁で話す。


話す内容もアカメに話しても問題がないような話を選んでいるつもりだ。


流石に微笑み一つで国を滅ぼした、だとか王を誑かして国を腐敗させただのの話をする訳にも行かないだろう。


主には飽きる前の話、何もかもが新鮮で、何もかもが新しく感じていた頃の話。


それから人に化ける前の話、ここまで遡ると覚えている事も多くはなかったがアカメはこういう話が好きらしい。


野を駆けて回った事、いつの間にか知らない場所だった事、そこから見えた景色。


「いいなぁ、外であそばせてくれてもいいのに」


その後、おじちゃんとやらに頼んでいたようだが当然断られていた。


ここで暮らし始めて食事を五回、湯浴びが二回、寝たのが一回。


感覚が狂っていなければ私が連れ去られた夜から二日程度経っているだろうか。


変わらない朝、実際に朝なのかも分からないがそう思うしかない。


アカメに挨拶を返し、外にいる男から飯を貰い、アカメと話をして。


何の目的があって拐ったのかは知らないが、連中の思い通りになるのは気に入らない。


男が部屋の前からいなくなった時を見計らって、手招きしてアカメを部屋の隅に呼ぶ。


雰囲気を察してくれたのか、肩を寄せ、小声で話しかけてくる。


「どうしたの?」


「ここから抜け出そう」


「うーん……でも、大丈夫なのかな?」


そう言うと悩むように小さく唸る。


アカメは元々こういう事には乗り気な方だ、抜け出そうとする事それ自体に抵抗はない。


不安なのは見つかって叱られないか、とかそんな所だろう。


そもそも見つかればどうなるか分かったものではない、アカメはそう思ってはいないだろうが。


「アカメが手伝ってくれるなら、大丈夫」


「!えへへ、うん、わかった!」


何故か嬉しそうにそう言った。



-3-


テイルスのいった通りに、おじちゃんにはなした。


ねる時間になったら大切な話があるからきてほしい、って。


夜おそくにぬけだすみたいだから、それからはおひるねしてた。


いつもなら眠たくなる時間だけど、今日はすこしもねむくない。


いつもねる時間になった頃、のぞき窓からおじちゃんの顔がみえた。


「で、大切な話ってのは?」


テイルスをおこさないように、ちいさな声でそういう。


テイルスは扉のすぐ横にかくれてる、丁度のぞき窓からみえないところ、おじちゃんからはみえないところだ。


テイルスのベッドには枕をつめて、布団をかぶせてる。


多分、これでねてるとおもう、はず。


「う、うん」


うまくできるかな?テイルスがいってたみたいに、ちゃんとできるかな?


あんまり、意味はわからなかったけどいわれたとおりに


「あのね、私、おじちゃんとなら、いいよ?」


そういいながら少しだけ、着ている服の胸元を指でひろげる。


意味はわからないけど、こうしたらいいってテイルスがいってた。


のぞき窓の向こうで一瞬おどろいたような顔をすると


「……もう一人の嬢ちゃんは?」


「うん、ねてるよ?」


「……よし、今から開けるけど声とか出さないようにな?」


「う、うん?」


何かあったのかな?なんで声だしちゃいけないんだろう?


よくわからないけど、おじちゃんがゆっくり音をたてないように鍵をあけた。



-4-



扉が開くと同時に扉の影から飛び出して男の手を掴む。


「あ?」


「寝てろ」


いつかメイに食らった感覚を思い出す、それをそのままぶつけ、そうあれと命令するように呟くと、立つ力を無くしたように部屋の中に倒れ込んだ。


さっきよりも体の中の異物感が大きくなったのが分かる、やはり私の魔力に反応しているようだ、気持ち悪い。


腰にぶら下げていた鍵束を外し、ついでに私の手には余る短剣を奪い取る。


手で持ちっぱなしなのは疲れる、服の内側にでも忍ばせておこう。


私が物色している間、アカメは倒れ込んだ男を心配そうに覗き込んでいた。


「行こう」


「う、うん……大丈夫、なんだよね?」


「うん、大丈夫」


手を差し出すと少し困惑した様子でそのまま私の手を取る、音を立てないように出来るだけ静かに部屋を出、鍵を閉める。


どれだけ寝てるかは分からないが、鍵を閉めておけば時間稼ぎにはなるか。


殺しておいた方がいいんだろうが、アカメに見せるわけにもいかない。


部屋を出ると長い廊下といくつかの扉、私たちがいた部屋は一番奥にあったみたいだ。


廊下は少し湾曲していて、向かい側の奥までは見ることが出来ない。


すぐ横の部屋の扉が開いている、あの男はここにいたんだろうか?


中を覗いてみるが、私たちのいた部屋とそう変わらない。


寝床と机、それ以外は特にない、調べる必要はないだろう。


ここがどこなのかも分からないが、ひとまずはここから出て、それからだ。


「ねえねえ、テイルス、さっきのってどういう意味なの?」


「知らなくていい」


「えー?」


アカメと話をするのはそれぐらいにして、音を立てないように静かに歩く。


アカメも見つかるのはまずいと思ってくれているみたいで、出来るだけ静かに歩いてくれている。


歩いているが不定期に扉が置かれているだけ、途中階段を見つけたが上にいく必要はないだろう。


出口の目処は立っていない、どこかに地図でもあればいいのだが、そう都合の良いこともない。


そうして歩いている内に廊下の突き当たりまで来てしまった、これまで歩いた道に分岐は無い。


これまでの扉のどれかが出口に通じているんだろうか、出来るならやりたくはない。


誰かと鉢合わせした時にもう一度なんとか出来るとは思えない。


「ね、テイルス」


「何?」


私の耳元まで顔を寄せ、不意にアカメが小さく囁く。


「ここ窓ないのなんでかな?」


確かにアカメの言うようにここまでにそれらしい物は見つからない。


あの部屋に無かったのはともかく、廊下のどこにも見つからない、建物として欠陥があるんじゃないだろうか。 


窓がない理由、外を見る必要が無ければ、窓は必要ないだろう。


思い当たる節はある、遺跡の地下には空間があるとラズリアが言っていたのを思い出した。


ここがその遺跡なのだと確証がある訳ではない、ただそれなら廊下を歩いているだけでは外には出られない、


上で問題があった、とか話していたか。


ここが地下なら、二階と言う意味ではなく地上と言う意味でも話は通じる。


「階段、登ってみよう」


来た道を戻って、階段を見上げる。


途中で折れ曲がっていて上の様子は分からない、少なくとも人の気配はしない。


「大丈夫かな?」


「多分」


楽しそうなのは気のせいではない、久しぶりに歩き回れて楽しいんだろう。


階段を一歩ずつ、慎重に登る。


折れ曲がっている所まで辿り着くと上に続く階段、それから重そうな扉、内側から何かがぶつかったんだろうか、所々凹んでいる。


アカメは扉が気になっているようだが、上に続く階段があるならそっちを見ておくべきだろう。


アカメの手を軽く引き、意識をこちら側に向けさせてから階段をもう一度見上げる。


階段の一番上に扉がある、それだけだ。


「こっち行こう」


階段を慎重に登り扉に手を掛ける、この扉も所々凹んでいる、鍵は掛かっていない……のではなく壊れているようだ。 


この扉もこちら側から何かで殴り付けたような凹み方をしている。


扉を少し開けると湿った土の匂いがする、隙間から覗いてみるとまたすぐに階段があった。


その階段の先には澄んだ夜空が見える。


外、もう少し隠れるようにして出口を探すと思っていたが、思いの外呆気なかった。


外に出たらそれで終わりと言うわけではないが、驚くほどに順調だった。

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