表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/102

雨の夜の出来事

-1-


雨が降っているのもそうだが、薄く霧が掛かっているせいで視界が悪い。


水は弾くようにしているが、足元が滑るのは気を付けておかないと。


マーチェスから北に出た山間の道の端で隠れている。


頼まれた依頼は記録に無い荷物の奪取だ、極力持ち帰って欲しいが無理なら破壊して欲しいとの事だ。


どれなのか分かるように本来の荷物には予め細工してあるらしい、その細工が無い物が目的の荷物と言うことになる。


足がつかない装備を整えて貰った、一級魔具師なだけあって用意されたのはどれも上等なものだ。


普段つけないような装備で少し違和感がある、頭全面を覆う兜なんて久しぶりに着けた。


着け心地は悪くない、視界もそれほど塞がないし音も籠らない。


防具は軽く丈夫で動きの邪魔にならない物、関節と急所は最低限防げる程度の物だ。


剣は長さの異なるの物を二本、後は自分の持ってきていた魔具をいくつか。


装備の確認をしていると遠くの方で明かりが近付いてくるのが見えた。


それが少しずつ大きくなっていき大型の魔動機が見えた、大きなコンテナを牽引している、あれが目的の魔動機だろう。


最終便、この時間に他の誰かが通ることは稀らしい。


罠を仕掛けて、魔動機が止まっている隙に荷物を奪う。


護衛の冒険者がいるだろうから、それを何とかして……


段取りの最終確認をしているとすぐ横を魔動機が通りすぎ、少ししてゆるやかに停止した。


それを確認すると、本道に飛び出て一気に駆け寄る。


異常に気付いて降りてきたのは三人、赤い鱗のリザードマン、小柄で外套を被った人、それから……


そのもう一人が眼前にいた。


咄嗟に腕で頭を防ぐと、強い衝撃に吹き飛ばされた。


「ぐ、うっ……!」


呻き声を噛み殺し地面を転がりつつも何とか地面を掴むと、地表を抉りながら獣のような姿勢で勢いを殺し態勢を整える。


動かすと腕が僅かに痛む、折れてはいないだろうが利き手じゃなくてよかったと思う。


「派手にやってくれるじゃねえか、えぇ?」


悪態付く聞き慣れた声、視界に捉えたのは目立つ薄緑の鎧を纏った赤黒い髪の男。


あぁ、大口ってのはこれのことか、と納得した。


距離があるように見えるがこの程度の距離ならすぐに詰めてくる、ただ手口が割れてるなら十分に対応できるはずだ。


「おっさんから離れんなよ!おっさんは急いで修理!終わったら適当に合図!」


「お、おう」


「わかりました!」


顔を向けずに二人に指示を飛ばすと一気に間合いが詰まり同時、切り上げるような横薙ぎの一撃。


体勢を崩される事の無いよう腰を据え、剣の腹で受け止める、のだが


「どっらぁ!」


勢いもそのまま思い切り振り抜く、魔動機との距離を更に離すのが目的だろう。


加えられた力のまま体が宙に浮き、結果として大きく後方に飛ばされる形になった。


両足で勢いを殺すが殺し切らず、後方に滑るような状態のまま次の攻撃に備える。


私に追い縋るように距離を詰めてくるだろう、接近してくるタイミングは何となく読める。


踏ん張りが聞かない以上、真っ向から受け止めるのは難しい。


ウルベが僅かに姿勢を低くすると、直後、眼前に迫る。


剣を地面に突き刺し、そこを起点にして滑る方向に変化をつけ勢いを殺し切らないように、側面に回り込む。


空を振る音が重く響くと同時、勢いを乗せがら空きの側面から回し蹴りを見舞う。


「っ……てめぇ、やっぱり知ってんなぁ!?」


吹き飛びつつも態勢を整え怒号を飛ばすが、着地と同時休む暇を与えず攻め続ける。


剣を使うのは防御と相手に動かさせる時だけだ、防げない一撃を振るう訳には行かない。


片腕が使えない以上、受けに回ると途端に厳しくなる、真っ向から受け止められる自信はない。


攻めに転じさせない剣撃で確実に体力を削っていく。


「ちっ……!」


一際大振りに薙ぎ払い、それを避けるとウルベとの距離が開いていた。


魔力で後ろに下がったのだろう、肩で呼吸を整え苛ついた様子で剣先を地面に置く。


「わっかんねぇな、さっきから……」


「武器を捨てろ」


続く言葉を遮るように魔動機の方から声が響く、予想外の事態にお互いの視線がそちらに向く。


見えたのは明かりを浮かべ、意識を失い倒れている二人の後ろに黒い外套を頭から被っている誰か、顔は見えない。


分かりやすい人質、だからこそ私もウルベも迂闊に動く訳には行かない。


他に協力者はいないと聞いている、ならあいつは何だ?




-2-


「もう一度言う、武器を捨てろ」


お互いに動きが無かった為か、急かすように再度声を上げる。


声を張っている訳でもないのにこの距離からでもよく聞こえる。


「ちっ、新手かよ、あ?」


敵が二人、今の奴は囮でもう一人、不意を突かれたのか、二人とも伸びている。


これは俺の落ち度だ、手早くこいつを片付けて戻るべきだった。


人質を取られている以上、迂闊には動けない。


ダレン爺の魔具の事を知っている、何かしら対策を取られていると考えた方がいい。


苛立ちをぶつけるように手首の動きだけで一層強く剣先で地面を叩く。


武器を何も持っていない、だからこそ余計にやりにくい、それだけ自信があるらしい。


武器を捨てれば身の安全が保証されている訳でもない、ここは強引にでも……


半歩踏み込もうとした時、目の前の敵は俺の方に目もくれず、腰を据え、逆手に持った剣の切っ先を男に向けていた。


柄頭を掌底で強く殴り付けると男に向かって真っ直ぐに剣が放たれた。


それより僅かに遅れて、剣を追従するように真っ直ぐに飛ぶ。


味方同士ではない?いや、そんなことよりもだ。


放たれた剣は近付くにつれて速度を失っていき、触れる直前に空中でその動きを止めた。


眼前で急停止すると引き抜いていたもう一本の剣を胴体に振るう、のだが何かに受け止められていた。


腕を起点にして、体を捻り、回し蹴りを見舞うもこれも同じように受け止められていた。


体が半ば浮いた状態で男の手のひらが向けられると空を蹴り、拘束から抜け出すと勢いのまま地面を転がった。


男の手から放たれた見えない何かが、降っている雨の一部を抉り四散したのが見えた。


考えるのは後にする、生まれたチャンス、活かさない訳には行かない。


魔力を足に、魔具に集中させ、強く地を蹴り、真っ直ぐに飛ぶ。


「おっらぁ!」


眼前に迫り薙ぎ払うように剣を振るうと男は大きく飛び退いた。


避けた、つまりは防げないということ、休む暇を与えず地面を踏みつけ更に連続で踏み込む。


振るう、飛び退く、踏み込む、手のひらが向けられる、こっちの方が速い。


振るう、飛び退く前、泥に剣を取られたような感覚で勢いが削げる、両手両足で踏ん張り両腕で構わず振り抜く。


豪快な風を斬る音、手応えはない。


魔力による防壁か何かだろう、おかげで距離を離すだけの僅かな時間を稼がれた。


ともかくこれでいい、この距離からなら大体の事には対応出来る。


しばらくの睨み合いの後、自分の不利を察したのか、霧の奥に消えていった。


気配を探ってみてもいるのは背後にいるもう一人だけ、不意を突くことも出来ただろうに、人質を背に剣を構えて立っていた。


人質の近くにいる事は特に問題ではない、問題なのは


「何やってるかわかってんのか、シルバ」


それが見知った腕利きである事。


最初の時から妙だった、それなりに有名人な自覚はある、何をしてくるのか対策を打っているのかとも思った。


確信を持ったのは、もう一人に近付いた時だ。


加速だけなら少し魔法を齧れば誰にでも使える、制御できるかはともかく仕組み自体は単純だからだ。


問題はそこから停止する方法、急停止すればそれ相応に負荷が掛かる、だがそれらしい様子は微塵も見えなかった。


恐らくは俺と同じ試験品を持っている人物、それに当てはまるのを一人しか知らない。


「ここで退くなら見なかったことにしてやる、事情も聞かねえ」


退くなら追いはしない、上手く誤魔化してさっきのもう一人の事だけを報告してそれまでだ。


幸いな事に二人は意識を失っている、この事を知っているのは俺だけだ。


「退かないってんなら……」


片手で正眼に構え、真っ直ぐに見据える。


五枚羽、それだけ信用に足る冒険者である事の証明、それがこうしているからには何かあるに違いない。


「お前がそうする理由を教えろ、やるのはそれからだ」


しばらくの沈黙、雨音だけが響く。


気を抜けば詰められる、詰められれば間違いなくやられる。


シルバはあの加速に反応出来るのだろうが、俺には出来ない。


一瞬も油断できない緊迫した空気が不意に緩んだ。


「……後ろの二人をトラックに運ぶ、手伝え」


ようやく返事を返すと剣を納め俺に背を向けしゃがみこんだ。


敵対の意思はもう無いと思っていい、俺も倒れている二人に近付く。


「気を失ってるだけ……とは思う、魔法で何かされてるようなのは無い」


「あぁ、そうかよ」


命に別状がないならそれでいい、シルバと二人で両肩を抱え一人ずつ順に席に運ぶ。


前と後ろで大人二人が横になれるだけの席の広さはあったはずだ。


二人をトラックに乗せ終え、ようやくと言った様子で向き直る。


「で?お前がそうする理由ってのは何だ?」


「……積み荷を確認したい、何か密輸されてる」


「あ?そりゃあ、どういう……」


用件を言い終わると俺が聞き返すより先に自分で明かりを浮かべ、近くを歩き始めた。


さっき放った剣を探しているんだろう。


俺の受けた依頼は博覧会に関係する荷の輸送の護衛だがそういう話は聞こえてこない。


博覧会の時期は荷の確認は組合が協力してやっている、警備の厳しくなるこのタイミングで密輸というのは理解しかねる。


密輸するようなものの時点でろくなものではないのだろう、それがこのトラックに積まれているなら確認するべきだ。


「……用件は分かったが、ならさっきのは何だ?」


思考も程ほどに、シルバの方に視線を向けると泥を払って鞘に納めている所だった。


「私が知るか」



-3-


トラックの荷台に私だけ乗り込む、ウルベは外で辺りの警戒をしている。


荷台の中は明かりがなければ何も見えないぐらいに真っ暗で、雨の打ち付ける音が響いてうるさい。


人が通れる程度の隙間を開けて規則正しく大小様々な大きさの木箱が並べられている。


用意していた魔具を取り出す、手のひらに収まる程度の楕円形の小さな輪、これを使えば分かるらしいけど。


魔力を込めてみると、青白い光が照らす。


周囲を照らすような明かりではなく、手元だけを照らす程度の明るさだ。


それを荷物に近付けると木箱の表面に何か模様のような物が浮かんでいる、これが言っていた細工だろう。


この細工が無い木箱が本来運ばれる予定の無い物、密輸品と言うことになる。


見つけやすいように浮かべている明かりの光度を少し下げた方が良さそうだ。


見落としの無いように一つずつ確実に、出来るだけ早く。


そんな作業を初めて少しした頃、模様の浮かんでいない木箱が見つかった。


手のひらより少し大きいぐらいの細長い木箱、隠すように荷物の隙間に挟まっていた。


これが密輸品、誰が何の目的で運んでいるのか、それは分からない。


これを持って帰るのが私の依頼だ、それからの事は戻ってから考えよう。


木箱を引っ張り出す……手が木箱に触れたとき突然嫌な予感がした。


「っ……」


悪寒とでも言うのか、何か……違和感のような、そんなはっきりとしない感覚。


きっと、中身はろくでもない、ともかくこれで終わりだ。


考えることはたくさんある、何にしても考えるのは戻ってからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ