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曇り空の下

-1-


今日は一日用事があるからと、ティルの事はラズリアに任せてある。


リアンさんも用事があるとかで留守にするらしい、ラズラさんも博覧会の準備でいない。


ティルとラズリアを二人きりにさせてしまうが、前にもそんなことがあったから大丈夫だろう、大丈夫と思いたい。


今は組合の古い資料を見させて貰っている、昔にあった事件だとか、どういう依頼があったか、とかだ。


二度目と言うこともあって資料を見たいと受付の人に伝えるとすんなり通してくれた。


最初は簡単な手続きはあったが、顔を覚えてくれていたらしい。


部屋は相変わらず、整然と置かれた棚に隙間無く資料が入っているのもあって少し威圧感を覚える。


人がすれ違える程の隙間を開けて、左右に一つずつ、それがかなり奥まで続いていて途中途中に小さな机と椅子が置かれている。


入ったことは無いがメルヴィアの保管室もこんな物なんだろうか。


最初は片っ端から、マーチェス内に限らずエスリックの物も含めて、ここで調べられる物を全て調べていた。


場所は絞り込めた、おおよその年代も分かっている、きっと見つかるはずだ。


探し始めて暫く経った頃、それらしい書類が見つかった。


村人全員が殺された事件、エデンフラウの名前が出ている、間違いないだろう。



『報告書

エデンフラウの咲く近くにあるバンテロの村で村人全員が殺害される事件があった。

死者は老若男女五十人を越え、生き残りは確認できなかった。

物資の運搬をしている定期便が発見し、組合に連絡、その後調査の段取りとなった。

調査の結果、犯人は同村に勤務していた治癒師と思われる。

凶器に使われた包丁で胸を刺し死んでいるのを発見した、遺書のような物は見つからなかった。

動機は不明、マーチェスの住人や近隣の村に十分な説明が必要。

詳細な調査は後日専門家を連れて行う予定、以上

アルティア冒険者組合マーチェス支部所属 ヴァルニール』



「自殺……」


自殺じゃない、あの嫌な感触を、感覚を、まだ覚えてる。


何度も包丁突き立てていたはず、調査が不十分だったとしてもあの傷を見て自殺とは考えないはずだ。


「バンテロの村は……」


考えても分からない事を考えるよりも、今は少しでも調べよう。


報告書に載っていた名前、それがあの村の名前、この資料を見つけるまでに何度かその名前を見た覚えがある。


村に関係する依頼を全部調べてみよう、何か分かる事があるかも知れない。


資料を掘り返して、村に関係する依頼とその報告書をいくつか抜き出す。


『魔物が畑を荒らすので何とかしてください』


『医療教育のお知らせ』


『大型魔物避け設置の為の手配書』


『収穫の人手が足りません!力のある人募集!』


それぞれの依頼文を流し読みしているが特におかしな点は見つからない。


魔物が畑を荒らしていたり、医療団が来ることを事前に伝えたり、よくある事の範疇だ。


報告書に不備らしい不備はない、誰が、何を、いつ、どこで、どうしたか、分かりやすく纏まっている。


違和感があるとすれば、調べてみてもフィルスト・ダグザックの名前はどこにも無かった。


懇意にしていたなら依頼を受けるぐらいの事をやっても良さそうな物だが。


アルナイルさんの言っていたように、冒険者として生活しているなら何か記録が残るはず。


色々と考えながら資料を流し読みしていると気になる依頼書が見つかった。


『調査依頼書』


村の裏手にある崖の方から変な感じがすると治癒師の方から相談を受けました。


問題はないと思いますが念のため調査をお願いします。



治癒師、懇意にしていた治癒師と同じ人だろうか、報告書は……


「あのーすみませーん」


報告書に手を掛けようとした時、申し訳なさそうに声を掛けられた。


視線を向けてみると少し離れたところで手続きをしてくれた受付の人が近付いてきていた。


私の隣に立つと机に並べていた資料を一瞥し、すぐに私の方に向き直る。


「そろそろ保管用の魔法使うので、退室お願いします」


「……すみません、すぐ片付けます」


「あ、いえいえ、どこの棚にあったのかだけ教えてもらえればやっておきますから」


手に持っていた資料と机に置いていた資料を一纏めにして持っていこうとした所で制止するよう手のひらを前に出す。


最低限、どこから持ってきた物なのかを簡単に分けておこう


「そこの棚と……そこの空いてる所です、お願いします」


報告書だけでも確認しておきたかったが長居する訳にもいかない、今日の所はここまでにしておこう。



-2-


「そういえば、ティルとこうやって二人になるの二回目っすね?」


私の前を歩くラズリアが不意にそう言う。


シルヴァーグは用事、ラズリアの母親も父親も用事、全員今日は戻ってこないらしい。


天気があまり良くない、いつ降りだすとも分からないから出掛ける気分ではない。


都合が良いことに、工房があるらしいからそこで色々と見せてもらいながら教えてくれる事になった。


今は昼飯を済ませ、工房に向かって廊下を歩いているところだ。


それまでは一人で本を読んでいたのだが、思い出したようにラズリアが


「工房見たくないっすか?」


と言ってきたのが発端となった、前から少し気になってはいた。


少し廊下を歩いて、他とは毛色が異なる重そうで頑丈そうな扉に向き直る。


鍵を開けると、そのまま体重を乗せて扉を開けた。


「ここが工房っす!危ないから勝手に触っちゃだめっすからね!」


明かりをつけると自慢げに両手を広げ、胸を張る。


「ん」


適当な相槌を返して、部屋を見回す。


中は想像していたよりずっと綺麗な部屋だった。


何となく物を作る場所は埃っぽい印象があったのだが、そういうのは一切無かった。


部屋の中心に大きな机といくつかの椅子、何冊かの本が置きっぱなしになっている。


分厚い本の入っている本棚、それから壁に沿って魔具か魔動機か分からない物がいくつか並んでいる。


奥には透明な仕切りで区切られた小部屋がいくつかある。


その部屋の一つには一際大きな魔動機が置かれていて、そのすぐ横の壁には何かの器具がいくつもぶら下がっている。


「とりあえず……どこから始めるっすかねー……」


本棚から何冊か持ってくるとそれを机の上に重ねる。


「あれ何?」


どう手をつけた物か困っている様子のラズリアは置いておくとして、指差すのは奥にある一際大きな魔動機?だ。


何かを作るために必要な物なのは分かるが、それが何なのか見当もつかない。


「あれはミスリル作る奴っすね、こう……魔力をぐっ、と込める感じっす」


説明に困ったのか、手を強く握るが何も伝わってこない。


気を取り直して、と言うほどでもないが席について一番上に重ねてあった本を開く。


何の気は無しに開けてみたが立体魔法陣について書かれているようだ、内容は少しもわからない。


表紙を改めて見てみると『魔具免許一級』と書いてあった。


「……そこは私もちょっとわかんないっすねー、とりあえずこの辺っすかね、確か前に読んでたっすよね?」


そう言って隣に座ったラズリアが差し出したのは、以前私も読んだことのある『魔動機全般』だ。


「分からない所出たら聞く」


読んでいて難しい本だったが全てラズリアに説明させるのも悪い、私が読んで分からない所をラズリアに教えてもらうのが効率が良いだろう。


『魔動機入門』の内容はある程度理解できた、今ならもう少し理解できるはずだ。


ラズリアと持っている本を交換し、以前読んでいた辺りを開く。


見慣れない難解な言葉と、記号なのか図なのかよく分からない複雑なものが載っている。


「……これ何?」


「いや、速攻じゃないっすか、ここは……魔力を膨らませるみたいな奴っす」


よく分からない。



-3-


結局ラズリアに半分以上説明してもらう事になった、元々難しい所だと言うのもあるらしい。


もう半分は何となく分かった、とはいえ実践が伴っていない以上知識としてのみだが。


読み進めている内にふと気になる事があった。


「魔法と魔法陣ってどっちが先?」


魔法ありきの魔法陣なのか、魔法陣ありきの魔法なのか。


魔法陣を再現しているのが魔法なのか、魔法を再現しているのが魔法陣なのか。


魔法は感覚的に使えるのに対して魔法陣には法則がある、全く同じ火を起こすにしても過程が大きく異なる。


……考えていて自分でも意味が分からなくなってきた。


そう聞くとラズリアは考えるように顎に手を当てて唸っている。


「……わかんないんで、ちょっと考えるのやめていいっすか?」


それからは所々省きつつ、それでもラズリアの言う要点は抑えて何とか一冊終わった。


途中休憩を挟みつつ、手の汚れない菓子を摘まみ、茶を飲みながらだったがなかなか堪えたようだ。


聞いているだけの私と違って色々と教えてくれた分、当然疲れるだろう、今は机に上半身を倒して、突っ伏している。


成果はなかなかあったように思う、途中ここにある器具を使って説明してくれたのは分かりやすくてよかった。


気を取り直した様子で体を起こし背筋を伸ばす、一通りの関節を鳴らし終えると


「そろそろ終わりにするっすかね、晩御飯にするっすか?」


ラズリアの飯は不味いわけではない、が特別美味くもなかったはずだ。


良くも悪くも普通、出来るなら外食がいいのだが、今から出掛けるのも手間だ。


「ん、魚がいい」


「そこはー家の冷蔵庫と相談っすねー」


何となく今食べたいものの気分を伝え、本を片付けるのを手伝う。


晩飯はごくごく普通の焼き魚だった、切り分けられた脂の乗っている白身の魚。


それから米と野菜の盛り合わせ、飾りっ気はないがこれはこれで悪くない。


野菜を千切ったのは私だ、ラズリアに頼まれたからやってみたが存外楽しい。


「作ってから聞くのもあれっすけど、ティルって好き嫌いとか無いんすか?」


「不味いのは嫌い」


「……なんか物凄い圧を感じるんすけど!」


飯は相変わらず普通だった。

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