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それはそれとして

-1-


目が覚めた。


どれだけ眠っていたのかは分からないが、陽が射しているから少なくとも一日眠っていたらしい、昼を超えた頃だろうか。


少し気だるさを覚えつつ体を起こし見渡してみるが特に何の特徴もない部屋だ。


清潔感のある真っ白い部屋、すぐ横の壁に面してそれほど大きくない机が一つ、部屋の隅に椅子が重ねて置かれている。


宿ではない、記憶で見た病院と言われた場所に雰囲気が似ているか。


見れば服を着替えさせられている、ゆったりとしていて邪魔にならない様な服だ。


反対側を見てみるとすぐ横で椅子にもたれ掛かって眠っているシルヴァーグがいた、すぐ横に何かが入っている紙袋が置かれている。


今に至るまでを思い返す、確かあの村で突然異物感が大きくなって……


自分の中に意識を向けてみるとまだ異物感は残っている、自分とは違う物を排除するような、そんな様子だ。


それに何かに魔力を無理やり押さえ付けられているのが分かる、そのおかげで今は大丈夫なのだろう。


仕組みは分かったがどうしようもない、どうしたものか。


少し気だるさこそあるが幸い体はちゃんと動かせる。


部屋の外を見てもいいがシルヴァーグがいるなら下手に動くべきでもない、寝ている所を起こすのは少々気が引けるが起こすしかないか。


シルヴァーグに体を伸ばし袖を引っ張るとすぐに目を覚ました。


短く息を吐いて手で目元を拭うと改めて私に顔を向ける。


「……よかった、体大丈夫?」


「ん、ここどこ?」


「病院、ちょっと待ってて、先生呼んでくるから」


席を離れたシルヴァーグからは微かに寂しさのような物を感じた。


それからはシルヴァーグの連れてきた真っ白い服を着た獣人に今の私の状態を説明された。


私の体の事、魔力が発達し始める際に稀に起こる事、これからは出来るだけ魔力を使わないようにする事、もう少し様子を見て問題無ければ病院で過ごす必要も無い事。


いくつか嘘が混ぜ込まれているようだが、追及するのは止めておく。


「それと入院してる間退屈だろうからこれ、何か必要なものあったら買ってくるけど」


説明が終わり、私と二人きりになるとそう言いながら横にあった袋から本を取り出し机に乗せていく。


私がどこまで読んでいるか分からなかったのだろう、ラズリアの持ってきていた本を全部持って来たようだ。


この前から読んでいた本の続き、それから魔動機と魔具についての本、時間を潰すには十分だろう。


何かと言われたが改めて言われると困る、思い付くものも特にはない。


「今はいい」


やれる事が少ない、本でも読んでいよう。



-2-


面会時間を終え、宿まで戻ってきたけどラズリアはまだ戻っていないようだ。


何とか出来るかも知れない、と言って昨日からどこかに出掛けたままだ。


結局、魔裂症の事を話せなかった。


そういう事もあると誤魔化してもらって、魔力を使わないように注意して、それだけだ。


もう少し様子を見て容態が安定しているようなら入院の意味は無いと言っていた、病院で出来ることは症状を抑えるだけだ。


何かあればまた病院に来る事になるだろう、来ることが無いこと祈るが。


その時はもう誤魔化せない、ちゃんと伝えないといけない。


部屋の明かりを点ける、三人部屋に私しかいないせいでやけに広く感じる。


「はぁ……」


短く息を吐いてベッドに倒れ込んでこれからの事、これまでの事を考える。


ティルの事は私にはどうしようも出来ない、ラズリアは何とか出来るかもと言って出ていったきりだ。


医者が治せないと言っていたがそれでも何とか出来るんだろうか……ラズリアを信じるしかない。


そう言えばごたごたしていてダレン爺にこの事をまだ伝えられていない。


ベッド脇の机に置いていたメモを見てみると住所と簡単な家の特徴らしいのが殴り書きされている、また明日伝えに行かないと。


ティルは予防接種を受けていなかった、だから魔裂症になった。


予防接種についてはあまり詳しくない、医療団がやっている事と子供の頃必ず受けるように言われていたぐらいしか覚えていない。


確か母さんに連れられて病院で受けた気がする、ずっと前の事だからあまり覚えていない。


ティルは何故予防接種を受けていなかったんだろうか、親か、それとも環境か、どんな理由があるのだろう。


もしもティルの両親や保護者が見つかったら私はどうするんだろうか、そうなったらティルはどうしたいんだろうか。


そもそも、何故森にいたのだろう、あんな場所に、足跡も残さず子供一人で。


この事について考えても答えはきっと出ない、他の事を考える事にする。


昨日見つけたあの村の事、間違いなく記憶で見た村だった。


一昨日は見つけられなかった、けどここまで絞り込めたなら何か分かるはずだ。


あそこで何があったのか調べていけば、きっと、母さんの手掛かりも何か見つかるはずだ。


ともかく私に出来ることをやっていくしかない。


……早く寝よう、起きていても仕方ない。




-3-


翌朝、ラズリアはまだ戻っていないみたいだ。


相変わらず広く感じる部屋で手早く支度を済ませる。


出掛ける前に部屋に書き置きと、念のため受付の人にラズリアの特徴と伝言を伝え宿を出る。


まだ面会時間には早い、先にダレン爺の所に行って、それからティルの所に行こう。


貰ったメモを開くがマーチェスの地理はあまり詳しくない。


ダレン爺の付き添いで博覧会の護衛をした事はある、その時にもメモを貰ったけどその時の場所ではないみたいだ。


道中、道を聞いたり近道を教えてもらったり、魔動機に揺られたりしながら貰ったメモを片手に慣れない土地を進む。


「あぁ、そこの人、たまに誰かいるみたいだけど、会ったことないね」


「あーマグダレンさんの家ね……」


道を聞いていると何度かそんな感じの事を言われた。


怪しんでいるというか、不審に思っているようなそんな言い方だったように思う。


マーチェスでも一級魔具師の評判は変わらないんだろう、馴染みがない分こっちの方が冷たく感じる。


あくまでも一級魔具師の噂ありきの物だと思うがあまり気分がいい物ではない。


何があったのかは詳しく知らない、調べようとも思わない。


ともかく、そうしてたどり着いたのは東マーチェスの下流、入り組んだ路地にある平屋だった。


メモの特徴と一致しているし、表札にダレン爺の姓が書かれているから多分ここだろう。


試しに玄関横にあった呼び鈴を押してみると、家の中で間延びした高い音が聞こえる。


しばらく待ってみたが反応が無い、試しに扉を開けようとしてもびくともしない。


もう一度押してみても反応はない、留守だろうか、博覧会とか何とかで忙しいのかも知れない。


仕方がないから戻ってきたら話したいことがあるから組合の宿まで来て欲しい、と書き置きを郵便受けに入れておく。


これで一旦終わり、ダレン爺が見れば何かしら反応があるだろう。


この場所を探している内に陽も随分と高くなってしまった、今から行けば昼過ぎには着くだろうか。


何か買っていこうとも思ったけど、道中目ぼしいのが特に見つからなかった。




-4-


病室に着くとティルのベッドの横にラズリアがいた、二人分の視線が向けられる。


ティルが本を読んでいるのをラズリアが横から覗いているような態勢だ。


ラズリアの服がこの前から変わっている、私のいない間に宿に戻ってきていたらしい。


「おはようございます、先輩」


「おはよ」


ティルは視線を少しだけ向けると、すぐに視線を本に戻した。


「ここのご飯、美味しくない」


私が椅子を運びラズリアの隣に座ると愚痴ってきた、珍しく不機嫌そうだ。


ここまではっきり機嫌が悪いのは初めてかもしれない。


「ここの病院食ってめちゃくちゃ薄味なんすよ、もはや無味っすよ、無味」


「病院食なんだから仕方ないと思うよ、消化とか栄養とか色々あるし」


「それと、明日には退院出来るって言われた」


「そっか、うん、よかった」


短いやり取りを終えるとティルは本を読むのに集中し始めたみたいだ。


私も別にする事はないからティルが読み終わっただろう分を後から読んでいる。


展開は大体知っているのだが結構面白い。


時折ティルの方から本に書いてある物についての説明を求められたり、それに因んだ雑学とかを話したりしていた。


多くは魔物関係、どんな魔物なのかとかどういう習性があるのかとかだ。


私が知らない事、分からない事についてはラズリアにぶん投げる。


それを何度かしてるとティルも私が説明出来ないのを何となく分かってきたのか、そういう事はラズリアの方に聞くようになっていた。


主に物語の話、背景設定とかそういう所だ、読み込んでいるからかやたらと早口で楽しそうに話していた。


例えば冒険者を名乗っている一団は皆同い年であるだとかそれぞれの裏設定とか、そんな知っていると少し面白い話みたいな奴だ。


そうしている内に窓から差す陽も赤みを帯びてきている、面会時間もそろそろ終わりだ。


私も丁度一冊読み終えた所だ、雑談しながらだから読むのに随分掛かった。


戻るには丁度いい頃合いだろうか、私が片付けを始めるとラズリアもそれに続く。


「もう戻る感じっすか?」


「そろそろいい時間だしね、ご飯があんまり美味しくないのは我慢していただけると」


「……ん」


渋々と言った様子で頷いてくれた、退院したら何か好きなものを食べさせてあげよう。


「明日はすぐ迎えに来るよ、じゃあまた明日」


「また明日っすよー」


二人揃って軽く手を振りながら病室を出る。


特に会話らしい会話もないまま廊下を歩き、病院を出てすぐ、ラズリアに呼び止められた。


「あの、今から大丈夫っすか?」


「大丈夫だけど、何してたのかは聞いても大丈夫な奴?」


「来てくれたら、分かると思うっす」



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