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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
三章 ごく短い日常
43/102

マーチェス観光

-1-


マーチェスに来て二日目、ラズリアは一向にベッドから出てこない。


酔いが残るほど飲ませたつもりはないが、もう少し抑えておけば良かったか。


軽く揺らしてみるとじめっとした目を少しだけ覗かせすぐに頭からシーツを被り直した。


「よっ」


強引にシーツを引き剥がすと丸めていた体を更に丸めるが観念したように体を起こした。


「……おはようございます」


「おはよ、意外と寝起き悪いよね」


それから準備を済ませ朝食を食べ、今日は適当にぶらつく事になった。


マーチェスにはあまり詳しいわけではないから観光用の地図を宿で貰っておく。


ラズリアに任せるのでもいいが、こう言うのがあった方が行動を決めやすいだろう


「何かしたい事とかある?」


「私は何でもいいっすよ、ティルはどうっすか?」


ティルも昨日の事でショックを受けている様子はないがそれでも気掛かりだ。


三人で適当なベンチに座ると地図を広げ、一緒に眺める。


観光客に人気のある場所について簡単な説明が載っている。


一通り眺め終えると少し考えた後


「これ」


地図の上の方を指差すと街の外に川下りをする為の船があるらしい。


激流から下るのと穏やかな川から下るのと二つコースがある。


最終的にはどちらもマーチェスまで下ってくるみたいだが説明に


『※激流コースは結構洒落にならない速度が出ます』と書いてあった。


「……激流?」


「うん」


「そこ行きの魔動機が北から出てるはずっすよ」


ティルを抱き上げ、一旦そこを目指すことにする。


地図によればマーチェスから少し北に向かった山間にあるらしい。


近くに止まった魔動機に乗り込むと、いつも通りティルは窓に顔を張り付けていた。


それにしても人が多い、博覧会の時期だとこんなに人が集まるのは知らなかった。


「そう言えば結局昨日の昼って何食べたの?」


「何軒かで食べ歩きして回った感じっすね、ティルはがっつり食ってたっすけど」


そう言われて二人でティルを一瞥するが変わらず窓の外を見ている。


「なら大体被らないかな、昼に何か食べたいのとかある?」


特に何も意識せずに聞いてみたのだが、ティルは考えるように窓の外を凝視し唸る。


飯屋の横を通る度に視線でそれを追い掛け更に悩む。


ラズリアもその間何かを言うのは無粋とでも思ったのか、黙ったままだ。


そうして長い沈黙が続き、ようやく目星が立ったのは魔動機を乗り換える直前だ。


「あれがいい」


そう言って指差したのは骨の付いた肉にデフォルメされた獣人がかじりついている看板、肉系の料理店だろうか。


「じゃあそこにしようか、ラズリアもそれでいい?」


「焼肉の店見たいっすけど……」


「昼間から飲まないの」


「まだ何も言ってないっすけど!?」


何を言おうとしてきたのか分かったから続きを言う前に遮る。



-2-


川下り、やってみたいと思った理由は単に船に乗ってみたかったからだ。


以前メルヴィアでも船を見たが、私の知る船とは随分様相が違っていた。


川で使う船と海で使う船とが同じとは思わないが、少し気になる所ではあった。


森の匂い、流水が岩に当たり跳ねる音、巻き上げる飛沫が肌に触れると冷たくて気持ちいい。


欠点があるとすれば


「喋ると舌噛みますからねー!」


余裕がない、少しも、ない。


船の手すりに必死にしがみつく、離してしまえば身を投げ出してしまうだろう。


激流に流されるまま、船頭が棒で岩や川底を突いて船の向きを変え、後ろにいる一人が船に積んである魔動機を忙しなく操作している。


悲鳴染みた声をあげ、ただただ激流に身を任せる。


かと思えば一瞬激しい揺れが収まり、浮遊感が一瞬襲ったかと思えば、すぐに落ちた。


着水すると巻き上げた水飛沫が船全体に降り注ぐ、のだが水は見えない何かに弾かれ濡れることはなかった。


「激流コースお疲れ様でしたーマーチェスまで戻る方も一度降りていただくようお願いしますーあちらの小屋にお土産もありますよー」


船を岸につけると間延びした声で近くにある小屋を示すが、まだそこまで意識を向けていられない。


ようやく少し落ち着いてきた、さっきまでの激流が嘘だったように穏やかな流れだ、川のせせらぎを聞いている余裕がある。


後ろを見てみると滝があった、さっきの浮遊感はこれを飛び降りたのが原因のようだ。


終わればあっという間だったがこれは確かに洒落にならない。


「大丈夫?」


二人の様子を見てみるとラズリアは項垂れているが、シルヴァーグは普段と変わらない。


「あんまり……」


「先輩って、こういうの強いんすね……」


「こういうの慣れてるしね、ここまで揺れるとは思わなかったけど」


シルヴァーグが立ち上がり、続いてのっそりとした動きでラズリアが立ち上がり、シルヴァーグが私を抱き上げる。


二度やりたいとは思わないが、なかなか楽しかった。




-3-


物静かで、川のせせらぎや木々の揺れる音、遠くから聞こえる動物の鳴き声を聞きながら川を下るのはなかなか風情があっていい。


山を下り平野に出ると視界が一気に広くなった、川沿いには時折知らない動物が水を飲んでいる姿が見える。


川底が見える程澄んだ水面に陽の光が反射して輝いている。


そうして穏やかな川を下りマーチェスの北側に着いた、なかなか悪くなかった。


「お疲れ様でしたー今だとエデンフラウの花畑もおすすめですよー詳しくは観光案内をご覧くださいー」


全員が船から降りると恭しく一礼、低い魔動機の駆動音の後、飛沫を巻き上げながら上流の方に凄い速さで戻っていった。


戻るだけならあれでいいんだろう、風情も何もあったものではないが。


「エデンフラウなんて花、初めて聞いたけど」


「咲いてる時期短いっすからね、お昼食べたら行ってみます?」


さっきの店だが机ごとに備え付けられた七輪を使って自分で肉を焼く、完成された料理を持ってくるのではなく下準備された物をこっちで調理する店のようだ。


店には見慣れない名前の書かれた札がいくつも吊られていたが書かれているのは肉の部位の事らしい。


私はよく分からないから店側で何品か選んでくれている物を頼んだ。


シルヴァーグとラズリアもそれぞれ注文を終えしばらくすると薄く切られた肉の乗った皿が何枚か運ばれてくる。


それから四角い賽子状に切られた物、何やらよく分からない物と様々だ。


肉を焼き始めると店に入った時からずっとしていた美味そうな脂の匂いが際立つ、焼けるまでの時間が少し待ち遠しい。


「これはそろそろ大丈夫かな」


焼き色を確かめていたシルヴァーグが肉を一枚、私の皿に乗せてくれた。


「それだとタレにつけて食べるか、野菜と一緒に食べるか、その両方っすね」


どれにするか悩ましいが、悩んでいる時間も惜しい。


一緒に焼いていた軽く焦げ目のついた薄い葉を一枚を肉と一緒に挟み少しタレにつけ、一口で食べる。


美味い、肉だけでも野菜だけでも美味いには美味いだろうが、ここまでは至れまい。


特に美味いのはタレだ、少し辛いかと思えば僅かに甘さを感じさせるタレが肉の味を引き立てて、野菜の味を引き出していながら存在を主張している。


これだけでも飯のお供に困る事はないと確信する。


それからはシルヴァーグとラズリアに食べ方を教えてもらいつつ色々食べた。


軽く焼き色がつくぐらいが丁度いい物からしっかり焼いた方がいい物、飲み込み時が分からない物や独特な食感の物、色々食べたがどれも美味い。


「食べるペースが倍ぐらい違うんすけど!」


「ティル、食い意地凄いから……」


肉を焼くのに専念していたシルヴァーグは半ば諦めているようだった。



-4-


肉を食べ終え、地図を開いてみると右の方にその花の事が書いてあった。


一年のごく短い間だけ咲く花らしい、この花が咲き始めた頃に博覧会の開催を予告をするようだ。


「それっぽいこと書いてるっすけど全然そんなことないんすけどね、時期がたまたま被ってるだけっすよ」


嘘みたいだ、まぁ観光目的で来るのはそんな細かいことまで気にしないだろう。


場所はマーチェスを出て東側、小さな丘の稜線を越えた先に咲くみたいだ。


結構距離があるが近くまで向かう魔動機は今は運航していないらしい。


見に行きたい場合は個人で向かうか、組合に依頼として発注するのがいいと書いてある。


「じゃあ行こうか、運転する?」


「是非お願いします!何かデザート的なの食べてからにしないっすか?」


「確かに、すみません、ここってデザートありますか?」


「そっちの壁に吊ってるのがそうですね、アイスしか無いですし種類も少ないですけど」


そう言って壁際の方を指差してくれた、アイスの味は三種類、塩バニラ、フルーツ、チョコチップ。


「三人で別の奴にする?食べ比べれるし」


「いいんじゃないっすか?」


「うん」


丁度いいから三人でそれぞれ別の物を頼むことにした。


頼んですぐにアイスは来たのだが、前回の反省からか、ティルはかなりゆっくり食べていたのが少し面白かった。


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