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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
三章 ごく短い日常
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調査報告

-1-


三度ノックするが返事はない、呼ばれた以上中にいないなんて事はないだろう。


「……入りますよ?」


少し迷って確認しつつ扉を開けると丁度パイプを咥えている所だったようだ。


そのまま固まり、そのまま吸うか少し悩んだ様子で私を見てきた。


「お気になさらず」


「……吸いながらですみませんね、用件は何となく分かっているとは思いますがいくつか報告したい事があります、長くなるのでどうぞ掛けてください」


数度パイプに息を吹き込み指で火皿に軽く触れると深く息を吐いた、この前といい微妙に間が悪い。


この前と同じように浅く座り、アルナイルさんに体を向ける。


「では、調査の結果を報告させて頂きますね」


引き出しから数枚の報告書らしい紙、それから本を二冊取り出し、その一枚を眺める。


「名前はフィルスト・ダグザック、この街に住んでいた木こりの方です、年齢四十二歳独身、同業者や知人に聞いてみた所、口数が少ないし顔は強面だが良い奴、正義感が強く困った人を放っておけない様な人、少々亜人主義的な言動があった様ですが問題を起こしている訳ではないですね、十年程前にメルヴィアに移住届けが出ています、以前はマーチェスにいたようですね、木こりの職に就いたのもメルヴィアに来てからだそうです」


気にしないようにしていても、知ってしまうとどうしても気にしてしまう。


私が殺したフィルストと言う男の事、彼がいなくなった誰かの日常の事。


殺されるから、あいつが誰かを殺すと思ったから、だから殺した。


私が間違っていた、なんて考えたくもない。


「……続けますね、住んでいた部屋を調べてみました、掃除が行き届いている綺麗な部屋だったそうです、それと日記をつけていた様なんですが……」


話の流れに従って本を見えるように掲げる。


「つけ始めたのは十年前、メルヴィアに来てからのようですね、一番新しいのは調査依頼の二日前、酒に酔っ払った同僚を介抱した内容が書かれていました、調べてみると確かにその日一緒に酒を飲んでいた様です」


日記の中身を流し読みするようにぺらぺらと捲る、あの様子だと全部目を通しているのだろうか?


「いくつか調べてみましたが嘘が書かれている様子は無さそうですし他の誰かが書いていた物とは考えにくいですね」


日記を閉じ、一度パイプを咥え息を吐くとあまり匂いの無い薄い煙が部屋に流れる。


「報告されたのは以上……ですのでここからは私個人の推測となります、何かあればご意見を」


眺めている紙を別の物に変えると少しだけ言葉の印象が冷たくなったように感じた。


「少なくとも、貴方に殺される理由が見当たりませんが?」


分かっていたが、この件を追及されると私は何も説明できない。


あの場であったことを上手く説明出来るなら、私の気が触れたとかそんな所だろうか。


「……処罰が必要なら」


「現状情報が少なすぎるので保留とさせていただきます、何か、理由があっての事とは思いますが」


短く溜め息を吐くと声音を元に戻す。


「これが一番引っ掛かっているのですが、十年前より昔の記録が見つかってないんですよ、見つかるのはメルヴィアに来てからの記録のみ、何か見つからないかマーチェスの支部にもお願いして調べてもらいましたが成果は無し、普通生きているなら何かしら残るはずなんですがね、彼の場合それが十年前を境に途絶えています」


少し間を置くと


「メルヴィアに来る以前の事を調べようにも少しも分かりません、出身、家族、友人、知人、以前は何をしていたのか、ここまでしても何も見つからないのは異常ですね、何かの意図を感じます」


悪態付く様に短い溜め息を吐くと続けて


「調べ終えてから聞くのもなんですが……この件、調べるように頼んできたのは何故ですか?」


何故、母さんを見たから。


きっとあれは、フィルスト・ダグザックの記憶なのだと確信したから。


辿っていけば何か分かるような気がしたから。


あの森で見た事を説明すると興味深い様子で僅かに目を細める。


「なるほど……詳細を聞いても?何か分かるものがあるかも知れません」


あの時見えた物を順番に思い出していく。


確か大怪我をして、名前の分からない女の人がいた。


少しずつ話すことが多くなって、何か話せと言われて──


「……冒険者、だったはずなんです」


数秒の沈黙、お互いに納得の行く答えを探しているのだろうか。


何故そうなるのか、何故そうなっているのか。


「……一度整理しましょうか、一つ、貴方が見た推定フィルストさんの記憶、その中で貴方の母親の姿を見た、だから私に調べるように依頼した」


指を立て、これまでの話を順に振り返る。


「二つ、調べて出てきたのはメルヴィアに来てから事のみ、それ以前の事はマーチェスから来たという事以外一切不明、そして三つ、彼は冒険者だったはずだがその記録は出てこなかった」


三本の指を立て、簡単な整理を終えると短い溜め息を吐いた。


「ここまで情報が噛み合わないと言うのもおかしな話です、この場合前提となる情報が間違っている可能性もあるのですが……」


思案するように机に置かれた報告書を手に取り、僅かに目を細める。


「ともかく、誰かが何かを隠そうとしているようなそんな印象を受けますね、頼まれていた件は以上ですが個人的にもう少し調べてみようと思います、何か分かれば報告させて頂きます」


フィルスト・ダグザックの過去、それを見つけることが出来れば何か見えてくるはずだ。



-2-


「それから別件なのですが、貴方の保護した女の子……テイルスさん、でしたか?について調べてみたんですが、なかなか妙な事がわかりまして」


過去を探ってもらうように頼んだ後、ティルの両親についても探してもらう様に頼んでいた。


これはアルナイルさんにではなく、冒険者組合に依頼として処理されていたはずだ。


「近隣の村や街、少なくともアルティア国内には捜索届は出ていませんでした、着ていた衣服がエスリックの民族衣装に近い物のようなのでそちらを当たってみますが……」


また別の報告書を眺めながら、パイプを咥える。


「奇妙なのは身に付けていたものでして、無地の着物は普通出回っていないようですね、それから草で編んだサンダル、と言うだけ似たような物がいくつかあったのですが……その草が問題でして、魔力の影響を一切受けずに育った草みたいです」


「……どういう事です?それ」


「普通有り得ないんですよ、どうやったらそんな状態で育成出来るのか知りたいところですね」


あの森での事も、ティルの事も謎が多い。


「それと、サピの森に誰かが入っていたのかという件ですがそういう話は聞いていません、近隣の村にも確認を取りましたがこちらも同じです、つまりそれ以外の誰かと言うことになりますね」


誰か冒険者が入ったのかと思ったがそうではなさそうだ、冒険者なら記録が残る。


あのブロブが生まれた後、誰かがあの森に入っている。


なら誰が何の目的で、あんな所にまで?考えても何か分かるものでもない。


「考えているところ申し訳ないですが、話を続けますね」


また別の報告書を手に取り


「最近になって亜人の方が何人か行方不明になっています、少し前に実行犯らしいのを二人捕まえましたが動機や行方を聞いても知らぬ存ぜぬでして、何かしらの要求や声明も出ていません、至上主義関係の事件かは判断しかねますし、目的も分かりませんね」


これまでの話との繋がりが見えない、事実の羅列のように見える。


話を聞いて、またクリミナが何かやったのか、とも思ったがそう言うわけでは無さそうだ。


「……関係があるのかは不明ですがこの件でテイルスさんとラズリアさんが拐われそうになった様です、記憶の端にでも留めておいてください」


ラズリアは特に何も言っていなかった、心配させないようにだろう。


ティルは……そう言うことをわざわざ言ってきたりはしなさそうだ。


「それからこちらを、近い内にラズリアさんを連れてマーチェスまで向かって頂けますか、ダレンがそちらに用事があるようなのでその護衛という形になります、そろそろ遠征の経験も必要でしょうしね」


再度別の紙を一枚、私の方に飛ばしてくる、枚数的にもこれで最後だろう。


『マーチェスまでの護衛依頼』


メルヴィアからマーチェスへの移動の護衛を願う。


メルヴィア出発後はカンネースで一泊、そこからマーチェスまで向かう段取りとなる。


街の中では自由にしてくれて構わない、マーチェスでの滞在日時は不明。


基本給の他に有事の際には追加報酬有。


受注の際は営業時間中にマグダレン魔具店まで、詳細はそこで説明する。


募集は二名、期日は三日とする。



依頼書の下の方には店までの経路図と発注日が書かれている、今日持ってきた依頼らしい。


正直護衛の必要は無いと思うが、経験のない冒険者のためにこうやって依頼を出してくれてるんだろう。


私も最初の遠征はマーチェスだったような気がする、その時はマーチェスまでの荷物の護送の付き添いだったか。


遠征となると冷蔵庫の中を空にしないといけないか、ラズリアの分もあるなら一緒に鍋でもしようか。


荷造りはすぐ終わる、ティルの事はベルに任せる事になるか、二人で大丈夫か少し心配だ。


……マーチェスで調べれば、何か分かるだろうか。


「最後になりますが……あまり深入りしすぎないようにしてください、時間は掛かるでしょうがこちらの方でも調べてみますので」


私が何を考えているのか、透けているのかパイプを咥えながら念押しするようにそう言う。


「話したい事は以上になります、お疲れ様でした」

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