表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
三章 ごく短い日常
34/102

これから当たり前になっていく一日の終わり

-1-


「いらっしゃーい、ティルなら中で本読んでるよ」


「ん、こんな時間からで悪いんだけど色々お願い」


「お邪魔しまーす、ちょっと魔具の点検お願いしたいっす!」


報告を済ませて、シャワーを浴びてから来るつもりではあったが、報告書を作るのに手間取ってしまった。


調査した結果が不明瞭だったのが大きい、ラズリアと二人でよく纏めたと思う、色々と確認してもらう事も書き出して何とか纏まった。


それから丁度交代の時間だったせいでシャワー室が混んでいたってのもある、これは時間帯が悪かった。


「あいよー、まぁやるの私じゃなくてダレン爺だけどね、急ぐ?」


足元から平たい籠を取り出し机の上に置くとラズリアが腰に吊られていた柄に布を巻いてある剣と指輪をその中に入れる。


「急がないっすよ、また今度取りに来るっす」


「それとこれの事調べて欲しいんだけど、急いでないけど何か分かったら教えて」


ブロブが取り込んでいた刃を籠の端に置く。


「はいはい、じゃあちょっと待ってて、渡してくるから」


籠を片手に持つとすぐ後ろの戸を開け、雑に靴を脱ぎ散らかすとばたばたと奥に歩いていく。


丁度机に向かって本を読んでいるティルが見えた。


カウンターの裏に回り、一段高くなっている所に腰掛ける。


「何の本?」


聞くと開いたまま持ち上げて表紙を見せてくれた、『魔動機全般』と書かれた分厚い本だ。


見ただけで小難しい本だというのが分かったがティルが読んで分かるものなのだろうか。


「お、免許取るときに私も読んだっすよ、それ」


「……ここ、分かる?」


本を広げたままひっくり返し、分からないだろう箇所を指差す。


ラズリアもカウンターの裏に回り込むと私の隣から顔を近付け目を細める、ちなみに私は分からない。


「えーっと、魔力の反発現象……の所っすか?」


ティルが頷いて答えると教えるつもりだったのだろうが、果たして上がっていいものかと悩んでいるのがすぐ分かった。


「別に上がっても大丈夫だよ」


「あ、そうっすか?じゃあ失礼しまして……」


きちんと靴を脱いでから整えるとティルの隣に座る。


それから少しして奥の方からばだばたと音が聞こえてくると勢いよく扉が開いた。


現状を確認するように少し固まると視線をラズリアとティルに向けたままこっちに歩いてくる。


「これは少し予想外、ラズリアって魔動機詳しいんだ?」


「まぁ、そうっすね、はい」


「んー、シルバに店番任せて区切りのいいところまで教えようと思ってたんだけど、それなら閉め作業と明日の準備手伝ってくれない?」


短い嘆息で答える、別に断る理由もない、ラズリアが教えている間手持ち無沙汰だったから丁度いいと言えば丁度いい。


看板片付けるのと売上の計算、受け渡し予定の魔具やら武具やらの準備、その他諸々やることは多い。


とりあえず看板を片付けようと立ち上がると後ろの扉が開いた。


「さっき渡してきた魔具の持ち主に話がある、今度来たとき上がってもらえ」


「いや、まだいるよ、そこの子」


「……話がある」


ベルがラズリアに視線を送るとといつもと変わらない様子でダレン爺がラズリアに顔を向け短くそう言うと扉は開けたまま奥に引っ込んだ。


小さく会釈こそしたが初めてダレン爺に会うからか、明らかに緊張しているようだった。


ダレン爺の目付きが悪いのもあったし、まして自分に話があるとは思ってもなかっただろう。


「な、なんかしたっすかね、私?!怒ってる感じだったっすけど!」


「あれ普段通りだから気にしないでいいよ」


「じゃあ教える人交代ねー、奥の部屋にいるだろうから」


靴を履こうとしていたのを止め、やや棒読みでそう言うと四つん這いでティルの隣に座る。


理由が思い付かないラズリアが疑問符と不安を浮かべながら奥の部屋に向かった。


……上手いこと閉め作業を押し付けられた気がする。


-2-


結局内容のほとんどを理解出来なかったが、とりあえず覚えておく分には問題ない。


しかし何故そうなるのかがどうにも納得しかねる、感覚的にそうだ、と割り切るしかないのだろうか。


「切りもいいし、ここまでって事で」


ベルの教え方が悪いと言うわけでもない、ラズリアも同じような説明をしていた。


単純にこの本の内容が難しいという事だろう、この前貰った本をもう少し理解する必要があるか。


聞けばこの本は資格習得に必要な内容が書かれているらしい、ベルもこの本で勉強したのだとか。


さっきからシルヴァーグは何かの帳簿同士を慣れた手付きで見比べ、何かを書き足している。


それが一段落ついたからか、ベルが教えるのを終えたからか、作業を止めた。


「ここまでやってるから」


「残り少ないんだから最後までやればいいのにー」


「働け」


「へいへい」


帳簿を開いたままベルの前に押し出すと渋々と言った様子で今度はベルが書き始めた。


奥の扉を見てみるがラズリアはまだ戻ってこない、話している内容も想像つかない。


聞かれないようにしている事を盗み聞こうとは思わないが、少し気になる。


「孤児院、どうだった?」


手の空いたシルバが頬杖をつくと少し心配そうに聞いてくる。


どうと聞かれると何とも、どう答えた物だろうか、事実を言えばそれでいいか。


「ご飯美味しかった」


「あー……うん、良かった、シュミルが作ってるんだから当たり前か」


「仲良くなってる子いたから大丈夫と思うよ、なんと竜人の子なのです」


どう反応するのか困った様子だったがベルが割り込んできた、孤児院での人間関係について聞きたかったらしい。


ほとんどアカメと一緒にいたからどうとも言えないが恐らく問題ないだろう。


積極的に交流しようとは思わないが、嫌われていなければそれでいい。


「竜人?」


「竜の血が混ざってるんだとか何だとか、全然知らないけどね!」


「私もあんまり詳しくないけど、当の本人もこれだしね……」


「さらっと酷くなーい?」


丁度話が一段落付くと奥の扉が開きラズリアが出てきた、疲れた様子はない、むしろ楽しんでいた様に見える。


「おかえり、何の話?」


「いや、大したことじゃないっすよ、ほんとに」


嘘を吐くのが下手だったが誰もそれ以上は掘り下げなかった、わざわざ聞くようなことでもないだろう。


「じゃあ、そろそろ帰るよ、タイミング見失いそうだしね」


「あ、お邪魔しました!また今度取りに来るっす!」


「はいよ、何かあったら遠慮せずどーぞ」


今日は疲れた、ほとんどアカメに引っ張り回されていたのが原因だが。


これからはこれが当たり前になっていくのだろう。

やりたいこと、知りたいことはいくらでもある。


何かを考えるのはそれが無くなってからでいいだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ