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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
三章 ごく短い日常
33/102

孤児院での一日 午後の部

-1-


飯は美味かった、シルヴァーグの作ったものや店で食べたものと同じぐらい美味かった。


パンに付けて食べる料理だったが味はカレーに似ていた、というかほとんどカレーだった、それだけでも美味いがパンと一緒に食べると更に美味い、控えめな辛さが丁度いい。


以前食べていたものはもう少し辛かったが今回食べたのはそれほど辛くなかった、子供でも食べやすいような味付けだろうか。


アカメはカレーが好きらしい、一緒に食べているとそう話してくれた。


「お昼たべたらなにしよっか?まだ案内できてない所いっぱいあるよ?」


暗に案内したい、と推してくるが今日はそれでいいだろう。


これからここで過ごすことも多くなるなら、知っておいた方がいいのだが


「アカメー、中庭で球当てやるけど一緒にやる?」


「ううん、今日はテイルスにここのことおしえてあげるの!」


一度私の方を見る、初対面で話しにくいのか、アカメの方に顔を戻し


「ん、わかった、また今度ねー」


誘いを断ってまでやる必要も無いんじゃないかと思う。


別に案内されなくても最低限図書室の場所が分かっているならそれでいい。


「別に案内しなくてもいい、本読んでるから」


「だめだよ!一人はさみしいんだよ!」


「……わかった、じゃあ行こう」


何となく断る訳にも行かなくなった、渋々と言った様子で答えを返すと手を握り嬉しそうに自分勝手に歩き出す。


「うん!ちゃんとあんないするね!」


上手く言いくるめれば本を読めただろうが、その時はまた全文音読させられるだろう。


別にしてやってもいいが、二回目をやるのは堪える。


「ここがお料理する所!ご飯はここでつくってるんだよ」


「ここがお昼寝する所、しずかにしてないとおこられちゃうんだよ」


「ここが中庭!滑り台とか、ブランコとかあるよ!」


これで一階は一巡したみたいだ、見落としが無いか一回りした後玄関まで戻ってきた。


今は入り口の横に置いてある長椅子に二人並んで座っている。


「どう?ここのことわかった?」


「だいじょぶ、分かった」


どこに何があるか程度は分かったが分からないと言ったらもう一周されそうだ。


後は二階だがアカメの部屋がある、と言っていた、ここで暮らす者の部屋があるのだろう。


別に行く用事もない以上、知る必要は特に無いだろう。


「つかれちゃった?」


「ん、疲れないの?」


私の様子を見てか、首を傾げながら私の顔を覗き込む。


歩き回ったせいで疲れたが、アカメはそんな様子を少しも見せない。


「ぜーんぜん!たのしいことはどれだけやってもつかれないんだよ!」


同じ事を聞き返すと嬉しそうにそう話す。


「でも喉かわいちゃったからこっそりジュースのみにいこう?ご飯たべたところにあるから」


後ろめたさを感じているのか声を潜めそう提案する、察するに所謂悪巧みだろうか。


断る理由も特にない、実際少し喉が乾いている。


「ん、わかった」


「こっそりね!」


気持ち程度に忍び歩きだったり、曲がり角で警戒したりしていたがあまり意味はない。



-2-


「大丈夫?誰もいない?」


少しだけ戸を開けて中を覗くが人はいない。


二人で一緒に覗くと流石に邪魔だから私だけで覗いている。


心配そうに両手を胸の前で強く握り締めているが、そんなに心配する事か。


「大丈夫、誰もいない」


言葉をそのまま返すと音を立てないようにゆっくりと最低限の戸を開け静かに中に入る。


アカメもそれに続くとゆっくりと戸を閉める。


お互いに安心したように息を吐くと


「なんだかどきどきするね!」


声を抑えているが楽しげにそう言う。


改めて見渡してみると部屋の隅にシルヴァーグの部屋で見たような四角い魔動機があった。


その横に食器棚があるのだが、椅子を使わないとアカメや私では杯が取れない。


子供用の椅子だと高さが足りないか、大人が座っていた椅子を持ってくる必要がありそうだ。


丁度部屋の反対側にその椅子が二つ並んでいる、少し遠いが二人で一緒に運べばすぐだろう。


「あれ、運ぼう」


「うん、ゆっくりね?」


息を合わせて横歩きに、音を立てないように慎重に、それでいて少し急ぎ足に。


思っていた通りそれほど時間は掛からなかった。


どちらが椅子の上に乗るのかでお互いに一度顔を見合わせると私が乗るようだ、アカメは魔動機の方に向かった。


食器棚から杯を二つ手に取り椅子を降りるとアカメは透けた水差しを抱えてきた。


中には微かに橙色がかった水が入っている、ジュースというのはあれの事だろう。


足音が聞こえた、少し遠くからこっちに向かってきている、歩調から察するに子供ではない。


「……誰か来てる」


「え、嘘!こっち!」


辺りを見渡すが隠れられそうな場所はあまり多くない、机の下ぐらいだろうか。


アカメの後を追って二人で机の下に潜り込むが元々狭い上に二人分の尾のせいでかなり狭い、その上少し埃っぽい。


体をくっ付け、何とか収まった所で勢いよく戸が開いた。


「何で椅子がこんなところにあんのよ……」


愚痴るようにそう呟いたのはシュミルの声だ。


椅子を持ち上げるような音と少し離れたところに椅子を置くような音、椅子を元に戻したんだろうか。


それから少しすると窓を開け、何やら溜め息を吐いている様だった。


「シュミルお姉ちゃん、どうかしたのかな?」


気付かれないように声を潜めるが、外の様子が気になっているようだ。


「見てみる」


細心の注意を払って顔を覗かせ左右を確認する、シュミルは部屋の隅の窓を開け外を向いて巻き煙草を吸っている。


こっちに気付いている様子はないが出ていくタイミングが掴めない。


シュミルが出ていくのを待つか、隙を見て抜け出さなくては行けないか。


「へくちっ」


どちらにしようか考える前にアカメが小さくくしゃみをした、流石に今のは聞こえただろう、足音がこっちに近付いてくる。


「ご、ごめん!くしゃみ出ちゃった!どうしよう?!」


この段階からやれる事なんて無いと思うが考えるだけ考えてみよう。


大きく分けて二つ、ここに隠れているかここを出るか。


ここに隠れている場合はシュミルが気付いてないのを祈る。


ここを出る場合はシュミルがこっちに来ていないのを祈りつつこの部屋を出る。


……どちらにしても、前提が無理なんじゃないか?


「……何してんのよ、こんなところで」


全身がガチガチに固まったようにアカメの背筋がピンと伸びる。


声の方を見ると机に手を付き中腰で机の下を覗いていた、少し煙臭い。


「か、かくれんぼ!」


「ふーん?かくれんぼにジュースはいらないと思うんだけど」


「えっと、えっと……ごめんなさい!」


「はいはい、とりあえずそこから出ておいで」


咄嗟に出た言い訳はそれ以上続かず、頭を下げると水差しをシュミルに差し出した。


小さく溜め息を吐くと水差しを受け取り、机の上に置く。


前にいた私が先に出ると続いてアカメも出てくる、二人揃うのを待ってしゃがみこんで視線を私たちに合わせる。


「隠れてジュース飲もうとしてたでしょ?」


「……じゃあ、シュミルお姉ちゃんも一緒にのもう?」


「仲間に入れようとしないの、油断してるとすぐこれなんだから……さっきの椅子、二人のせい?」


何とかこの場を誤魔化そうとシュミルをこちらに引き込もうとしたが玉砕した。


しかし、さっきからどうにも


「……煙臭い」


シュミルに近付かれてから思っていた事を呟くとアカメはハッとした表情でシュミルに顔を近付けその匂いを嗅ぎ、僅かに眉をひそめると指差し


「またかくれて煙草すってたでしょ!」


決定的な証拠でも見つけたようで自信たっぷりに、さっきまでの立場が入れ替わった様子だ。


指摘されるとばつが悪そうに顔を天井に向け、何かを考えると答えが決まったらしく私たちの肩に手を置く。


「……よし、私は隠れてジュースを飲もうとしてた事を忘れる、二人は私が隠れて煙草を吸ってた事を忘れる、それでいい?」


「ジュース飲みたい」


「うん、一緒にジュースのもう!」


二人揃って詰め寄ると諦めたように手をひらひらとさせ


「はいはい、わかったわかった、一緒にジュース飲むのでいいのね……全く、臭い消す前にやられたんじゃどうしようも無いっての……」


ぼやく様に呟くと立ち上がり、食器棚の方に歩いていくと自分用の杯を一つ持って帰ってきた。


「一杯だけだからね」


念押しするようにそう言って、それぞれの杯に大体同じ量を注ぐとそれぞれの前に置く。


杯を手に取り、匂いを嗅いでみると甘い果物のような香りがする。


「かんぱーい」


そう言って私とシュミル、二人の杯に自分の杯を軽くぶつける。


ちん、と高い音が短く二度鳴ると三人揃って口を付ける。


果実の味をそのまま引き出しているような、そんな感じの味だ、これはこれで美味しい。


何より喉が乾いている時によく冷えた飲み物を飲むと美味さが引き立つ、身に染みる。


思わず吐息を漏らしてしまいそうになるのを抑えているとシュミルが杯を乱暴に机に置く。


「はい、これでおしまい、片付けとくから誰かに見つかる前に出ときな」


杯を渡すように手を差し出してきたので大人しく杯を渡す。


「はーい、じゃあいこ、テイルス」


「ん」


アカメに手を引かれ部屋を出る、部屋を出たところで


「はぁ、どきどきした、またやろうね!」


中には聞こえないよう少しだけ声を落として、楽しそうに笑みを浮かべるアカメに少しも反省する様子が無かった。


何だかんだで目的は果たせたから良かった。


「んー、これからどうしよっか?そろそろお迎えの時間だし……」


何かをするには中途半端な時間なのだろう、天井を見上げ思案する。


時間の掛かることは出来ないし、今から中庭に行って混ざるというのも少し違うか。


いつでも切り上げれて、今から初めても問題ないこと。


「何か話してよう」


「うん!何のお話しよっか?テイルスにきいてほしいこと、たくさんあるよ!」


それからは玄関でアカメの話を聞いていた。


この孤児院であったこと、街で買い物しているときにあったこと、嬉しかったこと。


私は相槌を打っているのがほとんどだったが、ベルが迎えに来るまでの間、話が途切れることはなかった。


迎えの時間、というのは親が迎えに来る時間、という事らしい。


その時間が近付くと玄関は少し騒がしくなった、迎えを待つ子供が玄関近くで待っているからだ。


玄関で話していると他の子供が迎えに来た親に呼ばれて抱き上げられるのを何度も見た。


何度かそれを繰り返すと玄関にいるのは私とアカメ、二人だけになった。


時折他の子供が廊下を通っていくのと、奥の部屋で何かしている数名、それから私たちだけだ。


「それでね、ロナお姉ちゃんがこう、ぐわーって!」


「何それ」


「ぐわーはぐわーだよ!こう……ぐわーって!」


身ぶり手振りで拙い説明を続けるがそれが少し面白かった。


そんな所で不意に扉が開いた、恐る恐ると言った様子ベルが顔を覗かせ、音を立てないよう静かに入ってくる。


「ティルー?いるー?」


「お姉ちゃん、わたしとおんなじだ!」


私が反応するより先に盛り上がっているアカメがベルに足元に駆け寄り、私はその後を追う。


「んー?あー……そうそう、おんなじだね」


何か言葉を選んでいるように悩んだ後、アカメと同じ言葉を繰り返した。


アカメを見て一瞬表情が曇ったが、何の理由だろうか。


「えっと、はじめまして!アカメっていいます!今日は、テイルスと一瞬にあそんで楽しかったです!」


「おぉ、ティルと遊んでくれてありがとね、じゃあ今日は帰ろうか」


ベルが私を抱き上げようとする前、アカメは私の手を握り


「またあそぼうね」


「ん、また」


これから何度も遊ぶ事になるだろう、その度に引っ張り回されそうだ。


不思議と嫌ではなかった、楽しんでいた、のかもしれない。


手を振って見送るアカメは少しだけ寂しそうだった。

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