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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
三章 ごく短い日常
32/102

孤児院での一日 午前の部

-1-


シルヴァーグ達と別れ、今はベルに抱えられて孤児院に向かっている。


乗り込んだ魔動機はこの前より乗っている人が多い、時間の問題だろうか。


尻尾が邪魔になるからか、ベルは私を座らせると席には座らず尻尾で体を支えて近くに立っていた。


窓の外を見ようかと思ったが、あの態勢は危ないとシルヴァーグに注意されたので今は止めておく。


孤児院に預かって貰う、とは言われたが結局どんな場所なのかあまり分かっていない。


「孤児院ってどんな所?」


気になってベルを見上げ聞いてみることにした。


「漠然としてて答え方に困るね、私も詳しくないけどティルぐらいの子がいると思うよ、この時期だと他の子の面倒とかも見てるのかな、長期休暇中だし……」


説明こそされたがあまり伝わってこない、他の子、と言うのは孤児院にいない子供のことだろうか。


他には何があったか、と捻り出そうとして少し考えると


「まぁ行けば分かるさ!」


諦めたのか説明するのが面倒になったのか、恐らく両方だろう、それがよく分かった。


少しだけ目を細めてベルを見た後、それ以上は特に反応も返さず大人しくしておこう。


そのまましばらく魔動機に揺られているとベルが私の肩を軽くつついた後抱き上げる。


「ほいっと」


シルヴァーグがしていた様に平たい皿に貨幣を置くと降りていく。


そのまま細い道に入り大きい建物の前で止まると中に入る様子はなくただ建物を見上げる。


「なんか緊張してきた、ここで帰っていい?夕方ぐらいに迎えに来るから」


再度目を細めてベルを見る、出来る限りじめっとした感じで。


「ダメだよねーそうだよねー……はぁ、よし、じゃあちょっと待って……覚悟、決めるから……」


「入り口で何してんのよあんたは、邪魔になるんだから入るなら入る」


ベルが深呼吸を始めようとしたのとほぼ同時、不意に横から声を掛けられた。


ベルが飛び退く様にして振り向くと目付きの悪い赤い髪の女が大きな袋を両手に抱えて立っていた。


少し顔を見た程度だったが確かシュミルと言っていたか。


「いきなり声掛けるとは無礼な、今覚悟を決める所だったのに」


「知らないわよそんなの、入るなら入る!ついでにドアも開ける!」


両手が塞がっているからか、顎でベルを急かすように動かす。


勢いに負けてか、大人しく扉を開けると気にする様子の無いシュミルが先に入り、未だに入ろうとしないベルを睨み付けると


「はいはい、入りますー」


気圧されて渋々入った。


奥の窓越しに見える部屋で何人かが机に向かって何かしている。


私たちが入ってきたのに気付くと一度視線を向け全員で顔を見合わせる、その内の一人が部屋から出てシュミルの側に寄る。


「おかえり、一人で大丈夫だった?」


「大丈夫じゃないけど手が足りてないんだから仕方ないでしょ、とりあえず荷物厨房までお願い、こっちの対応するから」


出てきた一人に荷物を預けると向き直り


「で、シルバから話聞いてるけど預かるんでいいのよね?」


「お話が早くて助かりまする、夕方ぐらいに迎えに来るから!それじゃ!」


私を降ろすと逃げるように去っていった。


「何をそんなにびくついてんだか……」


愚痴るように呟きベルの後ろ姿を睨むと私に視線を合わせるためにしゃがみこむ。


「ティルだっけ?今はとりあえず大部屋の方まで連れてくけど好きにしてていいから、他の子と喧嘩しないようにってのと勝手にどっか行かないこと」


「……本ある?」


子供に混ざるのはどうにも気が引けた、出来るだけ関わらずのんびりしていたい。


「大部屋にも少しはあるけど図書室もあるからそっちはまた後でね、読み終わったら元の場所に返すこと」


説明したいことは済んだのか、立ち上がると


「じゃあ、着いてきて」


私に歩幅を合わせて少し前をゆっくりと歩く。



-2-


大部屋らしい部屋についた、座敷の様になっていて一段低くなっている入り口に脱ぎ散らかされた履き物がいくつも転がっている。


かなり広い、走り回っても大丈夫なぐらいには広いし、実際子供の一団が走り回ってる。


他には何人かで話しているのと、ラズリアの部屋で見たようなので遊んでいるのが見えた。


遊びに使うだろう道具が入った箱が部屋の隅に置かれている、その横は本棚のようだ。


小さな子供でも取ることが出来る様にそう高くないのが二つ並んでいる。


「靴揃えろっていつも言ってんでしょうが!」


「ごめんなさーい!」


「つぎこそはー!」


大部屋に向け、そう怒鳴ると決して整えるつもりはないだろうけらけらとした声がいくつも返ってくる。


怒鳴りつつもきびきびとした動きで靴を並べていく姿が少し面白かった。


「……声掛けにくいとかだったら手伝うけど」


「だいじょぶ」


履き物を整えて脱ぎ、一団に巻き込まれない様に端を通って本棚まで歩く。


中を覗いてみるがこれまで見た本と比べて一冊一冊の大きさがかなり大きい。


とりあえず適当に一冊手に取り数頁眺めてみる。


『メルヴィア冒険記1』と表紙にでかでかと書かれた本だ。


表紙には主人公らしい人物がふんぞり返っている絵が書かれている。


「はじめまして!なにしてるの?」


本を読んでいると白いくしゃっとした髪で私より少し大きい色白の子供が声を掛けてきた。


額の中心から生えた尖った角、髪の色と同じ鱗を持った太い尻尾、それから瞳孔が縦に割けた赤い瞳が特徴的だった。


誰かに話し掛けられると思っていなかったが本を開けたまま表紙を見せる。


「わぁ、本よめるんだ、いいなぁ」


楽しそうに笑みを浮かべると私の隣に座ると本の中を覗き込んでくる。


「あ、わたしこの本よんでもらったことあるよ、えっとね、最後にこの人が街をつくるの!」


本の登場人物を指差し嬉しそうにこれからの展開を話された。


別にあまり気にしないが、読む気が少し失せた。


「他の子とあそばないの?」


そう言ってさっきから走り回っている数人の一団を指差す、子供らしくわーきゃー言いながら追い掛けあっている。


いや、今の私も子供なのだがどうにもあの一団と混ざるのはどうなのだろうと思っている、ずっと昔のように野山を駆け回っていた頃を思い出すだろうか。


何にしても端から見ればおかしい物でもないのだが、混ざるのは気が引ける。


「そっちは」


「わたし?お昼ご飯まで何しようかなって、本当は部屋のお片付けしてないとダメなんだけど、きたらしらない子がいたの!わたしアカメだよ、あなたは?」


「……テイルス」


少し面倒くさそうに自己紹介を返し本を閉じ元の場所に戻す。


シュミルも言っていたが本の種類が少ない、他の本を探すにも図書室まで行かないと駄目か。


「ねぇねぇ!はじめましてだったら、ここの事あんないしてあげるよ!」


横から私の手を握り顔を覗き込んで来るが何がそんなに楽しいのか、ずっと笑顔だ。


そのまま強引に私の手を引いて歩くと靴を揃え終えたのか、さっき走り回っていた一団にじゃれつかれているシュミルの元に向かった。


丁度良くシュミルが子供たちを追い返した所でアカメが後ろから裾を引っ張った。


「ん、どうかした?アカメ」


視線を合わせるようにしゃがみこむと僅かに首を傾げる。


アカメが胸の前で両手を握り締める、少しだけ緊張しているような様子だった。


「あのね、シュミルお姉ちゃん、はじめましてのテイルスにここの事あんないしてあげようとおもうの!どうかな?」


「うん、いいんじゃない?私がやろうと思ってたけどちょっと忙しいからさ、お願いしてもいい?」


「やった!じゃあいこ!テイルス!」


拒否権が無かったが結果に代わりはないだろう、何より拒む理由もない。


楽しそうに尻尾を大きく揺らしながら歩くアカメの後ろを歩く。


たまにはこういうのも悪くないか。


「ここがご飯たべる所!すっごく美味しいんだよ!」


大部屋を出ると楽しそうに指を差しながら廊下を歩いていく。


何の部屋なのか、それに対してアカメが元気良く一言言う、そんな感じの案内とも言えないような案内が続く。


「ここは先生がお仕事する所!何かあったらここにきなさいって!」


「ここはお勉強する所!あんまりきたことない!」


「ここが階段で上に私たちのお部屋があるの!反対側にもあるよ!」


「ここが本よむ所!ここもあんまりきたことない!」


先行するアカメはさておき、ここが図書室らしい。


中を覗いてみるが人はいない、奥側に棚が、手前側に長机が並べられている部屋だ。


誰もいない為か、明かりは点いておらず薄暗い。


壁にいくつか貼り紙がされているが遠くて何が書いてあるのかは見えない。


「あれ?本よみたいの?」


私が着いてきていていない事に気付いた様子のアカメが走り寄り首を傾げる。


「うん、ここまででいい」


そう告げ、中に入る。


中は結構広い、入ってすぐの場所に明かりを点ける為の装置があるが位置が高く、背を伸ばしても届きそうにない。


踏み台を持ってこようと奥に向かうと不意に部屋が明るくなった。


さっきの装置の場所を見ればアカメが明かりを点けたようだ。


「わたしも一緒によむ!」


「読めるの?」


「ぅ、じゃあよめないから一緒によもう?」


断りたいが食い下がられるのも面倒だ。


少し手間が増える程度だ、甘んじて受け入れるとしよう。


「わかった、読む本は私が決めるけど」


「やった!テイルス、ありがと!」


いきなり抱き付かれたせいで倒れそうになったが堪える。


案内してくれたのは助かったが、これから振り回されそうな、そんな気がしてならない。


とりあえずは魔法か魔具についての本、それがなければ適当な本を探そう。


「これよもう!さっきテイルスがもってた本!」


……断っておけばよかったか。



-3-


長い時間を掛けてようやく一冊読み終えた、書いてある文字全部を音読させられるとは思わなかった。


それに読む度に何かしら反応されていては読むのを止めない訳にもいかない、おかげで頬の辺りが妙な感覚だ。


内容はどうにも勧善懲悪的でつまらない、子供が読むような本と言えばそれまでだ、期待はしていない。


しかしラズリアの部屋で読んだ本と登場人物の名前がおおよそ同じだったし展開も見覚えのあるものだったが関係あるのだろうか、今度聞いてみよう。


にしても、一度読んだ本なのにもう一度読んで面白いものなのだろうか。


「同じの見て面白い?」


「うん、おもしろいよ?テイルスがよんでくれたのと、お姉ちゃんがよんでくれたのとでなんかちがったもん!」


漠然としているが、楽しんでもらえたのは少し嬉しかった。


一緒に本を棚に返しに行き、次の巻を手に取ろうとした所で図書室の戸が開いた。


「アカメが図書室にいるなんて珍しい、ご飯出来たから早く来なさいよ」


「わかった!あのね、テイルスが本よんでくれたの!」


入ってきたのはシュミルだ、ばたばたとした足取りでアカメが走り寄ると嬉しそうにその事を報告する。


しゃがみこみ、視線を合わせるとわしゃわしゃと少し乱暴に頭を撫でる。


「そっか、よかったね、それと案内ありがと、上手に出来た?」


「うん!まだ途中だけどちゃんとできた!」


ちゃんと出来ていたかどうかは疑問だが、本人の評価に任せるとしよう。


アカメの後を追い、その横に並ぶ。


「ティルもありがとね、一緒に本読んでれて」


頭を撫でようと伸ばされる手を反射的に払いのけると一瞬表情を強張らせた。


「他の子探すから先に行ってな」


特に気にした様子も見せずに立ち上がると私たちに先に行くよう促す。


飯か、アカメは美味いと言っていたがどの程度だろうか。


「うん!いこ!テイルス!」


またさっきの様に腕を引っぱられるが、今度は引っ張られる前に一緒に並んでやる。


なんとなく付き合い方が分かってきた。


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