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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
三章 ごく短い日常
28/102

流れた星を探して

-1-


こんな短い間にもう一度サピの森に来ることになるとは思わなかった。


立ち入りを禁止するように言ってくれているはずだから、次の日以降この森に入った人はいないはずだ。


この前と同じ入り口にトライクを停め、ラズリアが降りたのを確認すると私もトライクから降り格納機に仕舞う。


少し意識を向けてみるが森の入り口に違和感らしい違和感はない、とりあえずはこの前歩いたような道を辿ることになるだろうか。


「一応言っておくけど」


「無理しないように、っすよね、後は何かあったら言うってのとはぐれるな、でしたっけ?」


言おうとしていたことを先に言われた、この前森に入る前に言っておいたことをもう一度言おうとしたのだが覚えているならそれでいい。


「それと、危なくなったら下がるようにね」


言っていなかった残りの一つを付け加え、森を進んでいく。


多少整備された道を通って、その道が途切れるまで進む。


そのまま特に何も起こらないまま、道が途切れ申し訳程度の柵が置かれている場所まで着いた。


「今のところ、何も変なところ無いっすね」


ラズリアの言うように、この前来たときと様子に変わりはない。


「何かあるならここから先だろうしね」


重要なのはガルムの縄張りがどの辺りに移ったのかとその原因だ。


この森に何か異変があったのは間違いない、今回はそれを確認する必要がある。


「了解っす、にしてもいきなり指名で依頼されてびっくりしたっすよ」


柵の横を抜け、柵の反対側から私の方を見ながらそう言う。


「……表面上は前の仕事の続きだけど、他の人に任せるわけに行かないし」


ラズリアの通った方と反対側から柵を抜け、ラズリアを一瞥すると森の奥に向かう。


「何か理由あるんすか、それ?」


「変化があった時に気付きやすいって言うのと……隠したい事もあるし」


私の少し後ろを歩くラズリアに顔を向けないまま説明する。


ここまで言うと察しが付いたのか、続く言葉に言い淀んでいるようだ。


「あの、先輩……」


ラズリアの歩みが止まった、少し遅れて私も足を止め、体を後ろに向ける。


何かもやもやとした表情のまま、少し顔を俯けている。


何か考えているのか数秒の沈黙、遠くから聞こえる魔物の鳴き声がよく響く。


「あ、いや、やっぱり忘れてほしいっす、行きましょう」


取り乱した様子で顔を上げ、話を逸らすように少し早足で私の横を抜け後ろに回る。


何を言おうとしたのか、何となく分かるけど聞かれてもいないのにわざわざ言うことではないだろう。



-2-


この辺りは影響が少ないのか、この前見たような大人しい魔物の姿がいくつか見える。


「そう言えばなんすけど、スライムとかウーズとかブロブって何が違うんすか?」


辺りを見渡しながら、不意にラズリアがそんな事を聞いてきた。


「ほとんど一緒だけど大きく分けたら何を食べるか、スライムが植物、ウーズが屍肉でブロブが雑食」


殻や毛を持たない柔らかい半透明の体に、核と言われる部位を持ったスライム種と呼ばれる魔物だ、人や芸を覚えたりするぐらいには賢い魔物だ。


スライムはペットとして飼っている人もいるぐらいには無害な魔物で、特別な餌を必要としないから世話も楽らしい。


野生のスライムは湖や川等の水辺の近くにいる事が多いが、雨の多い地域だと水辺から離れた木の虚や葉の下を住処にしている種類もいる。


ウーズは基本的に狩りと言われる物をせず、他の動物の食べ残しや死骸を主に食べている、森の中に動物の死体がほとんど無いのはウーズが食べているから、らしい。


スライムとウーズは基本的に無害だがブロブは違う。


環境の急激な変化によって食性を大きく変えたスライム、ウーズのことでこの種だけは自発的に狩りを行う。


生き残るために何でも食べるようになるとかで、ブロブ化すると雑食性に変化する、消化出来ない物でも何でも取り込むようになる。


見境無く食事を行い周囲の環境を破壊するため、発見された場合は討伐対象となる。


スライム種の核は食材にもなっていて、干物や漬け物、刺身で食べる他にも、汁物や鍋に入れると出汁をよく吸って美味い。


「……まぁ、ざっとはこんなところかな」


一通りの説明を終え、一息つく。


「割とがっつりっすよ、それ」


「で、何でこのタイミングでスライムの話?」


説明していたときから不思議だったが、あまりに脈絡がなかったから気になっていた。


「いや、大したことじゃないんすよ、スライムかウーズか分かんないっすけど見掛けたんでちょっと気になっただけっす」


見掛けた辺りを指差すとそう答える。


そう言えばこの前のガルムの死体を処理していない。


思い出して、一つ以前とは違う点に気付いた。


「……違和感がない?」


確かこの辺りで魔力に違和感を覚えて確認したはずだがその違和感が無かった。


「ごめん、ちょっと周りの警戒お願い」


「何かあったら叩けばいいんすよね?」


「程ほどにね、よろしく」


目を閉じ、外側に感覚を向ける。


森の様子に違和感はない、近くにいくつか気配がある程度だ。


それはともかく、魔力に意識を集中させるが以前感じていた異物感はない。


前回から少し日が経ったから無くなってしまったのだろうか。


……根拠はないが数日経った程度で無くなるような、そんな物ではなかったように思う。


そうだとしたら、何か前回と状況が変わってしまっているようだ。


目を開け、一度深呼吸。


「あ、もう大丈夫っすか?」


「ん、ありがと、とりあえずティルがいた場所まで行こう」


「了解っす、草が倒れてるはずなんでそれ見つけて辿ってけば大丈夫と思うっすよ」


ラズリアの言うように辺りを少し調べて見ると強く踏みつけられたらしい草がかなりの間隔を空けて続いている、私が付けた物だろう。


「あの時凄い速さで行っちゃうから追い掛けるの大変だったんすからね、久々に全力で走ったっすよ」


「それはごめん」


急ぐ必要はあったが、反射的にやるべきではなかった。


あの時は確かラズリアに魔物避けを渡していたから探すことは出来たがそれでもだ。


「あれって魔法なんすか?」


原理は単純で魔力で加速しているだけだ、とはいえ慣れていないとバランスを崩して派手に転んだり、減速が間に合わなくて何かにぶつかったりする。


「魔力で体押してる感じ、魔法と言えば魔法かな」


簡単に説明しつつ、踏みつけた跡を辿る。



-3-


足跡を暫く辿ると視界が開けた、ティルのいた場所に着いたみたいだ。


ガルムの死体は見当たらない、他の魔物が持っていったか、ウーズが食べたんだろう。


「……なんか、壮絶なことになってるんすけど」


ラズリアの言うようにこの一帯だけ明らかにおかしい。


線を引いたように真っ直ぐに伸びた二つの地面の裂け目が最初に目につく、それぞれの裂け目の端には中程からへし折られた木々が見える。


……改めて見ると凄い状態だ、誰かに見られたら何があったのかと間違いなく聞かれるぐらいには。


「何があったんすか、これ」


「色々ね、周りの警戒は私がやるよ、足跡探してみて」


ラズリアの質問には答えず、掘り下げられないように急いで話を進める。


確か、あのミノタウロスは森の奥まで行ったと言っていた、無関係では無いだろう。


少なくとも以前のガルムの縄張りの辺りまでは行く必要がありそうだ。


「むぅ、了解っす」


さっき答えなかったからかほんの少しだけ不満そうにそう言って地面を凝視しながら練り歩く。


目的の足跡はすぐに見つかった、奥から向かってくる大きな足跡だ。


隠そうとしていないんだから当然と言えば当然だが。


「あ、これっすかね……あれ?」


「どうかした?」


何か引っ掛かったのか、首を傾げる。


「ちょっとついて来てほしいっす」


そのまま開けた場所の外周を回る、ぐるりと一周回って元の場所に戻ってきた。


その間ラズリアは忙しなく地面に何か無いか探している様子だった。


……あぁなるほど、確かにおかしい。


ガルムの足跡や他の魔物の痕跡、私とラズリア、ミノタウロスらしい足跡は見つけることが出来た。


「……ティルってどうやってここまで来たんすかね」


この場にいたはずのティルの足跡は見つからなかった、内側に少しあるだけだ。


捨て子か迷子、どちらかだと思っていたがどちらでもこれはおかしい。


捨て子なら捨てた誰かの足跡があるはずだし、迷子ならここに向かう足跡があるはずだがどちらも見つからない。


わざわざ痕跡を消しながらここまで来たなんて事もあるかもしれないが、それはそれでおかしい。


ラズリアは顎に手を当てうんうん唸っている。


「……考えても仕方ない、調査終わらせよう」


さっき見つけた足跡の辺りまで戻るが私の後ろを歩きながらまだ考えているようで


「……あ、空から降ってきたとかどうっすかね!」


「いや、どうなのそれ」


何故か嬉しそうに言うものだから思わず突っ込んでしまった。


横に並ぶと一度視線を下げ、私の顔を見上げる。


「足跡辿っていくんすよね?」


「魔物避け使っておくよ、ラズリアが持ってて」


やることはあのミノタウロスの足跡を辿ること、森で感じた魔力と同じ魔力を感じた。


何か関係しているはずだ。

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