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ナインテイルス ~異世界九尾語り~  作者: クルマキ
二章 私たちの選択
24/102

いつもと違う一日

いつもと変わらない時間に目が覚めた。


いつもと違う寝床でもその辺りは変わらないのだが二人並んで寝るには少し狭い。


そう言えばメイは一昨日ベットではなく床で寝たらしい、私が床で良かったのに。


寝る前にどうするのか聞いてみると恥ずかしそうに視線を逸らしたから一緒に寝ることにした。


眠くなるまで他愛のないことを話していたと思う、正直何を話していたかあまり覚えていない。


すぐ横で寝ているメイを起こさないように静かにベッドから下りようとしたのだが


「おはよ……?」


起こしてしまったらしく、薄目を開けてぼんやりとした視線を向けてきている。


「ごめん、寝てていいよ、何か作るから」


「んー……ありがと……」


そう言ってシーツを被り直した。久しぶりにメイと一緒に過ごす休みだ、ほとんど無計画だが何とかなるだろう。


昨日の残り──正確には一昨日のがまだ少しあるからそれで何か作ろう。


改めて冷蔵庫の中を確認してみるがまとまりがないせいで何を作るか悩む。


中途半端に残っているものを処分してしまおう、つまみに使った物ばかりだから朝食にも問題ないだろう。


私が何を作るかを決めたとき、扉を叩く音が聞こえた。


こんな朝から何か用だろうか。


最低限の身だしなみを整えてから扉を開けてみると組合の制服を着たメイと同じぐらいの歳の子が立っていた。


組合で見たことがあるからメイの同僚だろう、何となく用事を察する。


「あれ、お姉さん?メイいます?」


「今寝てるけど、何か用事?」


「えー、諸々の事情でちょっと人手が足りなくなりましてですね……ちょっとお仕事の方をですね……」


用件を聞くと視線を逸らし言いづらそうにそう言ってくる。


「……わかった、話しておくよ、ありがと」


「いえいえー、ゆっくりでいいのでー」


何と言うか、いつもこんなのだ。何かしようとするとお互いに何かしら間が悪い。


急いでないみたいだから、とりあえず朝御飯にしよう。


残ったものを適当にトーストに載せただけの簡単なものを作るつもりだが、まぁこれだけで良いか。




メイにさっきのことを話すと暫くの沈黙の後、かなり深い溜め息を吐いていた。


今は組合に向かって二人で歩いている。


「もう、ほんとにタイミング悪いよね、今日に限ってなんて」


愚痴るように言うと私の手を引いて少し前を歩く。


歩調を合わせて横に並び顔を見てみるとその割には不機嫌そうな顔はしていなかった。


むしろ、嬉しいとか楽しいとかそんな感じの表情だ。


「の割にはあんまり気にしてなさそうだけど」


「まぁ……うん、お母さんの手掛かりが見つかったって言うのが嬉しくって」


十二年探して、やっと見つかった記憶の中に見た母さんの姿。


もしかしたら、もう亡くなってしまっているかも知れない、それなら墓参りぐらいさせて欲しい。


でも、もし会えたのなら、一緒にこの街に戻ってこよう。


「デートはまた今度ね」


「……お姉ちゃんに改めてデートって言われるとすっごい恥ずかしい」


少し顔を赤くしながら頬を掻く。


「最初自分でそう言ったでしょうに」


「いやぁ、自分で言うのとはまた違いましてですね、そう言うの無い?」


他愛のない話を暫く続けていると組合が見えてきた。


メイが手を離し、少し前に立つと振り返り私を見上げてくる。


「じゃあ、いってきます、お姉ちゃんも頑張ってね」


「ん、いってらっしゃい」


そう言えば、メイにいってらっしゃいを言うのは初めてのような気がする。


小走りで去っていくメイの後ろ姿をゆっくり追いかけた。



-2-


することも無いから依頼書の貼られたコルクボードを眺めているとラズリアが隣に並んだ。


「おはようございます、先輩」


「おはよ、大丈夫だった?」


ラズリアに視線を向けるついで、後ろの方を少し見ると近くの席でティルがメニューを食い付くように見ていた。


「ちょっと問題もあったっすけど、大丈夫っす!」


「ならいいけど、借りてた本読み終わったけどいつ返したらいい?」


「おぉ、読むの早いっすね、今度取りに行くんでその時でいいっすよ、どうだったっすか?」


答え方に迷った、確かに面白い本ではあったのだが、私の読むタイミングが悪すぎた。


主人公はある街を拠点に冒険をしている男で、ヒロインはその街の酒場で働いていて男とは恋仲、という設定だ。


確か主人公が何度も一歩間違えれば死ぬような目に遭っている事をヒロインが知ってしまう、という所で終わったはずだ。


「中途半端な所で終わってなかった?」


「実は後一巻あるんすけど、それはまた今度持ってくるっすよ、いやぁ私も読んでるときはここからどうなるのか不安だったっすからねー」


なんで最初から全部持ってこなかったのかは聞かないでおく。


わざとではないし無意識なのだろうが、どうにも本の内容と間が悪い。


「ちょっといいかな?」


不意に私とラズリアの間から声が割り込んだ。今朝用事を伝えに来た子だ。


「ラズリアさんに用事がありまして、ちょっと受付の方までいいですかね?」


「あ、はい、大丈夫っす、じゃあ先輩、失礼します」


「ん、頑張っておいで」


ラズリアと別れ、メニューを見ているティルの隣に座る。


一度私の方に顔を向けるがすぐにまたメニューの方に視線を戻した。


「そんなに見なくても」


「どんな料理か想像するの楽しい」


楽しめているのならそれでいいとは思うが変わった楽しみ方をしているようだ。


「ちょっと話したいことがあるんだけど」


真面目な話をすると分かったのかメニューを置き、私を見上げる。


真っ直ぐに見つめられると何故だが緊張してきた、一度落ち着くために深呼吸。


「……ティルが良ければ、なんだけどさ、一緒に暮らさない?」


沈黙、何か考えているのかも知れないが表情があまり変わらないからよく分からない。


それが暫く続いて、もう一度メニューを見るのに戻ったかと思うと


「いいよ」


そう短く答えてくれた。


「うん、ありがと」


駄目だったら駄目だったで大人しく引くつもりだったが、受け入れられてよかった。


とりあえず今日はロナさんの所に行ってこのことを言わないと。


それからは服とか色々、ティルの分の生活用品を買い揃えて……やることはたくさんある。


「じゃあ、改めて自己紹介、これから一緒に暮らすことになるシルヴァーグ・フラットワーズ、よろしく」


「……フラットワーズ?」


私が名前を名乗るとメニューを眺めるのを止め怪訝な表情で私を見上げる。


「私の名前、この前は名字言ってなかったから一応ね」


再度暫くの沈黙、何か気になることでもあったのだろうか。


「……そう」


もう一度短く答えるとまたメニューに視線を戻した。



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